流 楽太16歳。
俺の名前は流 楽太。
なんの脈絡もなく辺境の地へ飛ばされてしまった16歳。
可哀想と哀れんでくれ。
先程まで、普段通り当たり前な日常を謳歌していたはずだった俺は、突然目の前が暗転したかと思ったらここにいた。
何をいってるかわからないと思うが俺もわからない。
異世界転移だとか記憶喪失だとか、たぶんそんなところであろうが、だがそんな予測が立ったところで、ただの一般高校生である俺に受け入れられるはずがない。
ので、今こうして見たことも聞いたこともないクソでかい巨大樹の下で寝っ転がりながら、ぼーっと葉っぱの数を数えているわけだ。
この巨大樹は今いる辺境の地、ビンボー村なんてまんますぎる名前をした場所の観光名所で、この世界でこの木を知らないものはいないらしい……なんて、そこら辺にいた農家のおっさんが言っていた。
まあつまり、さっきいった通り、それが本当なら異世界転移だし、田舎というちっちゃい世界の中での話なら記憶喪失の可能性が高そうというわけだ。
……どっちもの可能性だってあるが。
それもこれも、暗転なんてどうとでも解釈できる演出を挟んでここへ連れてきた誰かが悪いのだ。
おそらくこんなわけがわからないような風になってしまったのも、全部そいつのせいだ。
そうだ、全部そいつのせいにしよう。
この後食うものなくて野垂れ死んでも、それもそいつのせいにしよう。
例え俺のせいでこうなっていたんだとしても、その時の記憶はないんだから関係ない。
なんせ今の俺は、完全に無敵なのだから。
「御神木に寄り掛かって寝るなんて……罰当たりな人」
「別にいいんだよ。罰ならもう食らってるから。とびっきり理不尽なやつを」
「マナーの話よ。聞こえたならさっさとそこから退きなさい」
「わかってますよ。せっかく現実逃避中だったのになー」
目を開けて立ち上がらんとしたその時だった。
視界に映った準露出狂のような格好から映える溢れんばかりの巨峰が、俺の記憶域にあるなにかを刺激した。
「あああああああああああ俺の名前は流楽太17歳カスみたいなミスで殺された憐れで可哀想な少年A!」
そ……そうだ!俺は17歳で理不尽に殺された憐れな憐れな少年Aだった!
何が異世界転移か記憶喪失だ!転移どころか転生じゃないか!
ふざけ……おっと、記憶喪失になった原因の半分くらいは俺だった。
あんな格好をしていたとはいえ、耐えられなかった自分自身が恥ずかし……くはないな。
むしろ自然だ。当然だ。
あんな格好をされていたのなら、思春期男子がああなってしまうのは当たり前なのだ。
さて、記憶を取り戻したはいいものの、少々問題が残っている。
それは、女神に植え付けてもらった記憶がないことだ。
なんのこっちゃと思うかもしれないが、これは記憶を失っていたことと関係している。
あの時、服を着ろだの隠せだのわめいていた時に提案されていた最終手段。
それは、相手の脳内に直接情報を焼き付ける方法だったのだが、失敗すれば焼き付けた情報ごと直近の記憶が一時的に焼失するものだった。
まあ当然失敗したからこんなことになっているのだが、問題は焼き付けられたはずの情報がなぜか忘れたままだということだ。
このままでは俺は、ノーヒント異世界攻略を強制させられてしまう。
というかそもそも、事前にさまざまな情報を与えられること事態が異例中の超異例らしく、つまりこの世界が、そうせざるを得ないほど凶悪な場所であるということでもある。
今の状態からの攻略はどう考えても絶対に不可能。
というわけで、なんとかして思い出したい。
思い出さなければならない。
なんせこの転生には、俺の復活がかかっているのだから。
「えっと……なんで急に自己紹介?」
困惑するたわわな他人を気にすることなく、俺は記憶が蘇った原因を考え始める。
まず考えられるのは、やはり彼女。
状況的に、彼女をみたことで記憶が蘇ったのは間違いない。
あとは、彼女の「何を」みたか。
彼女の上から下までを、まるで変態のようにじっくり眺める。
「やっぱり胸か」
「……話しかけた私が悪かったわ。ごめんなさい。それじゃあさようなら」
「ちょっと待って!たぶんそれ誤解!誤解だから!」
そう言って、危ないものから逃げようとする彼女のかたを掴んで止める。
そして、必死の弁明を始めた。
「その、俺、さっきまで記憶喪失ってやつでさ!信じられないかもしれないけど、本当のことで、つまり何が言いたいかって言うと、凄い変態チックに聞こえるかもしれないけど、君の胸をみたことで思い出せたんだ!でも、まだ思い出せない事があって、それがこの世界を救うことに繋がるとかそんなんらしくて、だからお願いだ!胸をもう少しはだけさせて見せてくれ!俺の一生をかけていいから!」
……返事がない。
というか、さっきから彼女はまったく動かない。
目蓋を閉じないし、目線を合わせようともそらそうともしないし、まずあの流れで素直に立ち止まってくれるとかありえないのでは?
