歪みの解放
「くっ、消化器……!くそっ、邪魔するんじゃねぇよ……!」
悪魔は振り返り、神様に苛立った声を浴びせる。
その声は、鋭く震えていた。
「……君は本当に酷い。よくもまぁ、彼女の精神をあそこまで歪める事が出来るねぇ?」
神様は呆れた表情で呟く。
言葉の端に、どこか疲れたような諦めが滲む。
「はぁ……?歪めてなんかいねぇよ!俺はあの女の本心を解放してやっただけだ!」
悪魔は目を見開いて、神様に言う。
その瞳に、自信と苛立ちが渦巻いている。
「うん。本心とは……?君の言い分聞こうか」
神様は淡々と続ける。
声は静かで、しかし確かだ。
「あの女はスポ根漫画が好きなんだよ。熱く生きるヤツが好きなんだよ!その本心を解放させて、熱く生きてねぇアイツを殺させようとしたんだよ!俺、間違ってるか!?」
悪魔は自信に満ち溢れた表情で神様に問いかける。
言葉の一つ一つが、まるで自分の正しさを証明しようとするように、強く響く。
「う〜んとね……?僕、あまりスポ根漫画は読まないの。だから、僕が間違ってるかもしれないけど、僕の言い分聞いてくれる?」
神様は顎に手を当て考えながら言う。
その仕草は、どこか穏やかで、しかし容赦ない。
「おうおう、聞かせてもらいましょうか!はい、貴方の間違ってる言い分をどうぞ!」
悪魔は満面の笑みを浮かべて、神様に言う。
笑みは、嘲るように、しかしどこか必死に歪んでいる。
「……スポ根漫画ってああいう風に殺すの?」
神様はシンプルに問いかける。
表情はない。
ただ、言葉だけが、静かに落ちる。
「……えっ?」
悪魔は固まる。
その一瞬、影がわずかに揺らぐ。
「いや、僕のイメージなんだけどね?スポ根漫画ってのは、ああいう時にさ?熱く説教するみたいなイメージなんだよ。殴るとか、平手打ちはあるような気がする……でも、ああいう風に首絞めて殺すってのは、あるの?」
神様は淡々と問いかける。
言葉は穏やかだが、核心を突くように、重く沈む。
「え〜っとね……うん、うん……えっとね……」
悪魔は口籠る。
声が、途切れ途切れに小さくなる。
「いや、僕が無知だったらごめんね?ああいう感じで殺しちゃうようなスポ根漫画ってあるの?あるのなら、教えてよ。今、僕が無知で的外れな事言っちゃってるかもしれないからね?教えて?」
神様は問いかけ続ける。
声に、優しさはない。
ただ、事実だけが、静かに積み重なる。
「う、うるせぇっ……!もういいっ……!悪魔の俺は精神操作だけじゃねぇって所を見せてやる……!てめぇの使った消化器を利用させて貰うぜ……!」
悪魔は神様から視線を外し、再び力を使い始める。
その背中は、苛立ちと、逃げるように震えていた。
「えっ、いや、漫画は?そういう漫画はあるの?お〜い」
背後から神様が声をかけるが、悪魔の耳には届かない。
いや、悪魔は無視をしている。
悪魔は次の手を、静かに、しかし確実に、練り始めていた。




