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ほんのちょっとだけGL的表現があります。

「ソラ!」


 馬を走らせながらそう叫ぶも、前で気を失っているソラからは何の返答もない。


 時折マカがまるでソラを奪おうとするように腕のようなものを伸ばしてくる。

 俺はダガーでそれを叩き切りながらゲパールの街を目指す。


 イブロによる強い追い風によって異常な速さでゲパールの街にたどり着くと、ゲパールの街はなんとかマカの侵入を防いでいるようだった。


 街の入り口には数人の男たちが武器を持って控えており、俺たちを見ると安心したように声を上げた。

 俺は馬を止め、イブロにソラを支えさせて馬を降りる。

 イブロは翼をしまいソラを背負おうとするが、いざという時に備え翼を出しておくよう指示し、ソラは俺が背負った。


「一体どうなっているんだ、急にマカがどうして」


 俺たちは街に入りそう男たちに尋ねるも、皆わからないと首を振った。

 

「そんなことより、ゲパール次期当主がなんとか結界を張ってマカの侵入を防いでいますが、それもいつまでもつか……」


 そう心配そうに村の男性が呟くと、村の奥から女性が叫びながら走ってくる。


「誰か! 誰か助けてください! ゲパール次期当主が!!」


 悲痛な叫び声の女性は目にいっぱいの涙をためている。

 その異常な様子にシャカルが急いで駆けつける。


「ゲパールの後継がどうしたんだい!?」

「わかりません、急に倒れられて! とにかくこちらへ!」


 女性に誘導されるままに街の中に入っていくと、街の中にはマカに当てられたのかちらほら体調が悪そうにしているものたちがいた。

 そんな民たちを横目に俺たちは進んでいく。イブロが強く拳を握りしめているのが目に入る。

 民を守れないことの不甲斐なさが、9貴族の後継として育てられた彼の自尊心を痛みつける。

 まだフクロウの時の名残か、長い爪が彼自身の手のひらに突き刺さり傷を残していた。

 

 背中で気を失っているソラも意識があったら、ここにいる全員を助けて回っただろうか、俺を助けたあの時と同じように。

 俺は背中から伝わるソラの熱を失うまいと意思を固めた。


「こちらです!」


 女性に通された部屋ではゲパールの次期当主が苦しそうにソファに横たわっていた。


「大丈夫かい?」


 シャカルが次期当主の横に膝をつくと、ゲパールの次期当主はゆっくりを目を開けた。

 その瞳は焦点があっておらず、ひどく体力を消耗しているのがわかる。


「シャカル様、すみません、次期当主ながら民も守りきれず……」


 ゲパールの次期当主は途中でゲホゲホと強く咳き込む。

 シャカルはその背中を優しく撫でながら、彼女の手を握る。


「俺も力を貸す! 二人分の風があれば!」


 イブロが身を乗り出して提案するのをシャカルは静かに首を振った。


「それじゃ一時的な時間凌ぎにしかならない。原因を突き止めないと、」

「でも、ここにいても原因はわからないぞ」


 俺がそういうとゲパールの民たちが息を呑むのを感じる。

 

「ここを見捨てるというのか!」


 イブロは俺に噛み付かんばかりに詰め寄る。


「やめろ!」


 イブロはそうシャカルに止められ不服そうに数歩後ろに下がる。


「どうか、シャカル様と皆様は動けるものを連れてお逃げください」


 発せられたゲパール次期当主の声は弱々しく、このままでは長くは持たないことを察する。

 しかし、と声を荒げるイブロに対してゲパールの次期当主は強い意志で続ける。


「私はゲパールの種と土地を守るのが役目です。逃げることができないものたちを置いていくわけにはいきません」


 彼女の強い意思がイブロに刺さる。

 それでもダメだ、と首を振るイブロに今度はシャカルの叱咤が響く。


「ここで次期当主を二人も失うわけにはいかない」


 俯いた彼の表情は見えないが、強く握った手のひらから血が流れ出ている。


 ゲパールの次期当主に寄り添っていた女性は大きな瞳からボロボロと涙を流す。

 静かに首を振る女性をゲパールの次期当主は優しく抱きしめた。女性は堰を切ったように声を上げて泣きゲパールの次期当主に縋り付く。

 女性に優しくキスを落とすと、周りの男性が女性をゲパールの次期当主から引き剥がす。

 数人の男たちが女性を担ぎ上げるようにして部屋から退出すると、ゲパールの次期当主は両目から一粒ずつ涙を流した。


 その瞬間、ピクリと背中のソラが動いた。

 目が覚めたのかと思いソラ、と声を上げようとしたほんの一瞬だけ視界いっぱいに焼け野原が映る。

 

「サーティどうした」


 バランスを崩した俺をイブロが気にかける。

 一瞬の幻覚のような体験だったが、俺の脳裏にはさっきの焼け野原がしっかりと残っている。


「火だ」


 俺は急いで背中のソラをおろす。


「サーティ何を言って、」


 シャカルはそこまでいうと何かに気づいたように目を見開き、イブロの腕を掴んだ。

 いまだに理解できていないイブロはシャカルに腕を掴まれて困惑している。


「灰に火はつかない」

 

 俺はきていたローブを脱ぎ、そのほか脱げるだけの服を脱ぐ。

 

「もうあまり時間がない、俺の火をお前が広げてくれ」


 俺の右手に炎が上がる。イブロは自分のやるべきことを理解したように目を閉じた。

 すぐにそよそよとした風が吹き、それは次第に大きな竜巻のように大きくなっていく。

 イブロが育てた風に右手をかざすと、一瞬にして地面を小さな炎が走っていく。

 その炎は瞬く間に街の外まで広がり結界の外のマカをじわじわと焼き始めた。


「一度火の影響を受けた土地は他の影響を受けにくい。一度サーティの炎に焼かれたこの土地にマカが侵入するのは簡単じゃないだろう」


 シャカルはゲパールの次期当主を安心するように伝える。ゲパールの次期当主は涙ながらにシャカルに感謝の言葉を述べていると、陛下、とイブロの声がした。

 ソラが目覚めたのかとその方向を向こうとした時、イブロの風以上の強い風が吹き、俺は両腕で顔を覆った。


 吹き荒れる強風の中、なんとか目をあけ両腕の隙間からソラをおろした方を見た。

 腕の隙間からイブロが見えた。イブロは風の影響を受けづらいのか、何かを見て言葉を失っている。


 イブロの視線の方をなんとかしてみると、金色の瞳と目があう。


 俺が忘れられなくて、ずっと待っていた金色がそこにはあった。

 俺は両腕で顔を覆うのをやめ、目が風で乾いていくのも厭わず求め続けた金色の瞳を見つめる。


「やっぱり、シエルだったんだな」


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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