だって、村の御神木を枕にして寝る罰当たりってだけじゃなく、突然自己紹介始めたり、さらに第四声が「胸」の男が待ってなんて言ったって待ってくれんだろ普通。
「あの!おーい!聞こえてますかー!」
一応、無視されている可能性に賭けて大声で話しかけてみる。
が、反応はない。
今度は、揺すったり、つついたりしてみる。
全く動かない。
まるでその場で固定されたかのように、固まって動かなくなっている。
これ、もしかして時間停止とかそういう類のやつ?
なんにしろ、どうして突然こんなことに……あ。
原因を一瞬考えて、たった一つ思い浮かぶ。
俺が、触ったからだ。
……いやいやいや、おかしいだろそれは。
俺が触ったってだけで、人が動かなくなるとかそんなわけ……。
と、思っていた。
が、よくよく考えてみれば、俺は転生者で、くっそ難度の高い世界に連れてこられた可能性が高い身。
だが俺は、なんの変哲もない一般的な高校生。
そんな人間を、ただの人間のままで送り込んだりするだろうか。
俺が同じ立場なら、そんな無謀なことは絶対にしない。
じゃあもしかして、じゃあつまり、じゃあやっぱり俺に与えられたってこと!?
時間停止の……能力が!
「都会の人はいいっぺな、暇そうで。ああ忙しい忙しい」
と言って、通り過ぎていく村人B。
……うぬぼれだった。
全然止まっていないじゃないか。
止まっているのは彼女だけで、他は普段通り普通に過ごして……。
てことはもしかして、その場に固定する的な能力だったりして。
そう考えて、その辺にあった小石を掴んで持ち上げると、その場で下へ落としてみる。
ぽとりと落ちた小石を見て、またむなしい気持ちに落ちる俺。
違うじゃないか……違うじゃないか!
俺、ぜんっぜん能力者じゃないじゃんか!
でもさ、なにかあるはずなんだ!
でなきゃ、彼女があそこで動けなくなってる理由を説明できないし!
……いやまて。やっぱり彼女のイタズラなんじゃないか?
だってそうなら、この全てに説明がつくじゃないか。
彼女が動けないのも、なぜ急に動けなくなったか説明できないのも、全部だ。
そうならば今頃、今の俺を見てほくそ笑んでいるに違いない。
なんてひどい奴なんだ。
さて、そんなひどい奴にはどうしてやろうか。
まずは……動きたくてたまらなくしてやろう。
そうだな例えば……む……胸を触るとか?
触る!?
無理!
だってそういうのって、よくない事じゃんか!
でっ……でもでも……確認のためにしかたなくっていうか!
いやでもでも!
なら別の場所を触ればいいんじゃ……ほっぺとか。
いやもう知るか!
だいたい、ほっぺ触られたからって動揺するか? いいやしない!
だからこれは、しょうがないことなんだ!!!!!!
堅かった。
ああいや、筋肉とかパットとかそういうんじゃなくて、何て言うか……石。
けして揉んだわけではない。
最初は。
つついたのだ。
で、あまりに石だったからその……まあそんな話は今はいい。
やっぱりこれは、彼女のイタズラなんかじゃない。
本当に、動けなくなっているのだ。
やはり俺が原因なんだろうが、しかしなあ。
分かっていることなんて、触った相手を石みたいに動かなくするとかそんなのしか……でも能力発動しなくなっちゃったし。
……待て。
発動しなくなったのではなく、発動できない可能性はないだろうか。
例えば、発動条件があるとか。
触れるだけじゃなくて、他にも何か必要とか。
さっきはたまたま条件を達成していたから発動しただけとか。
そう考えれば、辻褄は合う。
じゃあその条件っていったい……。
そいえば、あの時俺は、触りながら何かを言っていた。
確か……
「〈ちょっと待って〉……〈ちょっと待って〉。・・・あっ」
発言していた言葉の中に答えを見つけ、再び小石を拾い上げる。そしてあの言葉を言って小石を離した。
「止まって」
物理法則ガン無視で空中に停滞する小石。
やっぱりだ……やっぱり俺、なってるじゃないか!
