49-6 煙突掃除
「……やったか!?」
「第一声がそれかよ。まずは俺の安否を気にするとこだろ」
「ま、いやーそうなんだけど、これ一度言ってみたかったのよね」
「さいですか……で、気分はどうだ? 晴れたか?」
「えぇスッキリしたわ。でも、無傷なことだけは癪に障るけどね」
「いや十分だろ……俺の姿を見てみろよ……」
大袈裟に両手を広げて一回転してみせると、莉緒は視線を上下したのちクスリと一笑。言葉を交わさずとも分かる。満足したようで何よりなわけだが、こっちはそれどころではない。本来なら日が沈むまで鍛練を続行する予定だったのが、アクシデントにより大幅に予定変更となりそうだ。
(まあ俺の気分次第なところはあるけど……)
ルンルン気分でカラドボルグを鞄に仕舞う莉緒を横目に俺は深くため息をつく。あれほど早起きできたと自慢していたのに、相手はもう切り上げる気満々なご様子。まだ1時間すら経っていないというのに、もう帰宅しようとしている。本当に何をしに来たんだ……こいつは。
「ああ気分いいわ♪」
鼻唄交じりにそんな戯言が耳に入ってくる。ちょっとばかし言い返してやろうとも思ったが沈黙を貫くことにした。ここで事を構えて二発目が飛んでくるのはごめんこうむる。
それに次の攻撃は無傷で凌げる可能性が非常に低く、ほとんどゼロといってもいいほどだ。なぜなら安心安全な強固な戦術がリキャストタイムに突入しているからだ。あの技能無しで完全に防ぎ切るとなると、相当難易度が跳ね上がる。かすり傷一つにしても、莉緒に戦闘においてマウントをとられるなど耐え難い苦痛だ。絶対に悟られてはいけない、気づかれてはいけない。強くなっては欲しいけど、俺よりも強くなるのはなんか違う。
(……アレ? 俺って案外面倒な性格してんのか……)
双対術式により爆発を込めた一撃。莉緒が繰り出した衝撃波により俺は爆炎の渦に包み込まれた。少しでも技能を発動するのが遅かったら、今頃焼け焦げて空き地に転がっていたはずだ。
技能のおかげで無傷ではあるけど、煙突掃除でもしたのかってぐらいに全身煤まみれの砂まみれである。これはもう払い落すとか以前の話じゃない。風呂に入りたい、制服を洗濯機にブチ込みたい。
「風呂うんぬんの前に、まずはこっちだな……」
手元に視線を落とし童子切安綱の状況を確認する。刀身から柄頭まで煤まみれ砂まみれで、鞘に至っては中にまで侵入している。お手軽収納術からペットボトルを取り出しジャブジャブと水をかけて洗い流す。鞘はひっくり返して鐺をトントンと叩いて中に入った砂を落として、あとは納刀すれば終り。結構雑に扱っても問題ないのが、未知なる戦利品のいいところだ。
余った分の水を頭からぶっかけようかとも思ったが実行に移すことはなかった。裾が濡れただけでもテンションがダダ下がりしてしまう人間が頭から水をかぶる。その瞬間だけは最高かもしれないけど、その後が最悪すぎる。全身ビチャビチャの状態で帰宅しなければならない。どう考えても精神的によろしくない。でもこのまま何もしないという選択肢もあり得ない。なのでタオルを濡らして拭っておいた。
焦土化どころか無傷な空き地に感動しているとふいに肩を叩かれる。どうやら帰る用意ができたらしい。振り向くとそこにはバッチリと帰宅準備を済ませた莉緒の姿があった。
その容姿を見て俺は目を疑った。空き地に来た時よりも身なりが整っている。ボサボサだった髪はサラサラで化粧直しも完璧。その中でも特に驚いたのは服装だ。まさかのジャージから制服に変化していた。
「あたしは一旦帰るけど、あんたはどうする?」
「……マジック?」
「凪あんたなに言ってんの?」
「ああごめん、そうだな。俺も一旦帰宅するよ。誰かさんのせいでボロボロだからな」
「元はと言えば、あんたがあたしを煽るのが悪くない?」
「ぐっ痛いところを突いてくるな。確かにそうかも。しゃーねぇ、その鞄よこせ……」
手を差し伸べて鞄を渡すように促すと、莉緒はコクリと頷き肩から鞄を滑らせる。鞄を受け取った瞬間にパニックになった。10キロどころかその倍いやそれ以上の重量がある。こんなものを肩にかけた状態で彼女は男爵屋敷から空き地まで休みなく走ってきた。それも土煙が舞い上がるほどの速度でだ。狂戦士その言葉が脳裏をよぎる。
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