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偽の聖女の汚名を着せられました~あなたたちが信じた聖女は、魔王です~  作者: 冬木ゆあ


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第2話 どちらが本物の聖女か

 ミシェルは飛び起き、額にかいた汗を拭った。


「……夢?」


 ――それにしては、随分と生々しかった。


 ミシェルは貫かれたはずの胸に触れた。正確に鼓動を打っている。自身を落ち着かせようと深呼吸をして、朝のお祈りのための準備をはじめた。

 聖堂に向かって廊下を歩いていると、背後からヘンリエッタの声がした。


「ミシェル、おはよう!」


 ミシェルはびくりと体を震わせ、恐ろしいものを見るような目をヘンリエッタに向けた。


「ごめん、びっくりさせちゃった?」


 ヘンリエッタは可愛らしく首を横に傾げ、不安そうにそう尋ねた。ミシェルは無理やり笑みを浮かべ、首を横に振る。


「ううん。こっちこそごめんなさい。驚いてしまって」


 ――そうよ、あれはすべて夢に違いない。ヘンリエッタが、まさか……。


 顔色の悪いミシェルの顔をヘンリエッタが覗き込んだ。


「体調が悪そうよ?」

「平気よ。さぁ、朝のお祈りの時間よ」


 ミシェルとヘンリエッタは、並んで聖堂へと入っていった。


 ミシェルはあれが本当に夢だったのか、いまだに判別がつかずにいた。夢を見てから数日が経ったが、なんとなく以前に体験したような気もして、けれど、大きな出来事があったわけでもなく、気にしすぎのような気もする。

 今日も朝からもやもやしていると、ヘンリエッタがミシェルを背後から抱きしめた。


「おはよう、ミシェル!」


 ――これ、覚えている。瘴気を感じた日と同じだ。


 ミシェルはおそるおそる振り返り、ヘンリエッタを見た。


「……おはよう、ヘンリエッタ」

「さぁ、お祈りにいきましょう」


 ヘンリエッタは笑顔でミシェルの手を取り、歩き出した。ミシェルは覚悟を決め、ヘンリエッタの背中を見つめていた。

 女神像にひざまずき、ミシェルとヘンリエッタは祈りはじめた。けれど、ミシェルは集中できず、隣にいるヘンリエッタに気がいってしまう。


 ――お願い。あれは夢だったと証明して……。


 すると、ミシェルは瘴気を感じ、勢いよく立ち上がった。ヘンリエッタが驚いた顔でミシェルを見上げた。


「どうしたの? ミシェル」


 ミシェルは真っ青な顔で呼吸が乱れていた。


 ――あれは夢じゃない。私はなぜか時を戻ったんだ……。


 そう確信して、ミシェルはヘンリエッタを睨んだ。ヘンリエッタは立ち上がり、心配そうにミシェルに手を伸ばした。


「最近、様子がおかしいわよ。ミシェル、いったいどうしたの?」


 ミシェルはヘンリエッタの手をはたき、杖を取り出した。


「私に触らないで! ――ホーリーバースト!」


 ミシェルが呪文を唱えると、ヘンリエッタの足元から聖なる光があふれた。しかし、ヘンリエッタはきょとんとした顔をしていて、首を横に傾げた。


「なぜばれた?」


 そうヘンリエッタは男性の声で言った。その声に聞き覚えがあり、ミシェルの背にぞくりとしたものが走った。


 ――ホーリーバーストが効かない? 魔の者ではない?


 ミシェルは杖を両手で握り、数歩後ろに下がった。ヘンリエッタはそれを詰めるようにミシェルに近寄り、ミシェルの首を掴んだ。その力は強く、ミシェルは浮いた足を必死にばたつかせた。苦しげな声がミシェルの口から洩れた。

 ヘンリエッタは表情を変えずに、ミシェルを見上げていた。


「もうしばらく生かしておこうと思っていたが、そうもいかんな」


 それを聞いて、ミシェルは最後の力を振り絞って自身の首を絞めるヘンリエッタの手を掻き、足でヘンリエッタを蹴ったが、びくともしない。


「さようなら、ミシェル。――ダークネスファイア」


 ミシェルを黒い炎が包み、次の瞬間にはミシェルは跡形もなく消えた。


 ミシェルはベッドの上で、また目を覚ました。荒い息を整えようとして、口元に左手をやった。


 ――また戻ってきた……?


 布団に置いた右手はひどく震えている。


 ――あれには、私ひとりではかなわない。


 ミシェルは覚悟を決め、支度をはじめた。

 聖堂に向かう途中、ヘンリエッタを見つけ、深呼吸をしてからヘンリエッタに声をかけた。


「おはよう、ヘンリエッタ」

「ミシェル、おはよう。珍しい。わたしの方が早いなんて」

「ちょっと朝寝坊してしまったの」


 ミシェルはヘンリエッタに並んで歩き出した。


 ――いつも通りよ、ミシェル。怪しまれたら、また殺されるわ。


 ミシェルは震える手で、スカートを握った。


 お祈りを終え、自室に戻ったミシェルは、窓辺に置かれた椅子に座った。晴れ渡る冬の空に目を向け、これからのことを考えていた。


 ――たしか一回目に殺されたとき、二代前の聖女の骨で器を作ったと、あいつは言っていた。一度、確かめてみよう。


 ミシェルは立ち上がり、ローブを着て、部屋を出た。

 賑わう街をひとり歩き、街門を出ようとして衛兵に声をかけられた。


「聖女様、おひとりで街の外へ?」

「ええ。ちょっと森の様子を見に行ってくるわ」

「お気をつけて」


 ミシェルは強張った笑みを浮かべてうなずいた。

 森を少しいくと、そこには歴代の聖女たちが眠る聖墓がある。洞窟になっており、その入り口に立って、ミシェルは異変に気づいた。


 ――結界が解けている。


 魔獣や獣に荒らされないように、張られていた結界が跡形もなく消えていた。


 ――誰か来たときに気づけるよう、結果を張っておこう。


 ミシェルは杖を取り出した。


「ホーリーバリア」


 それから洞窟に足を踏み入れた。少しいくと、光が差した。そこは広場になっており、天井はない。聖女たちが眠る墓がある場所だった。

 ミシェルは片隅にある小屋に入り、スコップを一本拝借した。それを持って、二代前の聖女の墓を探しはじめた。


 ――たしか名は、エリザベス、だったかしら。


 ミシェルは墓の名前をひとつずつ確かめながら歩いていた。


「これだわ。失礼します。エリザベス様」


 ミシェルが掘り返そうとしたとき、はっと洞窟の入り口の方を見た。


 ――誰かが結界に触れた……。


 魔獣や獣の可能性もあったが、万が一のことを考え、ミシェルは辺りを見回し、小屋の裏側へと隠れた。

 そこに現れたのは、教皇騎士団の団長クリスだった。他に騎士が三人いる。


「エリザベス様の墓だ」


 四人は手分けして探し、ひとりの騎士がクリスを振り返った。


「団長、こちらです!」


 スコップを持ったひとりがエリザベスの墓を掘り返した。そこにはなにもない。騎士はそれを見て、息を呑んだ。


「やはりヘンリエッタ様がおっしゃったとおりだ……」


 クリスはそれにうなずく。


「まさかミシェル様が、二代前の聖女を器にした魔王だったなんて……。ずっと騙されていたんだ。――急いで戻るぞ。教皇様にご報告しなければ」


 クリスたちは駆けていった。

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