ものを止める、能力者に!
心が踊り、肌がぞわっとする。
嬉しくて跳び跳ねたくなる気分だが、まだその時ではない。
止める方法は分かったのだ。
だから次は、解除する方法を見つける番だ。
そうしなければ、彼女の説得すら出来ない。
なので、今度は彼女に触れてこう言ってみる。
「解除する!」
……動き出さない。
「そして時は動き出す! 再始動!動け!動いていいよ!解除!」
……動き出す気配がない。
当てずっぽうに色々言ってみたものの、どれも動き出す気配はない。
これは不味いかもしれない。
さっきは一度止めていたから、そこから考えて答えにたどり着くことができた。
だが俺は、止めた経験はあっても、解除した経験はない。
さっきと同じような方法は使えない。
詰んだ。終わった。
彼女はもう死んだのだ。
死んでないけど、もう死んだということにしよう。
彼女のはだけた胸を見ればなにか思い出すかと思ったが、こうなるならばしょうがない。
諦めて、まずは能力の使い方をマスターする方向にシフトしよう……ん?
閃きの電流が頭に流れる。
よく考えてみれば、そうじゃないか。
時間停止にしろ、動きを止めるにしろ、止まっているのは本人だけ。
服やアクセサリーなんて付属品は、その対象外なのではないか?
じゃなきゃ、時間停止ものがHなジャンルとして定着するわけないし!
そう思った時にはすでに、彼女の胸部へと手が延びて……って、ダメダメ!
俺、いつからそんなスケベ心に支配される愚かなバカに成り下がったんだよ。
あくまで健全。
それでいくのが自然なの。
……でも、確認は必要だし?
性能チェック的な部分でも必要だし?
異世界攻略難易度緩和に必要だと思うし?
世界を救うんだから、どんな犠牲も惜しむべきじゃないだろうて。
ならいいか!
……いやいやダメだろダメ。
でも確認は必要だし……す……スカートめくるくらいなら……?
……ダメだわこれ。
めくろうとしたらカッチカチになってるし。
これ、身に付けてるものごと止まるタイプのヤツっぽいわ。
てことは、やっぱり諦めておとなしく能力開発に勤しむとするか。
まずは……どのくらいの大きさなら止められるのかやってみよう。
そういって、最初にちょうど良いところにあった御神木に触れ、止まって、と言った次の瞬間。
「離しなさ……え?」
さっきまでうんともすんとも言わなかった女性が、困惑の声と共に動き出したのだ。
俺は驚く。
解除する方法はあったのだ。
ぼうっと彼女を見つめる俺に、彼女は話しかけてくる。
「あなた、いつの間にそんなところに?」
「いつの間にっていうか……ああ、そうだ。ちょっと、俺の一生賭けてでもお願いしたいことがあるんだけど」
「嫌よ。変態」
「ちょっとま……いったん話を聞いてください!俺、異世界から来てて、信じられないかもしれないけど、この世界をどうにかしないと元の世界に帰れないとか言われてて、だからどうにかしなくちゃ行けないんだ!」
「だからなに?もしかして、私に仲間になれって言いたいの?」
「そうじゃない。俺、今大事な記憶を忘れて!だから、それを思い出す手伝いをしてほしいんだ!」
「できるわけないでしょ。魔法使いじゃ無いんだし」
「いやできる。むしろ、俺を送り込んだ女神と重なる容姿を持つ貴方にしか頼めないことなんだ!」
「そんなに言うなら聞いてあげようじゃない。なにを手伝えば良いのかしら」
「胸をちょっとはだけさせて見せてほしいんだ!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
・ここまでの冒険をセーブしますか?
▽
はい いいえ
高評価とかいろいろお願いします。




