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第六話

ここでの生活から5日が経過した。

 入学式の前日。

 夕方を過ぎる頃には、リビングにも少しずつ生活感が出始めていた。

 なおはローテーブルにスケッチブックを広げている。

 晴瑠奈はソファの端。

 彩愛は床。

 鳴美はその少し離れたところで、左脚を伸ばしていた。

「赤間」

「何?」

「それ取って」

 鳴美が指差した先に、テレビのリモコンがある。

 なおが取る。

「はい」

 手を伸ばした鳴美へ――渡さない。

「……赤間?」

「何?」

「リモコン」

「うん」

「ください」

「彩芽ちゃんが見てる」

「は?」

 床に寝転がっていた彩愛が顔を上げる。

「私?」

「今見てたでしょ」

「見てた」

 なおはそのまま彩愛へリモコンを渡した。

「はい」

「ありがと」

「おい」

 鳴美が身体を起こす。

「何でそっち行った?」

「彩芽ちゃんが先に見てたから」

「俺が頼んだよね?」

「頼まれただけ」

「裏切りだろ」

「味方になった覚えないけど」

 彩愛が笑う。

「ざんねーん」

「お前それ俺のだぞ」

「知らなーい」

「パクんな」

「証拠は?」

「二日前から俺が言ってんだろ!」

 なおが二人を見ながら言った。

「著作権ってあるの?」

「ある」

「ないだろ」

「俺が今作った」

「今?」

「今」

「じゃあ彩芽ちゃんが先に使ってたから、彩芽ちゃんのじゃない?」

「赤間さん?」

「何?」

「最近ちょっとそっち側来てない?」

「そっち側って?」

「面倒くさい側」

 なおは少し考えた。

「長谷川くんに言われると微妙」

「ほら!」

 彩愛が笑った。

「赤間分かってんじゃん」

「お前が育てたみたいな顔すんな」

「私の教育」

「何もしてねえよ」

 少し離れたソファで、晴瑠奈が息を吐く。

「……またやってんの」

 三人が一度そちらを見る。

「何が?」

 鳴美が聞く。

「そういうの」

「そういうのって?」

「小学生みたいなの」

「俺は巻き込まれてる側」

「誰が」

 彩愛が即座に返した。

「今リモコン取ろうとしたの長谷川じゃん」

「普通にテレビ変えようとしただけだろ」

「人が見てるのに?」

「お前さっきスマホ見てただろ」

「耳で聞いてた」

「便利なこと言うな」

「ほんとくだらない」

 晴瑠奈はそう言って、またスマートフォンへ視線を落とした。

 以前なら、こういう騒ぎが始まれば部屋へ戻っていた。

 今は戻らない。

 だからといって混ざるわけでもない。

 ただ、そこにいる。

 鳴美はそれ以上晴瑠奈へ絡まず、リモコンも諦めた。

「もういいわ」

「諦めた?」

「一橋に譲ってやった」

「負けたんでしょ」

「はいはい」

 鳴美は再び左脚を伸ばした。

 膝を曲げる。

 伸ばす。

 ゆっくりと何度か繰り返す。

 そのあと、太腿に力を入れて止めた。

 彩愛が横目で見る。

「今日ちょっと張ってる?」

「若干」

「歩いた?」

「昼ちょっと」

「やりすぎじゃない?」

「そこまでじゃない」

「ならいいけど」

 二人の声が、それまでより少しだけ落ち着く。

 晴瑠奈がスマートフォンから目を上げた。

「……それ」

 鳴美が見る。

「何?」

「膝、怪我してんの?」

「してる」

「結構ちゃんと?」

「まあ」

 鳴美は左膝に手を置いた。

「前十字」

 晴瑠奈の眉が少し動く。

「……前十字靱帯?」

「そう」

「それ、結構やばいやつじゃない?」

「軽くはないな」

「いつ?」

「去年の十月」

「手術したの?」

「二月」

 晴瑠奈が少し黙った。

 今は三月の終わり。

