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第13話『急襲』③

「正面から……ですかね、やっぱり」

 入口の自動ドアを前にして優が呟く。外から見ている限り、中は暗く、人がいるようには思えない。


「ああ、そうする他ないな。ここに発信機の反応がある」

「いるんですかね、奴らが」

 優は身構えた。


「今からそんなに力んでどうする。さっきの戦いでも言っただろ、冷静に力を抜く事が大事なんだ」

「は、はい。そうですね」


 優はカイゼルがゴリラをあしらった様子を思い出していた。確かに極端な緊張や力み過ぎは戦いにおいて、マイナスとなる要素だ。武道を嗜んでいる優にはそれが実感としてわかる。ただ、ゴリラのような強敵を前にした時、平常心を保てるか、そこが大きなポイントだ。ゴリラを上回るウォーグやマインズを相手にそんな戦い方が出来るか、優の度量が試される場面だろう。


「ボーッとするな。行くぞ」

「は、はい」


 カイゼルは見回した後、自動ドアに身体を近付け、開いたガラス戸から中に入り込んだ。優もそれに続く。まだ昼過ぎだが、外から見えていた通り、中は照明も点かず薄暗かった。スイッチはあるようだが、明るくするのは得策ではないだろう。優はマスクを装填して、暗視スコープで周囲を見渡した。特に人影のようなものは見当たらず、気配も感じない。


「誰も……いないみたいですね。少なくともこの入口付近は」

「そのようだな」


 カイゼルも仮面の目の部分を光らせて周りを見回していた。とはいえ警戒を解く訳にもいかず、二人は忍び足で歩を進める。


「用心しろよ、近くに奴らがいるのは間違いないんだ」

「ええ」


 確かに近くに生体反応はない。だが、カイゼルの言う通り、何か厭な雰囲気だけは感じる。廊下を進んで行くと、研究室が並んでいる。『速水研究室』の前で二人は立ち止った。


「何かあるとしたらここですかね」

「うむ。まずは調べてみよう」


 鍵は掛かっておらず、ドアは素直に開いた。中は廊下同様暗かったが、優は暗視スコープで8畳程のスペースに打合せ用のテーブルと個人作業用のデスクが置かれているのを確認した。


「何もないみたいですね」

「いや、感じる……いくら隠れていても、俺にはウォーグの邪悪なオーラがわかる」

「しかし、一体どこに?」

「ここだっ」

 カイゼルは叫ぶと地面に向かって拳を叩きつけた。この一撃で床が割れ、暗い穴が姿を現した。


「やはりな……」

「これは一体?」

「奴ら、地下に根城を作っているんだ。気配を下の方に感じる」

「な、何だこりゃ」

 優は唖然とした。カイゼルが砕いた床の下に、大きな穴が下方に広がっていたのだ。


「行くぞ、いつ奴らと遭遇するやも知れないから、覚悟しておけよ」

「は、はい」


 カイゼルが穴に飛び込む。優もそれに続いた。 暗視スコープでも底が見えないので多少の恐怖はあったが、数メートル落下して、地に着いた。すぐに四方を見渡すが、何かいる様子はない。先ほども薄暗さはあったが、今度は本当の暗黒空間だ。


「今のところ、生体反応はない……みたいだな」

「なかなか広大な穴ですね。まるで地下世界……」

「奴らの科学力や技術を持ってすれば、地下にこのような場所を設けるくらい造作もない事だ」

「奴らはそんなに凄い技術を持っているんですか」


 優は前々から気になっていた事を尋ねた。そもそもカイゼルからは自身の事やウォーグの背景などをちゃんと聞いた事がなかった。


「そうだな。この星と比べたら科学の進歩は数百年先を行っているかも知れんな。だが、その一方で人間の質が高いとか低いとか、そういう話でもない。お前がいい例だろう」

「俺が?」

「この星の技術で十分に奴らと渡り合っているじゃないか。質という意味ではお前の方が数段上だって事だ」

「お褒めいただき光栄です」

 珍しくカイゼルから自分を称える言葉をもらえて、優は本当に嬉しくなった。


「そんなお前に伝えておく事がある。アメージングストーンについてだ」

「父が言っていた石ですね」

「ああ。俺がこうやって銀色の姿でパワーアップ出来ているのは、そのアメージングストーンの力なんだ。俺はウォーグの一味と争奪戦の末、石を奪取して力を得た。こんな風に奴らと戦えているのも全てこの石のお陰だ」

