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神と悪魔の小さな戦争  作者: 星狼


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4/12

手のひらの熱

階段の踊り場に、足音が響いた。

佐藤遥は息を切らしながら駆け下り、明の姿を捉えると一瞬、立ち止まった。

彼女の目は、怒りと、何かもっと深い、古い傷が混じった光を宿していた。


明は壁に背を預け、喉を押さえながら息を整えようとしていた。

まだ、肺に昼の空気が冷たく残っている。

生きている。

また、生きてしまった。


遥はゆっくりと近づき、明の胸倉を掴んだ。

指が布地を強く握りしめ、顔を近づける。

その瞳は、燃えるように、しかしどこか虚ろだった。


「アタシ、アンタみたいな命を大事にしないヤツ、大嫌いなんだよ……」


声は低く、震えていた。

言葉の端に、抑えきれない感情が滲む。


そして、次の瞬間。

遥の両手が、明の首に回された。

指が喉仏を強く押さえ込む。

力が、予想以上に強い。

息が、途切れる。

視界が、ゆっくりと狭まっていく。

肺が焼けるように痛む。

明は反射的に手を伸ばしたが、遥の腕はびくともしない。

彼女の目は、もう怒りを通り越して、どこか遠くを見ているようだった。


遥の頭の奥に、悪魔の声が滑り込んでいる。


――そうだ、絞めろ。こいつは死ぬべきだ。お前がやれば、誰も責めない。

お前自身が、こんなクズに救う価値なんてないと思ってるだろ?

絞めろ。終わらせてやれ。


遥の指に、さらに力がこもる。

彼女の心の隙は、深かった。


高校時代、遥はバレーボール部にいた。

コートの上では、誰よりも全力で、誰よりも声を出し、誰よりも体を張った。

家には、棚いっぱいのスポ根漫画が並んでいる。

『ハイキュー!!』『黒子のバスケ』『SLAM DUNK』……

どれも、諦めない心、仲間と共に戦う姿、全力でぶつかる瞬間を描いた物語。

遥は、そういう人生が好きだった。

日々全力で戦うこと。

全力で生きること。

それが、彼女の信条だった。


なのに、今、目の前の男は、自ら命を投げ出そうとした。

全力で生きることを、放棄した。

それは遥にとって、許せない裏切りだった。

自分の信じたものを、嘲笑うような行為だった。

高校のコートで味わった汗と涙と、仲間との絆を、すべて無意味にするような行為だった。


悪魔はその隙を、正確に突いた。


――お前は全力で生きてきたのに、こいつは投げ出した。

許せないだろ?

なら、終わらせてやれ。

お前の手で。


遥の指が、さらに締まる。

明の視界が、黒く滲む。

意識が、遠のく。

遥の精神が、悪魔に操られている。

首を絞める手は、まるで自分の意志のように、

確実に力を増していく。


明の肺が、焼ける。

喉が、潰れる。

世界が、静かに暗くなっていく。

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