12
「ライレ!」
医務室のベッドに座っているライレの元へ急ぐと、医者らしき人物がヴォルフガングに何か耳元で伝えている。
それを聞くなり、ヴォルフガングはライレの脚にそっとふれ、何かを念じるように目を閉じた。
彼の周りを淡いブラウンの光が包み込む。ヴォルフガングはゆっくりと目をあけると同時に光は消えていった。
ライレは優しく微笑みヴォルフガンクの頭を撫でる。ヴォルフガングは俯いたまま唇を噛んだ。
私には訳がわからないまま、お通夜のような空気が流れる。
陛下、と落ち着いた声でライレは私を呼んだ。
「短い間でしたが、私はあなたにお仕えすることができて幸せでした」
ライレは私の手を優しく両手で包み、優しい目で私を見つめる。
「どういう、」
「ヴォルの力でも治らないの?」
私が全てをいう前に、ローリエが声を上げる。その瞳には溢れる前の涙が溜まっている。
ヴォルフガングが俯いたまま頭を振る。
訳がわからない私にレイが小さい声で説明してくれた。
「ライレは右足に呪文を受けて動かなくなったんです。ヴォルは土の精霊と契約していて、この城の中では最も解呪に長けていますが、そのヴォルでも解呪できないとなると……」
レイは詰まった言葉の先を私は容易に想像できた。
「何それ、そんなこと、どうして」
私はあまりの衝撃に言葉を上手く紡げない。
「同じ国で、同じ人間で、どうして」
「同じ人間ではないからですよ、彼らにとっては」
医務室の扉の方から声がする。振り返ると、イブーの族長とその傍に少し若い同じく翼を携えた青年が立っていた。
族長とその青年はライレに近づき、ヴォルフの代わりにライレに触れた。
「どうだ?」
「かなり強い呪文ですね、俺一人ではなんとも」
族長と青年は何やら話をしている。族長は苦い顔をし、青年は私を見つめた。
「陛下の魔力を借りることができれば、もしかしたら」
青年がそういうと、ヴォルフガングは俯いていた顔を上げた。
「ライレの脚は治るのか?」
「おそらく」
青年はゆっくりと私に近づく。
「私なら、なんでもする」
青年の水色の瞳を見つめ返しそう告げると、青年は良い眼だ、と言って私の前髪に触れた。
すると、ふわりと心地の良い風が吹いた。シャラン、シャラン、と音がする。
いろんな方向からする音に戸惑っていると、青年は俺たちにしか聴こえていない、と教えてくれる。
「風は全てを消してくれる、岩や木々を風化させるのと同じように。土より分解する速度は遅いが、風は力を増幅するのも得意だから」
そう青年がいうと、風強くなり窓際のカーテンを靡かせる。
「想像して、風によって火が炎へ変わるように、漣が大きな津波へ変わるように」
青年が私の目を手のひらでそっと覆う。
強い風が吹き、窓がガタガタと音を立てる。ローリエの小さい悲鳴が聞こえたが、青年に集中して、と促された。
強く木々の擦れる音がする。たなびくカーテンの音が大きくなり、窓だけではなく医務室のドアも大きく音を立てる。
肩にポンと手を乗せられて、もういいよ、と言われる。
ゆっくりと目を開ける動作と同じように風も勢いを落とし、穏やかなものに変わっていく。
目を開けると、ライレの右足は何事もなかったかのように動き、それを見たヴォルフガングは強くライレを抱きしめた。
私は遠のく意識の中でその光景を強く目に焼き付けた。
(よかった、)
最後まで読んでくださりありがとうございます。