「……まだそんな経ってないじゃん」

「うん」

「なのに引っ越し初日、あんな掃除してたの?」

「掃除くらいなら平気」

「買い物も行ってたし」

「歩くのはもう大丈夫」

「走れないの?」

「まだ」

「何してたの?」

「サッカー」

「……ふーん」

 それ以上、晴瑠奈は聞かなかった。

 鳴美も話さない。

 ただまた膝を伸ばして、同じ動きを続ける。

 彩愛が言う。

「こいつ朝もやってるよ」

「お前が言うなよ」

「何が」

「俺の生活紹介すんな」

「別にいいじゃん」

「俺のだぞ」

「減らないし」

「そういう問題じゃねえ」

 晴瑠奈が鳴美を見る。

 初めて会った時から、妙に動く男だとは思っていた。

 掃除をして。

 料理をして。

 買い物へ行って。

 他人のものには触らず。

 必要な時には話して。

 必要がなくなれば勝手に離れる。

 そのくせ一橋相手には、意味の分からないことばかりしている。

 さらに、膝まで壊していた。

「……変なの」

「何が?」

「別に」

「またそれ?」

「話しかけないで」

「はい」

 鳴美はすぐ前を向いた。

 晴瑠奈もまたスマートフォンへ戻る。

 彩愛が二人を交互に見た。

「そのやり取り毎回同じじゃない?」

「うるさい」

「お前が言うな」

 二人から同時に返される。

「何で私!?」

     *

 夜九時四十五分。

 入学式の前日だというのに、リビングにはまだ四人とも残っていた。

 なおはローテーブルで明日の持ち物を確認している。

 晴瑠奈はソファの端でスマートフォン。

 彩愛は、その隣。

 鳴美もソファに座っていた。

 そして。

 二人の間には、クッションが一つあった。

「それ私の」

「共有だろ」

「今私が使ってた」

「置いてあった」

「トイレ行っただけ」

「席を離れた時点で所有権失効しました」

「しないから」

 彩愛が手を伸ばす。

 鳴美がクッションを反対側へ動かした。

「返して」

「嫌」

「何で?」

「取ったから」

「だから私が使ってたって言ってんじゃん」

「証拠は?」

「なお、見てたよね?」

 なおが顔を上げる。

「使ってた」

「ほら!」

「赤間、余計なこと言うな」

「聞かれたから」

 彩愛がもう一度手を伸ばす。

 鳴美が上へ逃がした。

「うざ!」

「取ってみろよ」

「その言い方ムカつく!」

「頑張れ頑張れ」

「お前……!」

 彩愛が身を乗り出す。

 鳴美が身体を引く。

「こっち来んな」

「じゃあ返せ!」

「嫌でーす」

「ガキ!」

「お前もな!」

 晴瑠奈は今度はもうスマートフォンから目を離さなかった。

 ただ、そのまま息を吐く。

「ほんと小学生」

「俺は違う」

「お前が一番ガキ!」

「はい一橋さん必死でーす」

「うざ!」

 その時だった。

 玄関の方から音がした。

 鍵が回る。

「ん?」

 なおが最初に顔を上げた。

 ドアが開く。

 続いて、キャリーケースの車輪が床を転がる音。

 鳴美と彩愛も動きを止める。

 一人の女の子が入ってきた。

 長い、明るい髪。

 服も髪もきっちり整っている。

 片手には大きめのバッグ。

 足元にはキャリーケース。

「ただいま」

 女の子は玄関からリビングを見て――

「……え」

 少し止まった。

「めっちゃ綺麗になってる」

 以前とは明らかに違う。

 床に散らばっていたものはなく、共有物も整理されている。

 女の子の視線が部屋の中を回った。

 そして、晴瑠奈で止まる。

「……武田さん?」

 晴瑠奈も相手を見る。

「東江さん?」

「うん」

 女の子が軽く笑った。

「東江ジュン。初めまして」

「武田晴瑠奈。よろしく」

「よろしく」

