第13話『急襲』⑦
「そうか、この道化の仮面がお前の気持ちを硬化させていたか。ならば……」
マインズは仮面を外した。その下から現れたのは久しぶりに見る父、迫川巧の顔であった。
「父さん……やつれたな」
「こんな事をしていれば、普通の顔などではいられん」
その言葉の通り、父の顔には苦悶とも言うべき相が浮かんでいた。何かに苦しんででもいるのだろうか。
「そんなになっても罪の意識はあるのか?」
「もはやわからん。しかし、何を置いてもやらねばならん事がある!」
父の形相は凄まじいものに変わった。優が今までに見た事のない顔付きだ。
「そんな顔になって……やらなきゃならない事って何なんだ」
「それは言えん。お前が知る必要もない」
「……やっぱりここで父さんを倒すしかないって事だな」
「そう受け取ってもらって構わん」
両者共に身構える。親子の血がなせる業か、不思議と同じ構えになっていた。期せずしてこのような形になった訳だが、優は逆にこれで動けなくなった。仕掛けた方がやられる可能性が高いように感じた為だ。
「どうした優、来ないのか」
「俺が動けない理由、父さんもわかっているだろう」
「そうだな……」
会話から察するに、父も同じ事を考えているようだった。
「確かにこのままでは動けん。だが……」
そう呟いた瞬間、父の姿が消えた。
「瞬間移動か!」
優が察した時には既に背後からの一撃を食らっていた。いや、一撃どころではない、マインズは現れては消えるヒット&アウェイ的な戦法を繰り返し、次々に優を打ちのめした。
「さすがのお前も手も足も出んようだな」
「くっ……」
悔しさに歯を食い縛るが、高速の変則攻撃に手も足も出ない。死角からの打撃が矢継ぎ早に襲い来る。
「む……」
マインズのパンチが命中したところで今度は優の身体が消失した。スーツの力で透明化を使ったのだ。
「なるほど、こんな対処法があったか」
マインズは首を振って周囲を見渡すが、優の姿は影も形もない。そこへ見えない一撃が左頬を捕らえた。吹っ飛ぶマインズに、優の透明化攻撃が襲い掛かる。今度はマインズがその場から消えてこれを回避した。お互いに見えない相手に見えない攻撃を繰り出す形になり、埒が明かない様相を呈してきた。
「優、これではお互いに消耗するだけだ。お互いに瞬間移動と透明化を解き、正々堂々と戦わんか」
父が渋い顔で提案してくるが、優は反論した。
「いや、次は俺が攻撃を当てる。このままでいい」
「何だと、強がるのもいい加減にしろ」
「強がりかどうかは結果を見てみるんだな、父さん」
透明の優が襲い掛かると、やはり父は瞬間移動してそれを避けた。だが、次の瞬間、優は逃げた先を追尾してパンチを浴びせたのだった。
「何だと……」
「もう俺に瞬間移動は通用しない」
「へらず口を……」
と言い掛けた父に、見えない拳が再度打ち込まれる。それを瞬間移動でかわした行き先に、またも優は付いて行った。蹴りが腹部に命中し、父が苦悶の表情を浮かべる。
「何か……掴んだか。どうやらまぐれではないようだな……。大した力を身に着けたものだ」
透明な優の姿を探す父は、さすがに焦っているようだった。
「優秀なサポーターのお陰さ」
姿なきまま語る優の声を頼りに徒手空拳を振るうマインズだが、捉える事は出来ない。サポーターとはもちろん咲の事だ。優が父の瞬間移動を捕まえる事が出来たのは、咲の発案によりマスクで熱感知をした為だった。たとえ瞬時に姿を消したとしても、現れる瞬間には体温を持っている。そこを狙い打ちにするのが二人の作戦だった。
成す術のない父は身構えつつもしばらく考え込んでいるようだったが、おもむろに口を開いた。
「優、どうやらお前を本気で殺すつもりで戦わねばならんようだな」
「今まで本気じゃなかったと言うのか」
「本気は本気だったさ。だが、私は何とかお前を生け捕りにしたいと思っていた」
「戦いにおいて、そんな考え方は甘いんじゃない?」
「そうだな。どうしても加減や手心や加わってしまう。だから、そんな甘い心は捨てる」
その時見せた父の冷たい目付きに、優は衝撃を受けた。これもこれまでの人生で見た事がない表情だった。
「優、お前は全宇宙と自分の息子を天秤にかけるとしたらどちらを取る?」
「なっ、いきなりそんな訳のわからない問いに答えられるかよ」
「俺はその問いに今答えなくてはならない。だからお前を倒す」
「俺と……宇宙が天秤にかけられているというのか」
優は激しい口調で問うが、父は黙して答えない。
「父さんっ」
「問答無用っ! まずは見えないところから引き摺り出してくれるわ」
父は懐から何かを取り出すと、それを勢いよく振るった。
「ぐうっ」
父の振るったモノが見えない優に命中し、痺れるような衝撃を受けた。
「これならば見えなくても周囲を薙ぎ払えるからな。もっとも我が子を電撃鞭で折檻するような真似はしたくなかったが……」
そう言って再度父が再度鞭を振るうと、青白い輝きと共に透明な優に命中した。全身が麻痺しそうな感覚を覚え、優は膝を突いた。同時に透明化も解けてしまい、その姿を晒してしまった。
そこへ再度電撃鞭の一撃が繰り出される。何とかかわそうとする優だが、身体が痺れており思うように動けず、鞭が首に巻き付く。
「ぐううっ……」
「こんな拷問を息子に与えるのは本意ではないが、忠告を聞かない以上、致し方あるまい」
父が呟くと共に鞭から電流が流れ、優の身体にショックを与える。全身に焼かれんばかりの痛みが走る。鞭は蛇のように首に絡み付き、両手で外そうとすれば電撃が流れ、それを妨げた。意識が遠のいて行きそうな衝撃だ。




