第13話『急襲』②
「あ、すみません。ゴリラは倒したんですが……」
「見ればわかる」
カイゼルが視線を向けた先には真っ二つになったゴリラの死体があった。
「さすがに強敵だったもんで……」
「お前なあ、こんな危険なところで良く寝てられるな。万が一ウォーグの手の者が来たらイチコロだっただろう」
「それは、優秀なサポーターが何とか知らせてくれると思ってましたよ」
優は咲の姿を思い浮かべていた。
「そんな事より大事な話だ」
「どうかしたんですか? そう言えば、マインズと戦っていた筈じゃ……」
「逃げられた。が、奴に超小型発信機を付けてやった。今なら奴らの居場所を探り当てる事が出来る!」
「やりましたね」
「今から乗り込むぞ、行けるか」
「い、今ですか?」
カイゼルの唐突な提案に優は驚かされた。
「ああ。この機を逃す手はない」
「それはそう……なんですが、俺もこんなですし、焦らない方が良いのでは?」
「いや、急襲した方が良い。お前が無理なら俺は一人でも行く。ウォーグの「もう少し待て」も気になるし、整える時間を与えたら、またさっきのゴリラのような怪物が現れないとも限らん」
「そうですか……」
優は止めるべきなのかどうか迷った。さっき見た夢も気になるし、自分自身の状態も良くないが、カイゼルはかなりの本気度で話している。
「どうだ、行けるか?」
「もちろん、行きます」
返事をした優に「先輩、そんな無理はダメですよ!」という咲の声がマスク越しに聞こえていたが、それには応じず、ゆっくりと立ち上がった。
「ここから近そうだな。飛んで行くぞ、掴まれ」
発信機を見ながらカイゼルが背中を見せる。優は背負われるような体制で背に張り付き、空いた天井から外へ飛び出した。空はまだ明るい。時計を見ると13時を過ぎたばかりだった。
宙を行きながら優は不安感に襲われていた。大した心の準備もなく、ウォーグの下に乗り込もうというこの状況に、安心感など全くなかった。カイゼルが付いているとはいえ、不吉な夢も見たし、自分の調子自体も望ましくない。こんな状態でウォーグやマインズ、さらには先程のゴリラのような人獣型怪物に勝てるのだろうか、一抹の不安は拭えない。
ただ、やはり自分が身を預けているカイゼルの背中は大きかった。彼がいれば百人力で不安も吹き飛ぶように思えた。あのゴリラもカイゼルの前では子供扱いだった。ウォーグがとてつもない強さを持っているのはわかるが、カイゼルが真価を発揮すれば、勝利も難くない筈だ。
「不安か?」
そんな優の気持ちを感じ取ったのか、カイゼルが声を掛けてくる。
「少し……。さっきのゴリラみたいな怪物がまたいたら……。ウォーグが自信満々だったのも気になりますし」
「まあ、奴らも一筋縄ではいかないだろうな」
「それをわかってて何故?」
「タイミングだ。奴らに準備する時間を与えるよりは、急襲する方が勝ち目がある」
「それはそうですが……」
優はやはり不安を払拭出来ない。特に直近で見た嫌な夢が気になって仕方がなかった。
「おしゃべりはそこまでだ。着くぞ。意外と近かったな」
カイゼルはゆっくりと下降していく。優は背に捕まりながら下からの風圧を感じていた。
「ここは……、速水先生の研究室がある棟じゃないですか」
「そういう事か。学長に成りすましていた以上、その居室を根城にしていてもおかしな話じゃないしな」
話しながらカイゼルが着地し、優も背から飛び降りた。構内としては事務局棟を中心に、優の所属する研究室と対称的な位置にあり、専門が宇宙研究だけに心なしかロケットのような形状の建物だった。当然だが、構内の厳戒態勢は続いているので、辺りには人影一つない。警官も各入り口や事務局棟には警備を割いているが、個別の棟一つ一つまで対応に当たっている感じではなかった。




