第7話 ひと休み
部屋に戻った三人は、それぞれベッドに座り、話しはじめた。
まず、アルベールが言った。
「さっきの話ですが、聖都が封鎖されているという話」
ミシェルはあごに手をやった。
「おそらく私を探していますね。まだドルレアン帝国に逃れていることは気づかれていないとみていいでしょか?」
今度はマリオンが口を開いた。
「ミシェは、どうやって国境超えたの?」
それにミシェルとアルベールは驚いたようにマリオンを見た。マリオンは目をぱちくりさせた。
「なになに? そんなに驚くこと聞いた?」
アルベールが戸惑いながらうなずいた。
「ミシェル様をミシェ……?」
マリオンはうなずいた。
「旅人が名前に様をつけて話していたら怪しいって。だから、ミシェとアル」
そう言って、マリオンはミシェルとアルベールを順番に指差した。アルベールは唖然としていたが、ミシェルはうなずいた。
「たしかにマリオンの言う通りかもしれません。アルベール様、アルとお呼びしていいですか?」
それにアルベールは唖然としたままミシェルを見た。
「もちろんです。ですが、ミシェル様をミシェと呼ぶのは……」
「両親と暮らしていたとき、そう呼ばれていました。懐かしくて、嬉しい」
ミシェルがそう言って微笑むものだから、アルベールは息を深く吐き、覚悟を決めた。
「では、恐れ多いですが、ミシェと呼ばせていただきます……」
「はい、アル」
アルベールは耳まで真っ赤で、それをマリオンが笑った。それをアルベールは軽くにらんだが、ミシェルに視線を向けた。
「それで、ミシェはどうやって国境を越えたのですか?」
「ワイン商人に頼んで樽に忍ばせていただきました。おそらくしばらくは私がドルレアン帝国にいることはばれないと思います」
アルベールはうなずいた。
「ドルレアン帝国に問い合わせがきたとしても、皇帝陛下がとりなしてくれるだろう。とはいえ、早く勇者を見つけるに越したことはありません」
ミシェルとマリオンはうなずいた。
翌日からまた乗合馬車で移動し、アクセル山の麓の街、ベルモンド温泉街に到着した。
マリオンは一番に馬車を降りて伸びをした。
「温泉に入ろう!」
アルベールはそれに眉間に皺を寄せた。
「そんな悠長にしている場合か?」
「でも、今日はここで一泊でしょう? ならいいじゃん。それにミシェを見てごらんよ」
アルベールがミシェルを振り返ると、ミシェルは緑の瞳を輝かせていた。
「温泉……!」
アルベールは観念したように額に手を当てた。
「ああ。温泉に入ろう……!」
「ありがとうございます。アル」
嬉しそうにしているミシェルにアルベールは困ったような笑みを浮かべていた。
三人は温泉のある宿屋に部屋をとり、ミシェルとマリオンは女湯の、アルベールは男湯の暖簾をくぐった。
ミシェルは、はじめての温泉を前に久しぶりに心が軽くなっているのを感じた。露天風呂でマリオンと並んで体を流していると、マリオンがミシェルの背後に回った。
「ミシェ、背中流してあげるよ」
「ありがとう、マリオン」
マリオンが手を石鹸で泡立てて、ミシェルの背中に触れた。
「うわぁ! ミシェの肌、すべすべだね!」
「くすぐったいよ、マリオン」
二人は楽しげに笑っていた。
一方、ひとり男湯にいたアルベールはお湯に浸かりながらそれを聞いていた。
「マリオンのやつ、声大きいな……」
――とはいえ、マリオンが一緒に来てくれて、ミシェル様が少し明るくなったような気がする。それはいいことだ。
アルベールは深く息をついて、岩に背を預けた。
風呂から戻ってしばらくすると、料理が運ばれてきた。それを三人でゆっくりと食べたあと、それぞれ布団の上でくつろいでいた。
ミシェルはうつぶせで、うとうとしながら言った。
「久しぶりにゆっくりした気持ちになれました」
それにアルベールとマリオンが顔を見合わせて微笑んだ。マリオンはミシェルの横にくっついた。
「ミシェは気負いすぎ。あたいもアルもいるんだから、もっと頼ってよ」
「ありがとう、マリオン」
ミシェルのわずかにマリオンにくっついて、二人は顔を見合わせてくすくすと笑っている。
アルベールはふと気がついた。
「ミシェはマリオンには敬語じゃないのですね」
ミシェルはアルベールに視線を向けた。
「たしかに。いつの間にかマリオンには敬語じゃないですね」
アルベールはミシェルから視線をわずかに逸らし、少し照れくさそうに言った。
「俺にも敬語じゃなくていいですよ」
それにマリオンはにやにやとしながらアルベールを冷やかした。
「あー! うらやましいんだ」
アルベールは顔を真っ赤にした。
「うるさいぞ、マリオン」
ミシェルはくすくすと笑って、わずかに首を横に傾げた。
「アルが、敬語じゃなくなったら、私もそうします」
アルベールはそれにこほんと咳ばらいをした。
「わかった。俺も敬語は使わない」
「じゃあ、今から敬語は禁止ね」
ミシェルはそう言って微笑んだ。
翌日はアクセル山を登り、数日歩いた山間に木造の大きな屋敷が一軒だけぽつりとあった。マリオンはその家のドアをノックした。若い男性が顔を出し、警戒したようにマリオンを見た。
「魔塔の研究員のマリオンと申します。マスターヤニックのおつかいで参りました。御当主様はご在宅でしょうか?」
男性は少し警戒を緩めたようで、わずかに笑みを浮かべた。
「少々お待ちください」
そう言って、男性は屋敷に戻った。
アルベールは驚いた顔でマリオンに視線を向けた。
「ちゃんとできるんじゃないか」
「できないとは言ってないもん。やらないだけだもん」
その回答に、アルベールは苦虫をかんだような顔をした。




