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 自室のベットに座って、サーティのことを思い出す。

 あの後、サーティはそうか、とだけ言ってその場を去っていった。


 夕食も入浴も終えて、すっきりとした頭で明日の決闘のことを考える。

 頭まで布団を被り目を閉じて、初めてサーティにあった時のことを思い出す。

 生まれて初めて受けた本気の殺意、自分のすぐ横に刺さった両手剣の重み、うるさく鳴り響いた自分の心拍。

 

 事細かに思い出して一つの疑問が湧いた。

 

(そういえば、どうしてあの時サーティは身を引いたんだろう)


 布団を取り去りボンヤリと目を開けると、あの時とは違って暗い部屋では目もすぐに順応する。


(レイもサーティの強さは認めているようだったし、あの場で引かなくてもレイもろとも殺しておけばよかったのに)


 今回の決闘も、真剣は使わないとか、膝をついたら決着とか、当初の殺意とは真逆の対応に疑問が湧く。


(勝って王位継承権を譲り受ければいいってこと?)


 そこまで考えて頭を振った。

 考えてもわからないことは考えない主義だ、相手がどうであれ、私は明日の決闘でただ黙ってやられる気はない。


 不意に窓を見ると、月明かりの影になった大きな翼が見えた。

 私はベッドから起きかがり、カーテンの隙間から窓の外を見る。


 ベランダでこちらを見ていたのはイブー族の青年だった。


 ゆっくりベランダの窓を開けると、その青年はベランダに降り立ち翼をしまった。


「すまない、夜は人間は寝ているんだったな、起こしてしまったか」


 そう心配する彼に、首を振って答える。

 さっきまであった翼は背中から綺麗に消え去っている。


「翼、どうして消しちゃうの」

 

 私がそう尋ねると、青年は優しく微笑みしまった大きな翼を再度広げて見せてくれた。


「綺麗…」


 月あかりに照らされた翼はとても綺麗で、つい口から漏れ出てしまった。


「普段王都では正式な場所以外では翼は見えないように魔法をかけているんだ」


「どうして」


「人はみな、自分と違うものを受け入れ難いだろう」


 そう答える青年は当たり前だ、と言わんばかりに表情を変えず微笑んでいる。

 触っていいか尋ねると、青年は一瞬驚いたようだったが、そっと翼をたたんで私に触りやすくしてくれた。

 優しく羽に触れると滑らかな触り心地が気持ちいい。

 

「こんな時間にどうしたの?」


 私は彼の羽を撫でながらそう尋ねる。

 いや、と言葉を濁す彼に、私は少し笑ってしまう。


「最後だからって何か話すことでも?」


 少し意地悪してそう続けると、青年は少し申し訳なさそうに頬を掻いた。

 青年は私を見ると、前と同じように私の前髪にそっとふれ、スッと左に流す。

 普段軽く目にかかる前髪が左に流れ、なんとなく右目の視界がクリアになった気がする。


「村のもの以外皆が怖がるこの翼を、父上の村一番大きな翼を立派だと誉めた人間をもう一度見ておきたくて」


 そう答えた彼の翼は言われてみれば族長のものより一回り小さく感じるが、触れる羽の手触りは心地よく、手を止められない。

 よく手入れされていることが伝わってくる。


 黙々と撫でつづける私を見て、青年はくすぐったいな、と笑った。

 私はそれを聞いてしつこすぎたか、と手を引っ込める。

 しかし青年はベランダの床に座ると続けて、と言わんばかりに私の手を握り自分の翼に置いた。

 私もその隣に腰をおろして、再度その綺麗な羽を堪能することにした。


 満月より少しかけた月が、そっと私たちを照らしている。

 しばらく彼の翼を撫で続けていると、明日は早いんだったかと彼が話し出す。

 青年は立ち上がると、翼を大きく広げ、ベランダの柵に乗る。


 お別れを察して私も同様に立ち上がる。

 青年は振り返って私を見つめた。


 何か言わないと、このまま飛び立ってしまいそうで、私はふと彼の手を掴んだ。


「名前は?」


 驚いている彼にそう尋ねると、彼は小さく笑って、皆次期当主と呼ぶよ、と答える。

 そうじゃなくて、と続けようとした時、彼は優しく私の手を握り返した。


「君が名付けて、好きなように呼んで」


 月あかりが逆光になって彼の表情が読めない。

 思ってもなかった回答に、少し困惑してしまう。

 彼が握る力が少し弱まった瞬間、私はイブロと呟く。

 

「族名と近い方がいいでしょ」


 私はイブロと名付けた青年の顔を覗き込む。

 良い名だと言った青年の声色からして気に入ってくれたようだ。 


「俺はまだ族長ではないから、明日の決闘に同席はできないけれど」


 満月から少しだけかけた月が雲で隠れ、あたりが徐々に暗くなっていく。


「この翼を綺麗と誉めた人間が国王になることを祈っている」

 

 イブロはそういうと握っていた私の手のほんの爪先に口付けると、大きな翼を羽ばたかせて飛び去った。

「精霊たちが告げ口しにきたぞ、陛下の部屋に行くなど、バレたらことだ」

 ベランダに降り立ち、そっと部屋に入ろうと窓をあげると、窓際には腕を組み仁王立ちした父上が立っていた。

「羽は渡してないよ」

 そう答えてベッドに寝転ぶ。

 自分の村とは違い、人間用に作られたそれは自分の翼には優しくなく、仕方なしに翼をしまおうとする。

 しかし、その翼にはまだ彼女のぬくもりが残っているような気がして、それがどうにも名残惜しく、ゴロンと寝返りを打ちうつ伏せになる。


「渡しているようなものだろう」

 そう頭を抱える父上の声は俺には聞こえなかった。

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