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スナフキンの帽子②(前編)

写真を撮るのが趣味という方の中には、究極的に欲しかったもの(例えばそれは庶民には買えないフェラーリだったり、端から手に入らないウォーホルのモダンアートだったり)を実際に手に入れる代わりに、まるで心の中にもう一台のカメラをぶら下げているかのごとく、そのフィルムに対象を収めることによって、欲しかったものが本当に手に入ったかのような心理的に錯覚した満足感を覚えるという、変わった感覚を持ったユニークな人々がいるそうです。


それは観光地でシャッターを押して、帰ったあとにスナップを眺めつつ思い出に浸るような、ごくごくありきたりな写真にまつわる思い出作りとは異なった経験です。そこではシャッターを「押す」という行為がそのまま「所有する」という行為に置き換えられています。心の中のもう一台のカメラは、まるでドラえもんが四次元ポケットからとりだしてみせたかのような、その名も〈不思議四次元カメラ〉めいています。

撮影というより念写とも呼べそうな行為によってフィルムに収められた〈四次元写真クラブ〉の会員たちによる妄想が含まれた高望みな写真の数々を、もしも一箇所に集らたれたなら、本当にフェラーリや『キャンベルのスープ缶』がその場に実物大として立ち上がってくるかもしれません。写真による技術やセンス云々よりも、あくまでも集まった妄想の結晶の数々によって。


ちなみに〈四次元写真クラブ〉の会員の多くは、まだ自意識が確立する以前の子供時代に、「写真を撮られると魂も一緒に取られてしまう」と信じて疑わなかった、生年月日に関わらず昭和的な幼少期を過ごした人たちによって構成されているそうです。当然のようにまだランドセルを背負う前の彼らの姿がとらえられた写真は、普通の人々のそれにくらべると極端に少なく、ある意味でベールに包まれた存在と言えそうです。


私たちの〈編み人知らず〉にも〈四次元写真クラブ〉によく似たグループが存在します。ただもともとの集まりが〈編み人知らず〉という、大胆不適にも「組織や集団としての名前を持たないことを前提とした」集まりなので、そのグループにも当然のように名前はありません。強いて挙げるなら、〈スナフキンの帽子制作委員会〉といった名前になるでしょうか。


私たち〈編み人知らず〉は遥か高度経済成長期の時代に、都会に労働力を供給するために建築された郊外のマンモス団地とともに誕生しました。もとはと言えば、団地に暮らす女性たちが集まって結成された、数ある手芸サークルの一つだったのです。

すでに半世紀以上の歴史があり(私のお婆ちゃんも初期会員の一人でした)、会員数は公表されてはいませんが、それなりの人数にのぼります。あえて宣伝はしていませんけど、社会活動も活発に行っていますので、組織としての活動内容に関して知りたければインターネットで調べてもらえればいいかと思います。ここでは私は〈スナフキンの帽子〉について話したいと思うのです。なにぶん問い合わせの多い製品ですので。


世間では〈スナフキンの帽子〉と名の付いた商品が広く売られているようです。それについて私たちはなにも知りません。私たちが作っている〈スナフキンの帽子〉は、どこの店にも、通販にも、インターネットにも、売られてはいないからです。私たちの〈スナフキンの帽子〉は製品ではあっても商品ではありません。売り買いするものではありません。まず最初にこの点についてお断りしておきたいと思います。

「送りたい製品を送りたい場所にとどける」が私たち〈編み人知らず〉の基本姿勢です。行きたい場所に行きたいときにおもむく、トーべ・ヤンソンが描いた山高帽をかぶった人物と同じです。その分とどいた製品はすべて無料になっています。

私たちは写真愛好家のみなさんが欲しいものをフィルムに収めるように、欲しいものを糸を使って編みだしてみせるのです。


つづく

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