第二十一話:黒魔術師さんとゲームのお時間(前編)
「それじゃあ次はヤモリくんの魔力を見してもらおうか」
「魔力?」
天使力を測り終えてその後。
クロ先輩は次なる試練を僕たちに与えるかのように、そういった。
「フフ……当然ながら、僕らは天使同盟の一員である前に、エーテル魔導学園の生徒でもある。ゆえに魔力を操る力がどれほどなのかは知っておく必要がある」
なるほど。
それは一理あるな。
「でもだとしたら、どういう方法で決めるんじゃ?」
確かに、クロ先輩は今簡単に魔力という単語を口にはしたが、僕らに魔力はない。
あるのは、魔法を口述なり、記述なりをして、精霊を喚び出す力――そこから生み出される精霊の力を魔力と呼んでいるのだ。
だから大魔法使いと呼ばれている人間がいたとしても、その人が人間であるが以上、魔力というものは持ち合わせてはいないのだ。
「フフ……故にここでは魔法を操る力、"幻想を使役する力"――それを持ってして魔力と呼ぶことにしよう。いかに呼び出した力を使役し、操るか……フフ、それこそが天使同盟のメンバーに必要なのだよ……」
と抽象的で訳の分からないことを言ってるが、要するに何をすればいいのだろう。
「クロ先輩アレを使うんですね」
「フフ……そうだ、アレだ……」
クロ先輩とジブリルさんお二人は示し合わしいたように、ニヤァ、とニヤァァと笑い合うが、僕らにはちっとも分からない。
ジブリルさんは今度はテレビの場所にいって、ゴソゴソと作業をしはじめた。
「そういえばこの部室テレビがあるんですね」
「フフ……そうだね。アンテナはつながってはいないが、あると便利なんだ、例えば――」
「準備できましたーっ」
と元気いっぱいに声をかけるジブリルさんは少しだけ埃をかぶっていた。
ああ、僕が作業やればよかったな。
ちょっと後悔したが、彼女は気にしていない様子でこちらにトテトテと戻ってきた。
「クロ先輩、いつでもはじめられます」
「フフ…‥うむ、ご苦労」
ビシっと敬礼するジブリルさんにクロ先輩は微笑む。
一体これから何をするのだろうか。
期待と不安と、主に不安と不安がいっぱいになっているが、クロ先輩を見つめていると彼女は答えを出した。
「フフ……自らが呼び出した精霊をいかにうまく使役できるかを試す競技、それは何かと聞かれたら一つしかない」
「なんですか?」
と尋ねると、クロ先輩はジブリルさんから渡された魔具の一つを僕に渡した。
これは……コントローラだ。
「フフ……いくぞ、ヤモリくん」
そしてテレビの電源がつけられ、始まる壮大なBGM。
「ゲームの時間だ」
✞
ヒーローアルカディアというゲームをご存じだろうか。
いわゆる対戦格闘ゲームの一種とされているが、その大きな特徴は対戦格闘ゲームであるにもかかわらず、壮大なストーリーを備えた戦闘アクションRPGの側面も有しているという点であった。
プレイヤーは、それぞれの国を統治するヒーローをどれか一つ選択肢、世界を滅ぼそうと企む悪の結社ダージャスとの決戦に挑むことになる。
しかしその過程でダージェスに敗れた他のヒーローが襲い掛かってきたり、あるいは思想の違いから、あるいは恥ずかしい勘違いから、ヒーローたちは互いに激突しあい、しかし最終的には力を合わせてダージェスを撃退するという感動的なストーリーに仕上がっている。
「フフフ……本来であれば、レベル999のこの城ヶ崎正義で倒すところのなのだが、特別にこのオールクラッシャーでお相手してあげよう……」
「いや普通に対戦モードにしましょうよ」
どうしてストーリーキャラクターでボコボコにされないといけないんだ。
クロ先輩からコントローラーを渡されてからその後、僕はあれよあれよと言う間にテレビの前に座らされ、気づけばクロ先輩と対戦することになったのだった。
「ほう、面白そうなゲームじゃな。ヤモリ、今度お店で買ってみようぞ!」
「フフ……もしメフィストくんと、ヤモリくん、二人が僕に勝つことができたら、特別にこのゲームをくれてやってもいいぞ……」
「マジか!? お主、悪そうなやつに見えて実はいいやつだったのじゃなぁ!」