 カイゼルは自分の腹部を指差した。全身が光っているため、気付かなかったが、確かに示した部分は一層の輝きを放っていた。


「体内に石が?」

「そうだ。俺の身体と同化している」

「アメージングと言うだけあって、本当に不思議な石ですね。人と同化するなんて……」

「確かに少し怖さはある。しかし、この石がなければ、今頃全宇宙はウォーグに支配されていたかも知れん。奴を止める為に俺はこの石に選ばれた、今はそう思っている」

 優はカイゼルから怖いという本音が出た事に驚いた。確かに自分の身体に異物が入り込み、力を与えてくれるなどという事態は、恐怖心を抱いてもおかしくはない。


「一つだけ頼みがある。万が一、俺が敗れるような事があった場合、この石を死守してくれ」

「そんな、カイゼルさんが敗れるなんて事が……」

 言いながら優はここに来る前に見た夢を思い出していた。夢の中ではカイゼルがウォーグに敗れたのだった。しかし、夢は夢だ、そんなものを信じる必要はない。


「俺だって負けるつもりはない。ただ、万が一の事態が生じた時の話はしておかねばなるまい。もっとも俺が負けるようじゃお前も無事かはわからんがな」

「あはは。そうですね。笑い事じゃないですけど」

 自虐的に笑ったが、その通りだと思った。カイゼルが敗れるような事態が起こった時、自分が生きている保証はない。優はこの会話を聞いている咲がまた心配するだろうな、と思った。


「お前のセリフじゃないが、基本的には絶対に諦めない気持ちで戦えば、数で攻められてもウォーグ以外は何とかなるだろう。ただ、奴だけはアメージングストーンの力を持ってしても遜色なく対応してくるからな。やはり警戒は必要だ。それに……」

「何ですか?」

「俺に万が一の事があった場合、後を託せるのはお前しかいない。俺の仲間はもういないからな」

 前を行くカイゼルの背中は寂しそうに見えた。怨敵との決戦を控えて、初めて本音を聞かせてもらえたようだった。


 それからカイゼルは自身の過去について語った。アメージングストーンの争奪戦、ウォーグとの戦いで仲間を全て惨殺され、銀の力に目覚めた事、奴の動きを察知してこの地球まで追って来た事など……


 優は初めてカイゼルの過去、そしてアメージングストーンの話を聞き、これまで自分が生きてきた世界とは違った物語に衝撃を受けた。宇宙での殺し合いや謎の石のパワーなんて、地球人からしたら漫画のような話だ。今はそれを現実として突き付けられており、否応なしに受け止めざるを得ない展開であった。


 元々は父がウォーグと交信した事から始まった。その息子としては、この地球に災厄が及ばんとしている以上、カイゼルと共に父やウォーグを止めなければなるまい。ひょんな事から始まったが、ここまで来るとそれは使命のようにも感じる。


 普通に生きていれば、こうしてカイゼルと共闘する事などもなかったであろうが、なるべくしてこうなったようにも思う。地球人として肉体と叡智を振り絞り、宇宙からの侵略者と戦わねばならない、そんな心境だった。暗闇の中でもカイゼルのシルバーボディは輝いて見える。彼と共に戦えば必ずや光はある、と信じるしかなかった。



 しばらく暗闇の中を進んでいたが、行き止まりに達した。こんな地下道がありながら、まさか何もないとは考えにくいが……


「覚悟しとけよ」

「えっ」

「奥にいるぞ、奴らが……」

 カイゼルが指差した部分は真っ暗な壁だった。しかし、彼は発信機の情報とウォーグ達の気配を間違いなく感知しているようだった。


「何もない行き止まりのように見えますが……」

「奴らしか入れないような仕掛けが施されているようだな」

「一体どんな仕掛けが……」

 優は壁に触れてみるがおかしな部分等はないようだった。


「慎重になりたい気持ちはわかるが、ここはそんな悠長な事をしてもいられん。もしかしたら今のこの様子すら奴らに見られているかも知れないしな」

「言われてみれば……」

 奴らの科学力を考えると、侵入を監視している可能性は極めて高いように思えた。


「だから、手段は選ばん。言ったよな、覚悟しとけと」

「えっ」


 優が驚いている間にカイゼルは全身を輝く銀色に発光させていた。そしてエネルギーを両手に集中させ、黒い壁に向かってレーザー光のようなエネルギー波を放出した。光の束が黒い壁を砕くと、視界が急に明るくなった。カイゼルの読み通り、壁の奥には光のある空間が広がっていた。それも結構広大な範囲で実験装置や医療器具のようなものが沢山置かれていた。


「これは……」

「やはりな。秘密のアジトがあったか」


 何やら叫ぶような声が聞こえ、奥の方から足音が響いてくる。



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