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魔法少女が死んだ  作者: 植木原裕司
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第三章 花を語る人々(その3)

「おい、どこへ行く?」

「決まってるだろ、谷口の所だよ」

 決まってるも何も、部外者がウロウロさせるわけにはいかなかった。

「いい加減、首を突っ込むのはやめろ」

 慌てて、僕は楡松の後を追った。

「自分の立場理解してる? さっさと帰れ」

「まだ、始発が出ないだろ? どうやって帰る?」

「タクシーでも呼べ」

「じゃ、出してくれ」

 と言いいながら、楡松は右手のひらを突き出してきた。

「何をだ?」

「タクシー代に決まっているだろう? 私は君たちに任意で協力しているんだ」

「図々しいな」

「君に言われる筋合いじゃあないよ」

 楡松は、催促するように手を振った。

 どう言い返しても、口では勝てそうにもない。僕は、ニヤニヤと笑う楡松を苦々しくみおろした。

「待ってろ」

 そう言い残すと、僕はタクシーチケットを取りに刑事課の自分の席に向かった。

 どう考えても、部外者があれこれ嗅ぎ回ってるのはまずい。

 下手をすると、僕の責任問題に発展しかねない。

 一刻も早く楡松を追い出さねば。

 急いで自席に向かうと、髙砂先輩からの伝言が置いてあった。

 リリーの死亡が確認された、先輩は彼女の遺体と戻ってくるとあった。

 これで、リリーの死が公式に認められた事になる、

 僕はメモとタクシーチケットを掴むと、とって返した。

 しかし戻ったそこに、楡松の姿は無かった。

 ——帰ったのか?

 いぶかしみながら、取調室や空いている部屋を覗いていると、女児の嬌声が聞こえて来た。

「おやじぃ!」

 察するに、リリーたちに壊滅させられた暴力団、谷口の元子分だ。

「おやじはやってないよう、むじつだよう」

 声のする方へ向かうと、思った通り取調室の中に、六歳ぐらいの女児と谷口そして楡松がいた。

 どうやら、楡松に何事かを弁明してるらしい。

「刑事さん、たつの言う通りです。俺はもう足を洗いました、俺じゃありません」

 泣きながら谷口は続けた。

「俺はもう、可愛いコイツらの為にも、ヤクザな真似はやめました! 本当なんです信じてくだい」

「おやじのいうこと、しんじてくだしゃい」

 かつて皆殺しの龍と呼ばれた女児は、楡松の袖を引っ張りながら泣きながら懇願する。

 泣いているせいで、ただでさえ舌足らずな声がひどく幼く聞こえる。

 楡松と言えば、背丈が近いせいか龍と向かい合うとどこか姉妹めいて見えた。

「アネさん、しんじてくだしゃい」

「どうだろうね?」

 懇願する女児に、薄笑いを浮かべながら楡松は答えた。

「君たち昔の子分を動員出来なくとも、金を積んで命を狙わせるのは、十分可能だろう?」

 確かに殺し屋を使えば、リリーの殺害は可能だ。それに、谷口なら殺し屋へのコネクションはあるだろう。

「あたしたちは、もうヤクザじゃないやい」

 龍が泣きながら叫んだ。

 龍と言うより、龍ちゃんというべき姿ではあるが。

「おやじもわるいやつらとは、てをきったのにい」

 泣きながら、龍ちゃんがポカポカと楡松を叩く。

「止めるんだ、龍! 止めるんだ」

 谷口が慌てて、龍ちゃんを楡松から引き剥がした。

「おやじ! 止めないで! あいつやっつけてやる!」

「そこは『タマ取ったらあ』じゃあ無いんだ」

 楡松は大人気なく龍ちゃんを嘲笑しながら続けた。

「確かに、君たち子分にはそう見えるだろう。君たちの信じる親分だからな」

 見た目が似たような姿なだけに、楡松がより邪悪に見える。

「それとも、彼は旧悪と手を切ったが君にはまだ付き合いがある。そんなレトリックかな?」

 見た目が、というか中身も時を経てそうなってしまっているが、幼い子供相手にとんでもないことを楡松は言い出している。

「なんて事を! この子らにそんな事はできねえ、俺が保証しやす」

「保証ねえ、共犯者の保証ってのはあまり意味が無いのは説明しなくても知ってるだだろ?」

 目線を、と言うか本来の目的であろう谷口に楡松は向き直った。

「とんでもねえ、そんな事。この子らの今の親御さんに、顔向が出来ねえ」

 龍ちゃん女児になった谷口の子分は、今は養子に入って各家庭の娘として幸せに暮らしているそうだ。

「前の親御さんには顔向が出来たと?」

「勘弁してくださいよ。俺もあれから色々あって反省してますよ。家も土地も全部売り払って、迷惑かけた皆さんに些少ですけどお支払いさせて頂いています。もう何も、金なんてありやせんよ」

 谷口まで、今にも泣き出さんばかりの顔になっていた。

「どうだか」

 楡松は突き放すように言うと、立ち上がった

「参考になったよ、朝には帰れるんじゃ無いかな?」

 そう言うと、楡松は取調室から出てきた。

「勝手に何をやっている」

「聞いた通りだよ、君たちの手間を省いてやったのさ」

 まったく悪びれる事なく、楡松はニヤリと笑った。

「役に立ったろう?」

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