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魔法少女が死んだ  作者: 植木原裕司
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第三章 花を語る人々(その2)

                     挿絵(By みてみん)

「おい! ちょっと待て」

「平賀はこっちだろ?」

 なんで平賀の居場所を知っているのか? 楡松は迷う事無く署内を進んでいく。

「なんで、平賀がそっちにいる事を知ってる?」

 僕は急いで楡松に追いつくと、楡松の襟首を捕まえた。

「手を退けたら教えてあげよう」

 そう言われて、取りあえず楡松を解放した。

「何、簡単な事だよ。この手の建物は構造がどれも構造が似ているし、実を言えばここには昼間来ているしな」

「何しにだよ?」

「日々の糧を与えたもう、恵の御神はほむべきかな。だよ」

「どう言う意味だ?」

「さあて、ここだろう? 平賀がいるのは?」

 楡松はそう言うと、扉を指差した。

「だったらなんだ?」

「開けてくれたまえ」

 何様のつもりだと言おうとしたが、怒鳴りつける前にドアが開いた。

「おお、関根か丁度いい。こいつを見てるの少し代わってくれ」

 同僚の塩越が、ドアから顔を覗かせた。

「いや僕はちょっと」

「そういうな、頼んだぞ」

 そう言うと、彼はさっさと何処かに行ってしまった。

「丁度いい、話を聞こう」

 そう言うと、楡松は部屋に入ってしまった。

 ここで、一悶着を起こして平賀に逃げられても困る。僕は気を腹を決めると取調室に入った。

 鍵を閉めて、室内を見渡すと楡松がちゃっかり椅子に座ってる。

 仕方ないので、楡松の後ろから平賀と向かい合った。

 カンの強そうな、メガネをかけた痩せた陰気な顔。ベタベタの長髪と刺々しい雰囲気がヤバい人間であることを主張していた。

「ひどい髪だな? ちゃんと洗髪しているのかい?」

 楡松は自分の事は棚にあげると、平賀の髪を指差した。

「おおよそアレだな、女の子盗撮ぐらいしか生きがいがない人生だな?」

「侮辱だ! そんな事言っていいのか? 警官がそんな事言っていいのか? 弁護士に言うぞ! 訴えてやる」

 楡松は部外者だ。と言おうかと思ったが、面倒なの成り行きを見守ることにした。

「ご随意にしたまえ。所で、警察無線を傍受するのは犯罪だと言うのは知っているね?」

 面白いぐらいに、平賀の顔から血の気が引いてる。

「何を言っている」

「何を言っている? 今まで指摘されてないなら、それは随分と運が良かったな」

 ちらり、皮肉な視線が僕を見た。

「僕はそいつの事件を担当した事がない」

「ふん、だろうね。凶悪犯ではないからな」

 楡松は、鼻を鳴らすと続けた。 

「女子供にしか手を出せない奴は、小心で卑怯だ。それ故に用心深い」

 つい先ほどまで、女と油断していた相手が猛然と襲いかかって来たことに平賀は動揺したのか声も出せない。

「さて、君の犯行記録を見るに、警察無線を不法に傍受した節がある。しかもリリーの事件の時は、タイミング良く事件現場に姿を表している」

「……何が言いたい」

 ようやく、絞り出すように平賀が口を開いた。

「何、彼女たちが現れた事を無線で聞きつけると飛んで行った、そうやって彼女達の素顔を掴んでどうするつもりだったのか」

 楡松はぐっと体を乗り出すと、覗き込むように平賀を顔を見つめた。

「まさか、個人的な撮影会でも開くつもりじゃあないよね。どうせよからぬ事を、考えていたのだろう? 今回みたいに」    「違う、こ、今回は何もしていない!」 

 逃げるように身を引きながら、平賀はわめいた。

「今回、今回、今回は……なるほど、今回は[#「今回は」に傍点]か、利き方を変えよう。いつ、彼女から手を引いた? 一、二度逮捕されたぐらいじゃ、君はあきらめないだろう?」

 魂の取引を持ちかける悪魔、そう思わせる声で楡松は平賀に迫った。

「先月、先月、刑事に見つかって、こっこ、殺すって言われて」

「もろ手をあげて逃げ出したか。なるほど」

 楡松は、椅子に深く腰掛けなおすと皮肉な笑みを浮かべた。

「逮捕ではなく、殺すか。なるほど、殺すか、それじゃ手を引くな」

 警官が『殺す』などと言う脅しをするか? 僕にはにわかには信じられない話だったが、楡松は予想していたかのように振る舞っている。

 どう言う事なんだ?

 喉までその問いが出かかった。

「では、今回の件には知らないと」

「知らない! 知るか!」

 脅された時の事がよほど怖かったのか、平賀は喚き散らすと顔を伏せて泣き始めた。

「ふん」

 楡松はそんな平賀を見もしないで、鼻を鳴らした。

「存外、脆いな」

 その言葉に反応したように、ドアがノックされた。

 僕は無言でドアを開けると、塩越が戻って来た。

「何? これどういう状況?」

 塩越は、取調室の状況に目を白黒させながら言った。

 僕は、ただ無言で肩をすくませた。

 そんな僕ら尻目に、楡松はスタスタと取調室を出て行った。

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