表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女が死んだ  作者: 植木原裕司
PR
6/9

第四章 花が再び散った

もはや、一刻も猶予ならぬ。

 僕は断固たる意志で、楡松の襟首を掴んだ。

「離したまえ、服が伸びる」

「うるさい! さっさと出てってもらうぞ」 暴れる楡松を、苦労してエントランスまで引きずっていくと、ちょうど髙砂先輩が病院から戻って来た。

「どうしたの? 関根君?」

「コイツを追い出すところです」

 ほぼ取っ組み合いの状態で、先輩に答える。

「すいません、タクシーを呼んで下さい」

 とにかく楡松を、車に押し込んで帰したかったかった。このまま放置すると、僕の責任問題になる。

「その人、現場の近くにいた人?」

「そうです、お話を伺った所、事件との関係は薄いようなので、お帰り頂く所です」

「そう……」

 先輩は、少し考えるように小首を傾げた。

「少し待って。リリーの顔を見て、何か思い出さないか聞いてみたい」

「リリーの顔……ですか?」

 先輩の提案は意外なものだった。

「今さらリリーの顔を見せたぐらいで、何かを思い出せるとは思えませんが」

 この町に住んでれば、なんらかの形で魔法少女の顔を見た事があったろう。もしも、彼女たちが目の前を通れば気がつきそうなものだ。

 だが……。

「そう言えば、この方は隣町から引っ越してきたばかりだそうです」

 よその町に住んでいたなら、彼女たちの顔に覚えが無くても不思議はない。

「なら、一緒っに来てもらおう」

 先輩がそう言うならと、僕は楡松の襟首から手を離した。

「懸命な判断だ、楡松明希だ」

「高砂鹿子、よろしく」

 自分の立場を分かっているのか、偉そうに楡松は右手を差し出した。

「長くお付き合いする事になるかしら?」

 楡松の右手を握りながら、髙砂先輩は言った。

「さあ? 先の事は見通せないからな」

 髙砂先輩の顔をまっすぐ見ながら、楡松は答えた。と言うか、先輩は楡松と事件の後も付き合いたいと思っているような言葉だ。

 多分、冗談かなにかだと僕は思うことにした。

「リリーの死因は?」

「部外者には秘密だ」

「心臓を撃たれたら誰だって死ぬ」

 重松の質問を受け流そうと思っていた所に、意外にも髙砂先輩が口を挟んだ

「胸部銃創によるショック死、心臓を一発でやられた。即死だ」

「せ、センパイ」

 みっともないほど、うろたえた声が出た。

 髙砂先輩が、捜査情報を簡単に口にするなんて。

 しかも怪しげな楡松に。

「いいの、どうせ明日の……今日の新聞には載ることだし」

 先輩は事もなげに言うと、振り返った。

「ここが、遺体の安置室」

 先輩の指差す先には、ステンレス製の扉が鈍く光っていた。

「入っても?」

「構わないよ、どうぞ」

 楡松は、髙砂先輩に促されるままに安置室のドアを開けた。

 消毒液と、死臭がうっすらと臭う。

「ふん、いずこも同じ、秋の夕暮れか……」

 楡松は、何事かをつぶやくとタイル張りの部屋をスニーカーでペタペタと歩いて行った。

 カツカツカツ、そのあとを追うように髙砂先輩もヒールを鳴らした。

 僕は、なんだか気圧されているような気がしながら、その後ろに続いた。

 僕たちの、向かっている先には三段キャビネットを細長くしたような遺体安置用の冷蔵庫があった。

 ブーン、と低い音を立てるそれはいつ見ても不気味だった。

「どれかな?」

「これよ、ちょうど真ん中の扉」

 髙砂先輩の指差したそれは、気のせいか他の扉より鈍く輝いて見えた。

「どれどれ」

 楡松はなんの躊躇もなく、扉を引いた。

 スライド式のベットのようなそれには、一人の少女の遺体が横たわっていた。

「面白い、冗談だ」

 ククク、と低い声で笑いながら楡松は言った。

「誰だい? これは?」

 そこには、どこかの学校の制服を着た十代の少女が横たわっていた。

 その胸には、深くナイフが突き刺さり、誰かに殺されたのは明白だった。

「ほほう、これがリリーか」

 動揺で声えも出ない僕らをよそに、楡松は遺体の右足首に付けられたタグを読んで言った。

「なるほど、彼女は死んでいるようだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