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ロザが報告したのはユグヌムから北西、ゲパールという種族の街を超えた先の砂漠にマカと呼ばれる聖域があり、サーティが足を運んでいるという情報だった。
どうやらそこには遥か昔神話の時代、神が悪き魔物を封じた場所であるらしい。そこに行くと自身の力が強まるんだとか。
(パワースポット的な何かかな?)
「サーティほどのやつが行くような場所ではありません、何か裏があるとしか」
ロザがそういうと、レイは何か考えるように黙り込む。
「明日の決闘には9貴族の立ち会いもある、下手なことはしてこないだろう」
ヴォルフも自分にそう言い聞かせるように呟く。
「全くみなさま、陛下の不安を煽るだけなら退室くださいな」
ライレがそういいながら机の上に新しいお茶をおく。
ふわりと優しい香りが漂う。
「気持ちが落ち着くハーブティーを入れました、どうぞ」
ニコリを笑うライレに私も微笑み返す。
昨日まで自分のせいだと自身を責めていたライレと変わって、何か決心がついたような、そんな感じだ。
さあさ、出ていって、とローリエに背中を押され、レイとロザは部屋から退室する。
陛下、と最後まで部屋にのこった男の声を聞き、その顔を見上げる。
その男は私の目をしばらく見つめると、その男は頭を下げた。
「すまない、ライレを助けてくれた恩人に、俺は何も返してやれない」
悔しいという感情がヴォルフの声を通じて伝わってくる。
きっと眉間に深く皺を刻んで唇を噛み締めているであろう顔は容易に想像がつく。
「私、負けたらどうなるんだろう」
「決闘に負けたら相手の要求の飲まなければならない、あいつのことだ、王位継承権を、」
そこまでいうとヴォルフの声が止まる。
「あぁ、そしたら追い出されちゃうのか」
あっけらかんとしていう私に、ヴォルフは息を呑む。
そして堰を切ったように私の肩を掴んで叫んだ。
「あなたは! まだ子供で、何も知らされずこんなところに…! なのに…!」
ヴォルフの手が震えているのを感じる。
この男にはきっと、この年の女が居場所がなくなった先など容易に想像できるのだろう。
私はヴォルフ、と名前を呼びながら肩に置かれた震える手にそっと触れる。
「大丈夫、私、負け戦は嫌いだから」
ーーーーーーーー
ヴォルフが退室した後、私は軽く昼食をとり城内をふらついていた。
城の廊下から見える、中庭らしきところではレイと同じような軍服をきた数人が鍛錬に励んでいる。
(兵士って、鎧みたいなのきた人ばかりじゃないんだ)
「いつでもどこでも鎧を着て行けるとは限らないからな」
予想していない声が背後から聞こえ、距離をとって振り返る。
昼間の高い太陽がその男の銀色の髪を反射し、キラキラと光る。
何もとってくったりしないさ、と言いながら廊下と中庭を区切る柵にもたれかかり、中庭の兵士たちを見つめる。
その瞳の赤色は私の目には優しさの色に見えた。
私はその瞳の色に毒気を抜かれ、サーティの横に並んで中庭を見つめる。
「お前は、あいつらの命に見合う価値があるのか」
偶然にもその問いは今朝、自室の窓から兵士を見ながら自問したものによく似ている。
サーティの表情のわからない今、その言葉の真意はわからない。
「お国のためだと命を投げ出す彼らに、お前は」
「ない」
最後まで待たずに放たれた私の言葉に、視界の横で銀色が揺れるのが見える。
「この世に簡単に奪っていい命なんて、簡単に預かっていい命なんてどこにもない」
中庭の兵士たちの声が聞こえる。
剣と剣がぶつかる音、土をふむ音、兵士が倒れる音。
この音の全てが、彼らの生きたい証拠だ。
誰かのために死にたい音じゃない、誰かを守って生きたい音だ。
自室の窓からは聞こえなかった、彼らの生きたいという叫びは私の心に強く響く。
「これだけの命に見合う価値なんて誰にもない」
私はゆっくりをサーティの方を見る。
「それが私であれ、あなたであれ」
その言葉にサーティの赤い瞳が大きく揺れたように見えた。
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