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「イブロ!」
見覚えのある翼に思わず自分で名付けた名を叫ぶ。
イブロの腕は私を自分の翼に隠そうとする。
「なんだ、イブーの雛鳥か」
私からサーティの姿は見えないが、サーティがイブロを煽っているのはわかる。
イブロの羽が逆立つのを感じる。
サーティから敵意がないことを私は知っているが、きっとイブーの族長伝いに私が刺されて拉致されたことを聞いたイブロにそれを信じろと言っても無理があるだろう。
「イブロ聞いて、」
私はイブロを止めようと口を開くも、彼の翼でくぐもった声しか出ない。
「親鳥より早く追いつくとはな、イブーはもう引退か?」
煽るのをやめないサーティにイブロの羽がどんどん逆立っていく。
「陛下は俺が連れ帰る」
イブロがそういうと、周囲に強い風が吹く。
「そうやって力で押し切ろうとすると、足元を掬われるぞ」
サーティがそういうと、イブロから苦しそうな声がする。
「サーティ!」
私がそう声を荒げるも、イブロから苦しい声が止まることはない。
「悪いが、まだそいつを連れ帰られては困るんでね」
サーティがそういうと、大きな翼が一瞬にして消え、足元には一羽のフクロウが横たわっている。
「イブロ!」
私は慌ててしゃがみこみ、フクロウを抱き抱える。
私には見えなかったがきっとサーティがやったのだろう、きつくサーティを睨みつけポーチに手を伸ばす。
サーティは私と私が抱えるイブロを見て自分の着ていた上着を投げてよこした。
「そいつを温めてやれ」
サーティにそう言われ、毒気が抜ける。そのおかげで少し冷静になれたようで、腕の中のイブロがひどく冷たいことに気づく。
「お前を探すために風の精霊に無理させたんだろう、じゃなければユグヌムからこの時間で俺たちに追いつくなんて無理だ」
私はサーティの上着をイブロにかける。さっきまでサーティが着ていたそれはまだ暖かい。
「ったく、いつも言葉足らずなんだから」
シャカルがめんどくさそうにそういうと、私の隣に座り込みイブロにそっと触れる。
シャカルの手は温かく、イブロの体が温まっていくのを感じる。
「このまま陛下を抱えて飛んだら城までの道中でコイツは死んでたよ。それをサーティは気づいたんだ。やり方は荒っぽいが、許してやってくれ」
シャカルはそういい、ポーチに伸ばした私の手にもそっと触れる。
私はポーチから手を離し、サーティの方を向く。
「これからは説明責任を求めるようにする」
その言葉にシャカルは大声で笑った。
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「日暮にはサブール砂漠の入り口に着くんじゃなかったのかい」
「イブー後継を温めるのに足止めを食らっただろう」
恨めしそうなシャカルの言葉にサーティはめんどくさそうに返す。
「野宿なんてアタシには向いてないよー」
シャカルはそう項垂れるも、あたりはすっかり暗くなり夜の移動はあまりおすすめできないことを悟る。
「水が調達できる川の近くで、でも目の前はだめだ。夜行生物が川に水を飲みにくるかもしれない」
サーティがそういうとふわりと風が吹く。
「こっち」
私は風が吹いた方向を指差す。
「根拠は?」
「なんとなく」
私の回答にサーティはため息をついたが、躊躇いなく私の指差す方向へ向かって歩き出す。
しばらく歩くと、水の音がしてその音は徐々に大きくなっていくのを感じる。
ある程度水の音が大きくなってきた場所で一つの洞窟を見つける。
サーティが中を確認する。
「動物の巣穴のようだな、今はもう使われていない」
サーティがそういうと、シャカルは水を汲みにでた。
私は洞窟の中にイブロを置いて薪を取りに行こうとするが、サーティに止められる。
「お前はここにいろ、こいつが目覚めた時お前がいなければ何をするかわからない」
サーティはイブロを見てそう私に伝えると、燃やせる物と食べ物を探してくると言って洞窟から出ていった。
私は地面に座り、イブロを膝の上に乗せる。静かに規則正しく胸が上下するのを確認して、少しだけ安心する。
少しだけ温かくなった翼をやさしく撫でると、翼がピクピクと動き、フクロウの瞳がゆっくりと開く。
「起きた?」
私の声を聞いて意識がはっきりしたのかイブロは暴れた。
しかしシャカルが起きたら絶対暴れるからと言ってサーティの服で身動きがとれないぐらいぐるぐる巻きにしたので、私の腕から抜け出すことはできず、おとなしく諦める。
「私を探すために無茶したんだって?」
イブロが返事できないことをいいことに私はフクロウに話しかける。
イブロは私から視線を逸らす。
言葉が発せないフクロウと想いのほか自然にコミュニケーションが取れていることが面白くつい笑ってしまう。
イブロは嘴でサーティの服を突こうとする。
「もう暴れない?無茶しない?」
「ここからお前を抱えて城まで飛んだらこいつは死ぬからな」
洞窟の入り口からサーティの声がして、私はその方向に視線を向ける。
サーティは腕にいっぱいの木の枝を抱え洞窟に入ってくる。抱えた木の枝を地面に置き、火をつける準備をはじめた。
「じゃあ連れて帰られそうになったら必死に抵抗しなきゃね」
私はフクロウの眉間を優しく撫でる。イブロは気持ちよさそうに目を瞑ってそれを受け入れる。
私はサーティの上着を解き、イブロを自由にした。
くそ、と小さくサーティが悪態をつくのを聞き、サーティの方を見るとうまく火が大きくならないようだった。
それを見たイブロがトコトコと火に近づくと、サーティが起こした小さな火がたちまち木の枝に燃え移った。
イブロはちょうど良いサイズまで育った火をみると、ふん、と鼻息を鳴らし私のもとまで戻ってくるとの膝に飛び乗った。
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