第13話『急襲』⑥
金属的な音声を発しているが、目の前の怪人は間違いなく自分の父だ。姿形は違えど、雰囲気や腕を広げた構えを見ると、血の繋がっている優には父の気配が感じられる。相手から向かって来る気はないようだが、ゆっくりと摺り足で距離を詰めて来ているのはわかる。受けが得意な事は承知しているが、こちらから仕掛けるべきなのか……
と思案していた隙を突いて、マインズが低空のタックルを仕掛けて来た。マスクは感知したが、身体の方がスピードに付いていけず、優は組み伏せられた。総合格闘技で言ういわゆるマウントポジションを取られ、マインズに上から覗き込まれるような体勢となってしまった。
「一瞬の油断が仇となったな」
「くっ……」
しっかり腰の辺りに体重を掛けられて容易に抜け出せそうにない。相手からすれば殴り放題の上、関節技や締め技にも持っていき易いので絶好の体勢だ。
「行くぞ」
マインズが拳を振り下ろしてくる。優は咄嗟に顔面をガードしたが、相手は脇腹に小刻みにパンチを当てて来た。マインズの尖った拳が身体の奥まで突き刺さりそうな衝撃だ。慌てて打ってきている相手の腕を捕えようとするが、今度は逆にその右腕を捕えられた。このまま腕ひしぎにでも行かれたら、右腕が使い物にならなくなる。優は身体を揺らし、左手で右手の指を掴み、何とか防御姿勢を保った。しかし、マインズの狙いはその先にあったようで、スッと掴んでいた手を離すと、肘から下の部分を優の喉に当てがって来た。窒息させるつもりだ。
「優、しばらく眠れ。起きた時には全て終わっている」
「ぐぐぐ……」
言い返したくても喉を塞がれて言葉が出ない。体を揺すってバランスを崩そうとするも、マインズの体重の掛け方は絶妙で、容易に脱出出来そうにない。父はこちらの意識を奪って、軟禁でもする気のようだ。
「先輩っ!」
マスクの通信機能を通じて咲の声が聞こえてくる。喋れなくて応えられないが、お陰で意識を繋ぎ止める事が出来た。
「諦めろ、優」
マインズが喉を潰すように力を掛けて来る。このまま失神させるつもりだろう。しかし、次の瞬間、その身体は後方に吹っ飛んでいた。
「へっへっへ。マッハパンチ」
優は立ち上がり、右拳を前に出す。彼は下からマッハパンチを食らわすと共に、その勢いでマインズを
跳ね除けたのだった。
「そのような脱出手段があったか……」
「単純な格闘の技能では父さんに敵わないかも知れない。だが、俺にはこのSINOBIスーツがある!」
優は分身して4体となってマインズに飛び掛かる。さすがの父もこれには面食らい、優のパンチを受けた。さらに4人の優がマインズを追撃する。のけぞった相手に前蹴りを放ち、さらに4つの右拳が顔面を狙う。
しかし、その四撃は空を切った。マインズの姿が消失したのだ。瞬間移動だ。不意に四人の背後に現れたマインズが全員を薙ぎ払うような回し蹴りを放つ。大きなダメージではないが、四人の優が吹っ飛ばされた。分身が解けて、優は一人になった。
「俺のスーツの能力同様、そっちにも瞬間移動があったか……」
「優、強くなったな。こんな技を使わねばお前と渡り合えんとは」
「いつまでも子供扱いされては困るね。今日はカイゼルさんがウォーグを倒す日なんだ。俺も父さん、貴方を今日超える!」
「面白い、やってみろ、優!」
マインズの仮面が一層笑みを濃くしたように見えた。優は余裕を持たれている気がして、心中穏やかでなく、その笑い顔を睨みつけた。その心理を見透かされたのか、マインズはマスクを強烈に発光させ、優は目を眩まされた。
「まだまだ甘いな、優」
マインズが一気に距離を詰めて、頭を優の腹に当てると、身体を持ち上げて飛行機投げした。地面に転がる優。目が戻らない内に追撃が襲い来る。マインズの小刻みなパンチが優の急所に面白いように入る。
「先輩、右っ!」
頭に咲の声が響き、優は咄嗟にパンチをかわした。
「先輩、私がスーツのコントロールを貰います。一度こっちにください」
「しかし……」
「考えている場合じゃないでしょ、早くっ!」
「わ、わかった」
優はスーツのコントロールをリモート化し、咲に身を委ねた。まるでゲームのように咲が遠隔操作して優の身体を操る、そんな感覚だ。視界を奪われた今、唯一考えられる対抗手段だった。
次に繰り出されたマインズのパンチを優の身体はかわした。いや、かわすと同時に右拳を相手のテンプルに命中させていた。少し浅かったが、
「何っ」
のけぞるマインズは驚きの声を漏らす。しかし、ひるまずに再度攻撃を繰り出してくる。優の目はまだ回復していない。だが、驚くべき事に、マインズの攻撃全てにカウンターで反撃した。威力はさほどではないが、マインズの猛攻を跳ね返している。
「ど、どういう事だ……」
あの冷静な父が間違いなく動揺している。
「咲、お前は凄いな」
スーツに身体を操られながら優は呟く。
「先読みして、威力を押さえた攻撃を当てているだけです」
「遠隔操作でそんな事が出来るだけでも十分凄いぞ」
「でも大きい攻撃は無理ですよ、先輩の身体に負荷を掛けちゃいますし」
「十分だ」
「目が戻ったら、すぐに先輩に戻しますから」
そう伝えて来た咲は優の身体を身構えさせた。
「不可思議な技を使いおる……。今までのお前にはなかった動きだ」
「これも父さんの知らない俺さ」
「成長を認めざるを得んという事か……」
父はさすがに懲りたのか、踏み込んでは来ない。その間に優の視力は回復した。
「咲、OKだ。後は任せろ、助かったよ」
「はい。頑張ってください」
優は小さく呟き、咲に指示した。程なく全身が弛緩するような感覚があった。リモートコントロールが解かれたのだ。
「来ないならこっちから行くぜ」
優はダッシュして距離を詰める。前蹴りがマインズの胸に命中し、相手を後ろにのけぞらせた。チャンスとばかりにさらに突っ込んで
「マッハパンチ!」
右ストレートで必殺技を叩き込むが、またもマインズの姿が消失した。
「くっ」
「優、何故、先程の待ちの戦術を貫かなかった。攻め気の相手など、逆に全く怖さを感じないわ」
背後に現れたマインズがスリーパーホールドを仕掛けて来た。完全に虚を突かれ、両腕のロックで首を絞められた。優は暴れるが、外せそうにない。
「わかってくれ、優。俺はお前を殺したくない。ウォーグ様に挑めば間違いなく、お前は殺される」
「そ……んなもん、わかってたまるかっ」
優は苦悶を浮かべながら叫ぶと後ろ手でマインズの身体を掴み、思いっきり転倒した。この勢いで締めが解かれた。すぐに起き上がった優は、体勢を立て直す為、一度距離を取った。
「今のお前が私を受け入れられないのは百も承知だ。しかし、それでも我が子を失いたくないのだよ」
「そんな変な顔で言われても全く説得力はないね。俺は父さんが相手だろうが、ウォーグを倒す方に賭ける」




