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イブロとイブー族族長が城の入り口に降り立つと、兵士二人が一礼し城の門を開ける。
入ってすぐのロビーにはレイとロザ、ヴォルフが族長とイブロを見た。
二人がソラと一緒でないことを確認すると、ヴォルフが眉間に深く皺を寄せた。
「陛下は見つからなかったのか」
ヴォルフの声に二人とも押し黙る。
「この雨ではイブーは飛ぶのもやっとなことぐらいリヒター閣下だったご存じでしょう」
ヴォルフのイブーに対する態度にロザは不機嫌を露わにする。
一触即発の空気の中、沈黙を破ったのはイブロだった。
「すまない、精霊たちにもソラを見つけたら伝えるよう頼んでおく」
そういうとイブロはその場を立ち去ろうとする。
イブロの翼からはポタポタと水が滴り落ち、足元には大きな水たまりができている。イブロ自身も重たい翼を背負い続けているせいか、ぐったりとしている。
ヴォルフはそれを見ると我に帰ったように大きくため息をついた。
「こちらこそすまない、今のは八つ当たりだ、忘れてくれ」
ヴォルフはそう言ってイブロの翼に手を近づける。
ヴォルフの手の周りが赤く光ると一瞬でイブロの翼から雨水が消え去った。ヴォルフは同様に族長の翼も一瞬で乾かす。
「今温かいものを用意させる。客室で休んでいてくれ」
ヴォルフがそういうと、ロザはレイの腕を掴んだ。
「お前は医務室だ、その火傷をなんとかするぞ」
レイはおとなしくロザに腕を掴まれたまま医務室へ連行された。
ーーーーーーー
「跡には残りませんが、しばらくは痛みを伴うかと」
医務室でそう医師に言われるも、レイの反応はほとんどない。
「おい、聞いているのか」
ロザが声を荒げるも、レイは先ほどと同様に反応を示さない。
痺れを切らしたロザが胸ぐらを掴み上げる。
医師が慌ててロザを止めようとするも、ロザはレイを離さない。
「いつまでも腑抜けてんじゃねぇ、俺の知っているシュナーベル・レイラーはこんなことでいつまでも凹んでるやつじゃねぇぞ」
ロザの怒鳴り声にレイはぴくりと反応する。
そしてロザを睨みあげた。
「“こんなこと“だと? ソラが刺されて拉致されたことのどこが“こんなこと“だ」
レイの深い緑色の瞳が強い怒りを宿す。
ロザはそれに怯むことなく、さらに強く胸ぐらを掴み上げる。
「あぁこんなことだね! サーティはあの場で陛下を殺すことはできたはずだ。どれだけじゃない、そもそもお前と互角のサーティなら、陛下に初めて会ったあの場で殺すことだってできた。陛下を殺せる絶好の機会をあの男が2度も逃すわけがないだろう」
ロザは一呼吸おいて、レイを落ち着かせるように少し声のトーンを落としていう。
「サーティの目的は陛下を殺すことじゃない。陛下はまだ生きている」
ロザは手の力を緩めレイから手を離す。
そのままレイはその場に座り込み、両手で頭を抱え込む。
「目の前にいたのに、」
その続きの言葉をロザは聞き取ることができなかったが、レイの気持ちはロザに痛いほど伝わる。
ロザはヴォルフに呼ばれ現場についた時、赤黒く変色した血を目にして全身の血の気が引くのを感じた。
その場でソラが刺されたのを目撃したレイの心中は、言葉にしなくてもロザには容易に想像できた。
医務室のドアがノックされ、兵士の一人が医務室の外から声をかける。
「リヒター閣下よりご連絡です。手当が終わり次第大会議室に集まるようにと」
兵士はそういうと一礼しその場を去った。
兵士の連絡をきたレイは頬を思いっきり叩くと立ち上がり、医務室のドアへと向かう。
正気を取り戻した親友の姿にホッとしたロゼは何も言わずにレイの後に続いて医務室を退室した。
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