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 太陽が顔を出してすぐ私たちは洞窟を後にした。

 しばらく歩くと人の道に出て、サーティとシャカルは安心したように胸を撫で下ろした。

 イブロは飛んでいる方が楽なのか、私たちよりはるか上の空をクルクルと回りながら飛行している。

 いまだに人の姿には戻れない。


「イブロのあれはいつ戻るの?」


 私はイブロを見上げながらサーティにそう尋ねる。


「本人に戻る意思があればもう解けるはずだ」


 斜めに差し込む太陽の光が眩しく、思わず太陽を右腕で隠した。

 サーティがそういうということは、イブロもフクロウの姿でいる方が楽なのだろうか。

 本人がその姿がいいと言うなら無理に人型になる必要はない。


「ずっと気になっていたんだが、そのイブロってなんだい?」


 シャカルがそう私に尋ねた。


「前名前を聞いたらないって」

「アタシたちは9貴族だよ? 名前なんて持ってないさ」


 当たり前だと言わんばかりのシャカルの態度に思わずムッとする。


「じゃあ、イブーの族長とイブロはどう呼び分ければいいのさ」

「分ける必要なんてないだろう? イブーもイブーの次期当主も」


 あっけらかんと言い放つシャカルの感覚が私にはわからない。


「9貴族は個じゃないんだ。 種族の全体だから、個を象徴する名前はない」


 サーティが横からそう補足するも、その感覚が掴めることはない。

 んー? と私が首を傾げる。


「まぁ、別に理解する必要はない」


 サーティは私を見て続ける。


「お前は地球で育った。そんなお前が俺たちの感覚を全て理解できると思っていない」


 言い放つ言葉は冷たいが聞こえる声は温かく、サーティの本心がよくわからない。

 まぁ、いいといっているのだからいいか、と半ば無理矢理に自分で納得する。

 サーティはいくぞ、といって足早に進み始めた。



 ーーーーーーーー

 太陽がだいぶ高くまで登ると、サブール砂漠入り口の街に着いた。

 街といってもイブーのそれよりは小さく、少し栄えた村程度だった。

 サーティは手際よく砂漠に適した馬を調達し、砂漠に入るためのいくつかの準備を整えたようだ。

 

 私とイブロはおとなしく村の中で1番目立つ建物の近くで待つことにした。

 イブロは私の膝の上に座っている。時々居心地が悪そうにイブロが動くとイブロの爪が肌に食い込んで少しだけ痛みを伴う。


 サーティとシャカルは準備を終えたのか、二匹の馬と荷物を持ってこちらに歩いてくる。

 二人で何か小競り合いをしているようだが、私にはその内容は聞こえない。


「今砂漠の風が弱いらしい、この調子なら今から出れば今日中にゲパールにつく」


 サーティはそう言うと荷物を馬に括り付ける。それが終わると手に何か紐のようなものを私に渡した。

 私がそれを受け取ると、サーティはイブロの首に首輪をつけた。

 つけた瞬間イブロがバタバタと暴れ周囲に羽が散らばる。イブロが暴れるとサーティに渡された紐にグイグイと引っ張られ、バランスを崩しそうになる。


「いいか、フクロウは砂漠では生きていけない、言いたいことはわかるな。」


 サーティは私に紐を強く握らせてそういった。

 イブロが心配ならそういえばいいのに、と思いながら私はうなづく。


 私は不服そうなイブロの頭を撫でながらおとなしくしててね、と言い聞かせる。

 そのやりとりを見ていたサーティは私の肩に厚手の革の防具のようなものをつけた。


「今のままだとコイツの爪が刺さって痛いだろう、これでいくらかマシになるはずだ」


 サーティの言葉を聞いたイブロは驚いたように、それ以上に申し訳なさそうに私の顔を覗き込む。

 余計なこと言わなくていいのに、と思いつつも実際痛みは感じていたわけで、なんともいえない感情を笑顔で誤魔化す。

 おいで、と自分の肩を叩くとイブロはそっと私の膝から肩に飛び移る。

 覚悟していた痛みはこず、掴まれた肩に爪が食い込む感覚もしない。


 大丈夫そうだな、とサーティは呟き砂漠の方へと馬を連れていく。

 そのサーティをシャカルが肘で小突く。何か気に触ることを言ったのだろう、サーティはシャカルを睨みつける。

 私はそんな二人の少し後ろをついて行った。



 ーーーーーーーー

「え、私がサーティの後ろに乗るの?」

「アタシだって元貴族よ? 誰かと相乗りなんてしたことないもの」


 てっきりシャカルの後ろに乗るものだと思っていただけあって、残念感が半端じゃない。


「なんでサーティの後ろは嫌なのさ?」

「だってぇ……」


 そう言って視線をサーティに向ける。

 サーティは男性でもちろん元軍人ということもあってガタイもいい。


「サーティの後ろじゃなにも見えないじゃない」


 前回の王都までの旅路でずっとレイの後ろに乗っていて気づいたことだ。

 一日中男の背中ばかり見ているのは正直言ってつまらない。


 サーティは大きなため息をつくと、私を先に馬に乗せ、自分は私の後ろに乗った。


「後から文句言うなよ」


 後ろからサーティがそう言うと、シャカルがヒューと冷やかし、イブロは後ろを向いてサーティを突いているようだった。


「いやー、シュナーベルが見たら発狂だね」


 シャカルは楽しそうにニヤニヤしながらこっちを見てくる。

 シャカルの楽しそうな意味も、イブロがサーティをつつく意味も私にはわからないが、こうして見晴らしよく旅ができるならなにも文句は言うまい。


 一気に上機嫌になった私を尻目に、サーティは馬を砂漠へと進めた。 


サーティとシャカルの小競り合い①

「アンタねぇ、いくらなんでも陛下を娼館の前に置いてくるなんて不敬罪だよ」

「不敬罪以上の罪を犯しまくっているんだから今更だろう」

「本当、イブロの爪がどうとかには気がきくのに、どうしてこうなんだい」

「うるさいな、お前の口輪もついでに買ってこればよかったか?」

「おー怖い怖い」

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