大喜びのメフィストに、クロ先輩はフフフ……と笑いかける。
これは僕たちへのサービスなのか、それともめちゃくちゃ強いのか……。
「ちなみにジブリルさんもこのゲームやることあるの」
「私もちょっとだけ。でも、先輩強すぎてすぐ負けちゃうんですよ」
「へー」
「空中に浮いたら帰ってこなくなっちゃいます」
それは天使っぽくていいじゃないか。
という台詞を思いついたけど、言ったら怒られそうだからやめることにした。
僕だって、空気は読めるのだ。
「しかし、ヤモリよ。どちらが先に戦うか決めねばならないな。そしてキャラクターも」
「そうだね」
僕はこのゲームを初見かと言われると、一応やったことはある。
ただしそれはこの部屋にあるヒーローアルカディアのアーケード版であり、しかもめちゃくちゃやりこんでいるとかでもなく、簡単に触れた程度だ。
人気作品だしやってみたいけど、わざわざソフトとハードを買ってまで、となってたので暇な時に手を付けた程度の実力だ。
悪魔のメフィストに関しては、これは…‥言わずもがなだろう。
「それじゃ、メフィスト先にお願いよ」
「ふっふっふ、いい選択肢じゃヤモリ、残念だがお主の出番はなくなったと言っても過言ではないのう、妾がこの魔術師から格好良く勝利して、このゲームはヤモリ家の資産となる未来が見えてるでのう」
「フフフ……私もなめられたものだね」
と、笑うクロ先輩はやたら自信満々だ。
うちのメフィストも自信だけは負けてはいないけれど、向こうは実力も折り紙つきの自信な気がする。
うちの子のは、ただの蛮勇だ。
「その強うそうな顔をしておるのもいまのうちじゃぞ、五分後にお主は子供みたいにぴーぴー鳴いて、コントローラーを投げる未来が見えるわっ!」
「フフフ……それじゃ、いくよ。まずはキャラクター選択だ」
前述の通り、ヒーローアルカディアは対戦格闘ゲームだ。
ストーリーモードと対戦モードの二つの大枠があり、僕らはこれから対戦モードを選択する。
使用キャラクターは総勢15人。
多すぎず少なすぎず、良いバランスだろう。
あまり詳しくはないのだが、話によると特に極端な壊れ性能のキャラクターもおらず、ハメ技みたいな要素も少ない、とてもバランスの取れたゲームらしい。
「フフフ……僕は先ほど話したようにオールクラッシャーを選択するよ」
「ならば妾は……うーん、そうじゃのう」
と初心者のメフィストはずらりとキャラクターを眺める。
Name:幻影魔人
Description:煙を操る正体不明のヒーロー。攻撃力は低いが煙を辺りに撒き散らし、時間経過とともに速度が上昇する。
Name:鋼鉄王
Description:究極のパワーファイター。その豪腕は大地を砕き、敵のヴィランを一撃で粉砕する。
Name:天上院セーラ
Description:エルフの血を引く騎士。素早い動きを得意とし、連撃を得意とする。また自身を回復させる魔法を使える。
Name:ソフィ・フミケット
Description:巨大なイノシシに乗った女の子。動物との連携攻撃を得意とする。ただし、動物が倒された場合の彼女単体の力は弱い。
Name:全壊戦士
Description:遠距離攻撃を得意とするヒーロー。コマンド入力が特殊であり、慣れない人間が使うと隙が大きくなってしまう。
Name:城ヶ崎正義
Description:光を操るヒーロー。防御力は低いが強力な攻撃魔法が使える。必殺技は一定時間見えない光を敵に放てるようになり、とても強力。
「うーん、これじゃ! これにするのじゃ!」
と、メフィストが選んだのは『城ヶ崎正義』と呼ばれる格好いい男のヒーローであった。
「めっちゃヒーローっぽいやつ選んだな」
「何じゃ、文句あるのか、ヤモリよ」
「いや、別にないけどさ」
悪魔なんだから、こう幻影魔人とか、鋼鉄王とか、そういうの選ぼうぜ。
「いいのじゃ、この光を操るという正義のヒーロー。こやつが悪魔である妾に操られると思うと滑稽でのう……」
スゴいマニアックな遊び方をしているメフィストはさておいて、クロ先輩の方もキャラクター選択が終わったようだ。