 これが二人の初対面だった。

 ジュンはもう一度リビングを見る。

 それから晴瑠奈へ、

「ていうか、マジありがとう」

「……何が?」

「ここ。片づけてくれたんでしょ?」

「え」

 晴瑠奈が少し止まる。

「私じゃないけど」

「え?」

「ほぼ長谷川」

 ジュンの視線が動いた。

 ソファ。

 そこには、クッションを抱えた男子。

「……君が?」

「まあ」

 鳴美も立ち上がる。

「長谷川鳴美。よろしく」

「ああ」

 ジュンも鳴美を見る。

「東江ジュン。よろしく」

「よろしく」

 ちゃんとしている。

 思ったより普通に礼儀がある。

 その時。

 鳴美の横で。

 彩愛が、そっと手を伸ばした。

 狙いはクッション。

 ジュンを見たまま、鳴美がスッと右へ逃がす。

 彩愛の手が空を切った。

「……」

「今日戻ってきたんだ?」

 鳴美は普通に話を続ける。

「うん。明日入学式だから」

 彩愛がもう一度。

 今度は反対側から。

 鳴美、左へ。

 また外れる。

 そこで鳴美が横目を向けた。

「ざんねーん」

「……うざ」

「人が挨拶してる隙狙うとか卑怯ですねー」

「返さない方が悪い」

「取れると思った?」

「今のは取れた」

「取れてませーん」

 ジュンが黙って二人を見る。

「……何してるの?」

「こいつがクッション返さない」

「一橋が勝手に所有権主張してる」

「使ってたの!」

「置いたの!」

「トイレ!」

「知らん!」

「さっきからずっとこれ」

 なおが淡々と補足した。

 ジュンがそちらを見る。

「赤間さん?」

「うん。赤間なお」

「初めまして。東江ジュン」

「よろしく」

「よろしく」

 ジュンはまた鳴美を見る。

 挨拶は普通だった。

 家も片づけたらしい。

 受け答えもちゃんとしている。

 なのに。

 クッション一個で女子と争っている。

 礼儀正しい。

 ちゃんとしている。

 それなのに、なんとなく。

 小学生っぽい。

「……じゃ、私戻る」

 晴瑠奈が立った。

 ジュンがそちらを見る。

「もう?」

「うん。明日あるし」

「そっか」

「……よろしく、東江さん」

「うん。よろしく」

「おやすみ」

「おやすみ」

 晴瑠奈はそのまま二階へ上がっていった。

「……」

 ジュンが一瞬だけ階段を見る。

 初対面だった。

 ほんの数分。

 そして、もういなくなった。

「……自由だね」

 小さく呟く。

「この家みんなそうだよ」

 彩愛が言った。

「お前が筆頭な」

「長谷川もでしょ」

「一緒にすんな」

「今クッション持ってんのお前じゃん」

「まだ言ってる」

 彩愛が時計を見る。

「……って、もうこんな時間じゃん」

 十時が近い。

 彩愛は一気に力を抜いた。

「もういい」

 鳴美が即座に笑う。

「諦めた?」

「違う。疲れた」

「敗北宣言でーす」

「明日から朝早いんだよ」

「はいはい」

「部活も本格的に始まるし」

 彩愛が立ち上がる。

「もう寝る」

「おやすみ」

「クッション明日返して」

「覚えてたら」

「絶対だから」

「はいはい」

「その返事ムカつく」

「早く寝ろ」

「うざ」

 彩愛も二階へ消えた。

 なおが時計を見る。

「じゃあ私も戻る」

 ジュンが少し目を丸くする。

「赤間さんも?」

「うん。やりたいことあるから」

「そっか」

「おやすみ」

「おやすみ」

 なおも二階へ上がった。

 静かになる。

「……」

 ジュンはリビングを見回す。

 ほんの少し前まで、あれだけ騒がしかったのに。

 もう誰もいない。

 残っているのは、自分と鳴美だけ。

 その鳴美もクッションを元の場所へ戻した。

「俺もストレッチして寝るか」

