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私が妖精、なんて言ったからだろうか。
サーティは大きなため息をつくと、ガシガシと頭を掻いた。動く髪が太陽の光を反射して光る。
シャカルは絶望したように両手で顔を覆っている。
「お前のおかげで今いる場所はわかった」
「迷っているという現状は変わらないけれどね」
サーティに続いてシャカルがそうぼやく。
サーティの近くにいる妖精はモルフォチョウのような青く綺麗な羽を羽ばたかせ、楽しそうにサーティの周りを飛び回っている。
「綺麗……」
私がそう呟くと、何を勘違いしたのかサーティが顔を背ける。
お前じゃない、と口を開こうとしたときだった。
『嬉しい!』
サーティの周りを飛んでいた妖精が勢いよくこちらに飛んでくる。
『褒められた! 嬉しい!』
妖精はそう言いながらクルクルと私の周りを飛び回る。
「しゃべった!」
私が大声を出すと、サーティとシャカルは驚いたようにこちらを見る。
「何がしゃべったんだい?」
シャカルが不思議そうにそう尋ねる。
『そいつらには私たちは見えないし、声も聞こえないのよ』
わたしの周りを飛び回る妖精とは別の妖精が目の前に現れる。
よくよく見てみると、妖精は他にもいてみんなが私の様子を伺っている。
『ジラフとか言う種族の族長が私たちを見ることができるけれど、あなたは私たちの声まで聞こえるのね!』
そういうと妖精の一人が嬉しそうに私の頬にキスをした。
『あぁ! 愛しい愛しい夜の幼な子! こうしてあなたに会えてとっても嬉しいわ!』
私の周囲を飛び回っていた妖精がそれを見てずるい!と騒ぎ立てる。
その妖精は私の瞼にキスをする。
そのやりとりを遠巻きに見ていた他の妖精達も私の方へ飛んできて、額や指先、体のいたるところにキスを落とす。
あまりのくすぐったさに身を捩ると、シャカルが不思議そうに私を見た。
「ソラには何が見えているんだい?」
「妖精みたい、たくさんの妖精が私の体中にキ、」
キスをと言おうとしたところで頭の上から腕が伸び、強引に顎を上げられる。
視線が上を向くと、小さな妖精とは違う、綺麗な顔立ちの男性が私の背後に立って見下ろしている。
淡い、溶けてしまいそうな金色の長い髪が私の顔に落ちる。
『これ、妖精の祝福中に他の者と話をするでない』
そう男性がいうと、ゆっくりと顔が降りてくる。男性の唇がゆっくりと私の唇に触れる。
あまりの衝撃に脳の思考が止まる。周りの小さな妖精達がその淡い金髪を引っ張り、その唇が名残惜しそうに離れていく。
再度視界にその綺麗な顔が映ると、今自分がされたことを理解し、顔が赤くなるのを感じる。
『長さまずるいの!』
『ずるい!』
周囲の妖精達が騒ぎ立てるも、オササマと呼ばれたその男性は気にも留めていないようだ。
その男性は私の顔に自分の顔を近づけたまま続ける。
『愛しい夜の幼な子よ、そなたに免じて、この者達が森にした無礼を水に流そう。道を開けてあげるから、迷わずに人の世へ帰りなさい』
その男性は愛しそうに私の頬を撫でる。
『ふむ、それともそなたを私の妻にするかな』
いたずらっこのように微笑み私の額にキスを落とす。
嵐のような出来事に私が固まっていると、楽しそうに男性は笑いパチンと指を鳴らす。
すると今まで腰丈の草で埋め尽くされていた周囲に一本の道が伸びてくる。
『その者達に教えてやってくれ、草一本ですら私のものだと』
男性はそういうと徐々に輪郭がぼやけていき、後ろの木々が透けて見え始める。
「ありがとう! あと、森を荒らしてごめんなさい」
私が慌ててそういうと、その男性はとても穏やかに微笑んでゆっくりと消えていった。
気づけは周囲の妖精達もいなくなり、あたりはすっかりと静かに静まり返っている。
「何があったんだい?」
シャカルが心配そうに私の顔を覗き込む。
今起こったことを言うのも恥ずかしく、シャカルを適当にあしらう。
オササマと呼ばれていた彼が教えてくれた道を進もうと、私は立ち上がった。
「これは借りとくね」
地面に捨てられたサーティのダガーを拾い上げる。
刃の部分にはカバーが付けられており、私はそのまま腰とベルトの間にダガーを差し込んだ。
「どこにいくんだ」
サーティにそう問われる。彼にはこの道が見えないのだろう。
私は簡単に妖精達が道を教えてくれたことだけをサーティ達に伝える。
「後、もう草を切っちゃだめ」
私が最後にそう付け加えると、シャカルが嫌そうに、この草の中を進むのかい、とぼやいた。
「また道に迷うよりはいい」
サーティは諦めたように息を吐いた。
あっさりと私の言ったことを信じるサーティに拍子を抜かれ、信じるの?と思わず聞いてしまう。
「信じなくてもこのままだとこの森で餓死するだけだからな」
「まぁ、そうね」
私は後ろでぶつくさ言っているシャカルに行くよー、と声をかける。
ウエストほどまである草は私が進むとふと姿を消す。きっと妖精のまやかしのようなものなのだろう。
だがシャカルとサーティにはちゃんと実在する草に見えるようで、私より背の小さいシャカルは胸下までくる草がかなり鬱陶しいのか眉間に皺をよせながら歩いている。
逆にサーティはあまり気にしていないようで、草なんてお構いなしに私の後ろをついてくる。
しばらく歩くと、人か獣の道に出たのか背の高い草が捌けていき徐々に歩きやすくなってくる。
鬱蒼としていた木々も減っていき、太陽の光が増えたのかさっきの場所よりだいぶ明るく感じる。
完全に草を抜け、地面が見えると立ち止まりふぅ、と短く息を吐く。
「お前、そんなものどこで拾ってきたんだ」
サーティにそう言われ、彼の視線の先をみると自分の腰に何やらポーチが装備されていた。
自分でつけた記憶がないので、不思議に思いポーチの中を開いてみると、そこには地図とコンパス、少しの干し肉らしきものなどこの先必要そうなものと先ほど拾ったサーティのダガーが入っていた。
「いたく妖精に気に入られたようだね」
シャカルはそのポーチを見て言った。
「妖精は気に入った者に贈り物をするのさ」
「詳しいんだね」
「草原の領域の種族は妖精の森の管理も担っているからね」
シャカルは少しだけ寂しそうに笑った。
「なのに、お前は率先して森を荒らして怒りを買ったわけだ」
サーティがそういうと、シャカルは言い返す。
「ユグヌムからジョーヌまで転送されるとは誰も想像できないだろう!」
シャカルの言い訳をサーティははいはい、と受け流す。
私が見てもわからない地図とコンパスはサーティに渡し、ここから先の案内は彼に任せる。
「今ジョーヌの森を西に抜けたところだからこのままいけば日が落ちるまでにサブール砂漠の入り口にはつけるだろう」
いくぞ、とサーティが言った瞬間、太陽の日差しが何かで遮られる。
空を見上げると大きな翼が勢いよく降りてきて、私とサーティの間に降り立った。
私を守るように視界いっぱいに美しいフクロウの翼が広がる。
「陛下は返してもらう」
成人してだいぶ経つとR15とR18の境目がわからなくなりますが、キスはR18ではないことは確かなはず。