「フフ……私は宣言通り、この全壊戦士を選ばせてもらうよ」
「よしくるのじゃ!」
全壊戦士か。
僕が前に遊んだときも一度だけ使った記憶がある。
右手に巨大なバズーカ砲を持った機械兵士で、コマンド入力によってレーザーだったり剣だったり色んな武器を出すことができる。
ただ、そのコマンド入力が曲者で、近接で剣を出したいのにいきなりチャージをはじめたり、遠くに逃げた敵を追撃したいのに、空中に花火をあげたりするのだ。
ぶっちゃけ初心者には使いにくいキャラクターだ。
まあ、だからこそ、おそらくヒーローアルカディア熟練者のクロ先輩は、自身の実力を誇示する意味も込めて、全壊戦士を選択したのだろう。
「フフ……アイテムは有りで、ストックは2にしておこう。……お互いがキャラクターを使役して、相手を2回倒した方の勝ち。シンプルで分かりやすいだろう」
「なんでも良い! かかってくるのじゃ!」
ノリノリのメフィストにクロ先輩は、怪しい笑みを浮かべた。
うわー、勝てるのかなメフィスト。
僕が心配そうに眺めると、メフィストはこちらを向いてきた。
「ふふん、なんじゃヤモリ。心配そうな顔をせずとも妾は絶対に勝って帰ってくる。安心するのじゃ」
「うん、不安しかないよ」
ぶっちゃけ、そうだった。
「何を言っておろう。妾は最強じゃ。見よ、この人類には真似出来ない超人的なコントローラさばきを、これでもメフィスト一族の中では一番ゲームがうまかったのじゃ」
そんな家族で一番UNOが強かったみたいなノリで言われても。
「フフフ……ステージ選択はメフィストくんの好きでいいよ」
「なんと、これは貴様の負けが決まったようなものじゃな。妾はこの火山が荒れ狂っているグレートキャニオンを選ぶのじゃ!」
「フフフ……いいよ、私の得意のコースだ……」
そうしてクロ先輩とメフィストはお互いにコントローラーを持ちあった。視線は互いにテレビのゲーム画面に向けられているが、心の中ではお互いに向き合って火花がバチバチと鳴っていることだろう。
「クロといったな魔術師よ。妾の力に驚き、慄き、そして土下座して妾の実力を称えるがいい……」
「フフ……はじまるよ」
5。
4。
3。
2。
1――ッ!
ステージにキャラクターが生まれ、そしてバトルが始まった。
✞
城ヶ崎正義。
メフィストの操作するキャラクターは、中距離を得意とする魔法使い系のキャラクターであった。
細い足に、細い体躯、まるでヒーローというよりも、モデルのような体型をしていた。
そして魔法使いと言えども、いわゆるローブを身にまとった姿ではなく、どこかの王国貴族の出とも言うべき外見で、杖も詠唱も魔法陣も組むこと無く、指を敵に向けるだけで光を生み出し、敵に攻撃するのであった。
まさしくファンタジーの世界のキャラクターだ。
詠唱すらしないで、いったいどうやって異界から魔法を生み出すというのか。
一方のクロ先輩が操作するキャラクターは前述の通り、科学の申し子といって良いような機械兵士の見た目をしていた。
こちらは遠距離の攻撃を最も得意とするキャラのため、メフィストがクロ先輩に挑むためには、まずは距離を十分に詰めていく必要がある。
「ええと……これがジャンプで、これが弱攻撃で」
と、初心者丸出しのメフィストであったが、そこは流石に悪魔。
すぐさま操作法を覚え、ググンと、クロ先輩に近づいた。
「フフ……」
普通であれば、遠距離キャラの全壊戦士はここで一歩退く場面だっただろう。
しかし、メフィストを舐めたのか?
いや、分からない。
ここで彼女は退くのではなく――接近した。
「うわっ」
「フフフ……フフ……フフフフフフ……」
近づき、全壊戦士は、剣を取り出す。
横に一閃。
メフィストの操る城ヶ崎はそれに怯む。
「さらに、さらに……」
そのまま攻撃の手を休めることなく、全壊戦士は一閃、一閃。
三回目で、城ヶ崎は空中に浮いて、
「フフフフフフフフフフフフフフフ……ッ!」
斬る。
斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る斬るッッ!