「え」

「何?」

「いや……」

「明日入学式だろ」

「そうだけど」

「じゃ、おやすみ」

「待って」

 階段へ向かいかけた鳴美が止まる。

「何?」

 ジュンがリビングを見回した。

「君が片付けたんだよね?」

「ほぼ」

「だったら、少し説明してくれない?」

「何を?」

「何がどこにあるのか。前と変わってるから」

「ああ」

 それなら分かる。

 一週間近く空けていたなら、共有物の位置が変わっていて当然だ。

「共有のだけな」

「うん」

「個人のは触ってない」

「分かった」

 鳴美はキッチンへ向かう。

「食器はほぼそのまま。調味料はこっち」

「うん」

「冷蔵庫、上二段が共有。名前あるやつは個人」

「了解」

「洗剤は洗面所の下。掃除用のはこっちに移した」

「なんで?」

「前だと取りづらかったから」

「なるほど」

「ゴミ袋ここ。ペーパー類は棚の下」

「結構変えたんだね」

「初日えぐかったから」

「一橋さん?」

「主犯」

 即答だった。

 ジュンが少し笑う。

「そこは想像つく」

「知ってんの?」

「少しは」

「なら話早い」

 一通り説明する。

 数分。

「以上」

「ありがと」

「おう」

「じゃ、また明日」

「はいよ」

 あっさり終わった。

 鳴美は少しだけ拍子抜けする。

 東江ジュン。

 聞いたことがある。

 芸能活動をしている。

 一週間近く家を空けていた。

 もし、人を当然のように使うタイプだったら。

 かなり面倒だと思っていた。

 けれど。

 必要な説明だけ聞いて、あとは自分でやるらしい。

 鳴美は内心、少し安心した。

     *

 それから十分ほどして。

 鳴美は自室でストレッチをしていた。

 左脚を伸ばす。

 身体を倒す。

 戻す。

 明日の準備もほとんど終わっている。

 あとは寝るだけ。

 その時。

 コンコン。

「ん?」

「長谷川くん」

 ジュンの声。

 鳴美の動きが止まる。

 少しだけ。

 嫌な予感がした。

「何?」

「ちょっといい?」

 鳴美は立ち上がる。

 ドアを開けた。

「何」

「……手伝ってほしい」

「ほら来た」

「何その反応」

 ジュンの後ろを見る。

 キャリーケース。

 大きなバッグ。

 仕事用らしいケース。

 紙袋。

 さらにもう一つ。

「……多くない?」

「一週間分だから」

「全部今日やんの?」

「全部じゃない。明日必要な分だけ」

「じゃあ頑張れ」

 鳴美がドアを閉めようとする。

「待って」

「何」

「手伝ってほしいって言ったんだけど」

「聞いた」

「じゃあ手伝って」

「嫌でーす」

「なんで?」

「俺もう寝る準備してるから」

「二人でやれば早いよ」

「お前がな」

「私が早く終わる」

「そうだな」

「じゃあ」

「俺には何のメリットもねえ」

 ジュンが少し黙った。

「……別に、君に全部やってほしいって言ってるわけじゃないよ」

「じゃあ自分でやればいいじゃん」

「だから、できるところまでは自分でやった」

 ジュンは廊下の荷物を見る。

「でも、これ一人でやるより二人の方が早い」

「それはそう」

「だから長谷川くんに頼ることにした」

「それは東江の選択だろ」

「うん」

 ジュンは普通に頷いた。

「だから、今度は君が選べばいいじゃん」

「何を?」

「私に頼られるか、断るか」

「……じゃあ断る」

「困る」

「選ばせる気ねえじゃん!」

「選ばせてるよ」

「断ったら困るって言ってんだろ!」

「だって、断られたら私は困るから」

「それはお前の事情だろ!」

「うん」

「うんじゃねえ!」

 ジュンは本当に不思議そうな顔をする。

「私が頼るって決めた」

「うん」

