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偽の聖女の汚名を着せられました~あなたたちが信じた聖女は、魔王です~  作者: 冬木ゆあ


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第8話 セス一族

 しばらくして男性は戻ってきた。


「お待たせいたしました。ご案内いたします」


 男性は屋敷にミシェルたちを招き入れた。男性について廊下を歩いていくと、一つの部屋の襖の前で、男性は膝をつき、声をかけた。


「ご当主様、お客人をお連れいたしました」


 そう言ってから襖を開けた。そこは和室で、白髪と長いひげを蓄えた着物姿の男性が座っていた。


「どうぞお座りください」


 ミシェルたちはそれぞれ用意されていた座布団に座った。

 先に口を開いたのは男性だった。


「当主のダニエルです。ヤニック殿から連絡は受けています。魔王が現れ、聖女様が勇者を探していると」


 ミシェルはうなずいた。


「おっしゃる通りです。こちらに勇者の剣があるとお伺いして参りました」


 ダニエルは自身の横に置いてある剣を手に取った。そして、それをミシェルに差し出した。受け取ったミシェルはその剣をまじまじと見た。ずっしりと重く、かすかに聖なる気配を感じた。


「それが勇者の剣です。抜いてごらんなさい」


 ミシェルはうなずき、鞘から剣を抜こうとしたがびくともしない。


「……抜けない?」

「そうです。その剣は勇者のみが抜ける。つまりはそれを抜けた者が勇者です」


 それにマリオンが首を横に傾げた。


「ひとりひとりに剣を抜けるか聞いて回るってこと……?」


 ミシェルとアルベールもそれに困惑した表情を浮かべた。


「それは非効率だろう。それに、まだ民には魔王が現れたことを悟られたくない」

「そうね。下手に騒ぎになれば、魔王に私たちがここにいることを知らせてしまうことになりかねない」


 ミシェルたちが考え込んでいると、ダニエルはわずかに頭を下げた。


「我々は勇者の剣をお守りするのが役目で、勇者に関する手がかりはなにひとつなく……。申し訳ない」


 それにミシェルは両手を振った。


「ダニエル様が謝る必要はありません。勇者は私たちで探します」


 ミシェルたちは勇者の剣をダニエルから預かり、屋敷をあとにした。


 辺りはもう日が暮れて暗くなっている。今日は野宿をして夜を明かすことにした。

 ミシェルたちは焚火を囲み、アルベールはさっきから勇者の剣を抜こうとやっきになっている。それをマリオンは呆れた目で見ていた。


「何度試したって抜けないって。あきらめなよ」

「くそっ。なんで抜けないんだ? 本当に勇者なら抜けるのか? この剣……」


 ミシェルは焚火を見つめながらぽつりと言った。


「どうやって勇者を探そう……」


 アルベールとマリオンはミシェルに視線を向けた。アルベールは剣を横に置き、空を見上げた。


「二人は勇者ってどんな人だと思う?」


 その質問にマリオンは首を横に傾げながら答えた。


「うーん、剣の腕が凄くて、みんなに優しそう」


 それにミシェルが首を横に傾げた。


「私は屈強で大柄な少し怖そうな人を思い浮かべたな」


 アルベールはうなずいた。


「勇者像も人それぞれだ。見た目だけで探すこともできない。となれば……」


 ミシェルとマリオンはアルベールの言葉の続きを待ったが、アルベールは首を横に傾げた。


「なにも思いつかない」


 その回答にミシェルとマリオンは苦笑を浮かべた。

 ミシェルは小さくため息をついた。


「地道に探すしかない……か」


 アルベールはミシェルに視線を向けた。


「いったん帝都へ戻ろう。皇帝陛下に報告をし、今後の方針を決めた方がいい」


 それにミシェルはうなずいた。



 翌日。

 帝都へ戻るため、ミシェルたちはアクセル山を下山していた。

 ミシェルは、はっと後ろを振り返った。隣にいたアルベールはそれを不思議に思い、尋ねた。


「ミシェ、どうかしたか?」

「気のせいかしら。視線を感じた気がして……」


 アルベールとマリオンも振り返り、辺りを見回すが、なにもいない。アルベールはミシェルを安心させるように言った。


「きっと獣か魔獣だろう。さぁ、行こう」


 ミシェルは後ろ髪を引かれる思いがしたが、前を向いて歩き出した。

 しばらくして、アルベールが後ろを気にしながら、腰に差した剣のグリップに手をかけた。それから声をひそめて言った。


「ミシェがさっき言っていたこと、気のせいではないかもしれない」


 ミシェルとマリオンが振り返ろうとしたので、それをアルベールは手で制止した。


「今は気づかないふりをした方がいい。何が目的かわからない」


 ミシェルたちは背後を警戒しながらも、前へと歩みを進めた。そのときだった。アルベールが振り向きざまに剣を抜き、襲ってきた男性の剣を受け止めた。

 ミシェルはその人物を見て、緑の瞳を大きく見開いた。


「クリス騎士団長……!」


 杖を取り出して構えたマリオンと、剣を受け止めているアルベールがミシェルに視線を向けた。ミシェルは信じられないものを見るような目で、クリスを見つめていた。クリスは、ぼんやりとした顔で、口からは黒い靄が出ている。


「あれは瘴気。おそらくクリス騎士団長はヘンリエッタに操られている」


 クリスとアルベールはお互い距離を取り、剣を構えていた。アルベールはその隙に背負っていた勇者の剣を投げ、それをマリオンは受け取った。その隙をつくようにクリスが剣で斬りかかってきたので、アルベールはそれを避け、数歩下がった。

 ミシェルはそのタイミングで呪文を唱えた。


「ホーリーバースト!」


 クリスの足元から聖なる光があふれたが、ヘンリエッタのときと同じく、クリスには効かなかった。クリスの顔が怪しく笑みを浮かべた。


「聖女ミシェルよ、まさかこんなところにいたとはな。ずいぶんと探したぞ」


 その声はクリスのものではなかったが、ミシェルはその声に聞き覚えがあった。ヘンリエッタの口から聞いた男性の声だ。


「……魔王ね」


 それにクリスは首を横に傾げた。


「なんだ。すでにそこまで掴んでいたのか。――まぁ、いい。ここで死んでもらおう」


 クリスはアルベールに斬りかかり、アルベールはそれを剣で受けたが、弾き飛ばされ、木に背を打ちつけた。倒れたアルベールは、腕を斬られたようで流血している。マリオンがアルベールに気を取られている間に、クリスはミシェルとの距離を詰めた。

 アルベールはそれを見て、起き上がりながら叫んだ。


「ミシェ! 危ない!」


 ミシェルは呪文を唱えようとしたが、間に合わず、クリスの手がミシェルの首を掴んだ。ミシェルは浮き上がる足をばたつかせて抵抗し、口からは苦しげな声が漏れた。


 ――これ、二度目に殺されたときと同じ……。


 そのときの記憶が蘇り、ミシェルはまた殺されるかもしれない恐怖に怯えた。

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