言ったはずだ。
全壊戦士は、遠距離攻撃を得意とするキャラクターだと。
なのに、この連撃はなんだろう。
「うぬうぅ、ぐぬぅう、ぐぅぅぅぅ」
「フフ……大人気なくてゴメンね。でも、虐めるなら――ちゃんと虐めて上げるから」
YOSSSSSHAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!
テレビから全壊戦士が高い矯正を上げる。
女キャラだったのか。
すると、画面中が光り輝き、機械兵士は大きく変型してプロペラを持つ巨大な戦車に生まれ変わった。
IKKEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEッッッ!
そしてメフィストはその巨大な戦車の砲弾に撃ち抜かれるのかと思いきや――。
「なっ!?」
「フフフ…‥」
必殺技発生時のプロペラの回転に巻き込まれ、城ヶ崎正義はプロペラに引っかかったまま、そのまま息を耐えた。
「フフフ……よしやった。プロペラ巻き込み勝利……狙うの難しいんだよ」
「ぐぬうううううぅぅぅ……!」
メフィストは悔しそうな表情浮かべた。
そりゃそうだ。
クロ先輩は、ただ強さで圧倒しているんじゃない。
この人は、全壊戦士という遠距離攻撃キャラクターを使用して、――"近接攻撃縛り"でメフィストに勝利を収めたのだ。
その難度がどれほどなのかは熟練者ではないため分からないが、常識的に考えて相当やりこんでいないと思い付かない発想だ。
「わ、わぁ、早いスピードでしたね、目が追いつかなかったですよ」
そしてジブリルさんは戦闘についていけなくなったバトル漫画の仲間みたいなことを言い出していた。
「ぬ、ぬう、もう一回じゃ! まだ勝負は終わっておらぬ!」
「フフフ……もちろん、勝利条件は2回勝った方としてるからね」
「絶対にお主をぎゃふんと言わせてやるわ……!」
「フフフ……かかってきたまえ」
そして、メフィストとクロ先輩の第二ラウンドが始まった。
✞
「ぎゃふん」
「フフフ……私の勝利だね」
結局のところ、メフィストは一回も相手に砲弾を使わせることなく、敗北に喫することになった。
彼女はコントローラーを投げ、クロ先輩に恐れ、そして慄き、今では土下座の態勢になっていた。
「ううう……おかしいのじゃ、妾が、妾がボタンを押す前に全部が終わっているのじゃ」
「フフ……最後のガードせずに攻めてきた姿勢は嫌いじゃいよ。あと半年もやれば強くなる」
「長いのう……半年も正義のヒーローを操っていたら、こちらまで参ってしまいそうじゃ」
と、涙目のメフィストを眺めていて、僕は考えていた。
……え、僕もやるんすか、これ?
隣を見ると、ジブリルさんが期待の眼差しで僕を見ている。
え、何で? 僕なんか、勝てそうなフラグ立てたかな。
「こうなったら、妾の後を継ぐもの、ヤモリに全てを託すしかないのじゃ」
「い、いや……」
勝てないでしょ。これは。
僕は一人あきらめムードで、それでも一応コントローラーを受け取る。
「フフフ……もし君が勝ったらな、このゲームソフトに加えて、我が天使同盟から素敵なプレゼントを君に送ろう」
「プレゼント?」
「フフ……私の部では、天使になぞらえて、白い物をどこかに身にまとうことにしている」「先輩真っ黒じゃないですか」
クロ先輩は名前に負けないくらい真っ黒な服装に身を包んでいた。
それのどこに白要素があるんだ。全然見当たらないぞ。
「フフフ……君の目は節穴かな、表面に見える姿だけが全てではない。……その中身をも想像しなければ」
「中身……」
僕はクロ先輩の中身を想像した。
……よく分からな……――ッ!
その時、僕に電撃が走った。
と、同時に全てを理解した。
そうか、そういうことか、全ての謎が氷解して、新たな真実が生まれた気がした。
「フフ、もし私に勝利した暁には、その白き物を君にプレゼントしようじゃないか」
「白き物を!」
僕はコントローラーを力強く握っていた。
勝たなきゃ。
こんな風に思ったのは初めてだった。
何かのために戦える。
それがこんなにも素晴らしいものだと思えたのは初めてだった。
「おおーいつになく、ヤモリが気合を入れておるぞ」
「ヤモリさん、頑張ってください!」
よっしゃあ。
この勝負負けられない。
僕はゲーム画面を開き、キャラクターを選ぶための思考を始めるのだった――。