「長谷川くんは、それに応えるかどうか選ぶ」

「うん」

「だからちゃんと別々に選んでるでしょ」

「じゃあ今俺断ったよな?」

「断った」

「終了」

「でも私は困る」

「戻ってきた!」

「困るって言うのも私の自由でしょ」

「強えな!」

 鳴美が額を押さえる。

 ジュンは本気だった。

 丸め込もうとしている顔ではない。

 自分が選ぶ。

 相手も選ぶ。

 それで成立する。

 本当にそれだけだと思っているらしい。

「……で」

 鳴美が言う。

「俺が最後まで断ったら?」

「自分でやる」

「やるんじゃん」

「他にいないから」

「じゃあやれよ!」

「でも長谷川くんが手伝う方を選んでくれたら、もっと早い」

「まだ俺選んでねえ!」

「だから選んで」

「嫌でーす」

「なんで?」

「寝たいからでーす」

「じゃあどこまでならいい?」

「……」

 そこで鳴美が止まった。

 全部やらせろではない。

 手伝うことそのものを当然だと言っているわけでもない。

 ただ、自分は頼ると決めた。

 だから、お前も答えを出せ。

 そういうことらしい。

 鳴美は廊下の荷物を見る。

「……重いのだけ」

「うん」

「キャリーとデカいバッグ」

「机まで運んで」

「増やすな」

「置き場所がそこだから」

「……そこまで」

「ありがと」

「細かい整理は自分でやれよ」

「それは最初から自分でやる」

「じゃあ何でこんな揉めたんだよ」

「長谷川くんが最初に全部断ったから」

「寝たかったんだよ!」

 ジュンが少し笑った。

「でも、手伝う方選んでくれたじゃん」

「重いのだけな」

「うん」

 その言い方が、妙に満足そうだった。

「十三分」

「何が?」

「制限時間」

「十五分」

「勝手に増やすな」

「十四」

「十三」

「十三分半」

「刻むな!」

「じゃあ十三分半」

「……もうそれでいい」

「決まり」

 鳴美は頭を掻きながら廊下へ出た。

 大きなバッグを持ち上げる。

「重っ」

「でしょ?」

「何入ってんの」

「色々」

「便利だなその言葉」

「一週間分」

「答えになってねえ」

 ジュンが自室のドアを開ける。

「そこ置いて」

「はい」

「ありがと」

「あと十二分四十秒」

「本当に数えてるの?」

「当然」

「小学生みたい」

 鳴美が止まった。

「今日それ言われんの三回目くらいなんだけど」

「じゃあ多分そうなんじゃない?」

「違いますー」

「今ので確信した」

「うるせえ」

     *

 時計が、十時二十七分を回った頃。

 最後の大きな荷物を運び終えた。

「はい、終わり」

「ありがと」

「細かいのは自分でやれよ」

「分かってる」

「じゃあ寝る」

「うん。また明日」

「おう」

 鳴美は部屋を出る。

 ドアを閉めながら、少しだけ思う。

 東江ジュン。

 最初は、思ったよりまともな奴だと思った。

 多分、それ自体は間違っていない。

 自分のことは自分でやる。

 礼儀もある。

 他人が嫌がれば、最終的には無理やりやらせたりもしない。

 ただ。

 自分が誰かを選んだ時。

 その相手にも、ちゃんと自分との関係を選んでほしい。

 どうやら、そういう奴らしい。

 そして。

 それをかなり当然のことだと思っている。

「……めんどくさ」

 小さく呟く。

 部屋の中から、

「聞こえてるけど」

「聞かせてんだよ」

「失礼」

「おやすみ」

「おやすみ」

 鳴美は自室へ戻った。

 入学式前日の夜。

 五人目の住人が帰ってきた。

 そして、この家にはまた一人。

 違う方向に面倒な奴が増えた。

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