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神と悪魔の小さな戦争  作者: 星狼


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2/12

受け止めるもの

落ち続ける体は、風に裂かれるように加速していた。

昼の光が、容赦なく明の顔を照らし、瞼の裏まで白く染める。

視界は狭まり、ただ地面だけが、貪欲に迫ってくる。

もうすぐ終わる。

もうすぐ、何もかもが静かになる。


だが――


視界の端に、突然、巨大な網が横切った。

ビルとビルの狭い隙間に張られた、建設用の安全ネット。

今朝から本格的に設置されたばかりのもの。

明の軌道は、まるで誰かに導かれたように、その網の中央――最も張りの強い、柔らかく凹んだ部分――へ、ぴたりと落ちた。


体が、網に触れた瞬間、世界が一瞬、息を止めた。

衝撃は骨まで響くはずだった。

なのに、網は予想以上にしなやかで、最新の衝撃吸収素材が、明の体重と速度をゆっくりと受け止めた。

体は深く沈み込み、網の繊維が静かに軋みながら、衝撃を吸い取っていく。

まるで巨大な手のひらが、優しく、しかし確実に体を抱き締めるように。


網は大きく湾曲し、その反動で体をゆっくりと持ち上げ、弧を描いて跳ね返した。

軌道は絶妙に調整され、隣のビルの非常階段の手すりに、背中が軽く当たる程度で止まった。

手すりがわずかに揺れ、明の体は、階段の踊り場に、まるで誰かにそっと置かれたように、仰向けに着地した。


痛みは、ほとんどなかった。

背中が少し打った程度。

息がわずかに乱れているだけ。

服は乱れ、髪は風でぐしゃぐしゃだったが、骨は一本も折れていない。

内臓も、頭も、無傷。

ただ、地面に叩きつけられるはずだった体が、ここに、生きて、横たわっている。


昼の光が、踊り場に差し込み、明の顔を白く照らす。

空は、まだ青く、高い。

雲一つなく、ただ広がっている。


明は、冷たいコンクリートの床に仰向けのまま、

ぼんやりと天井を見上げた。

落ちたはずだ。

死ぬはずだった。

なのに、肺はまだ空気を求め、心臓はまだ鳴っている。


飛び降りは、確かに成功した。

だが、この網の張り具合と、手すりの位置。

どちらも、この場所に「元からあった」もの。

ただ、タイミングと軌道が、完璧に噛み合っただけ。


死に損ねたという事実が、

今まで以上に重く、冷たく、胸の奥に沈んでいく。

生きていることの残酷さが、

昼の光の下で、こんなにもはっきりと、肌に触れた。


屋上から、誰かの叫び声が階段を駆け下りてくる。

「あんた!生きてる!?ちょっと待って!」


足音が近づいてくる。

明は、目を閉じた。

落ちたかった。


だが、体は動く。

息はできる。

心臓は、まだ、鳴り続けている。

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