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偽の聖女の汚名を着せられました~あなたたちが信じた聖女は、魔王です~  作者: 冬木ゆあ


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第12話 ヘンリエッタ

 聖都の西門に辿り着いたが、門は固く閉ざされ、誰ひとりとして姿を現さなかった。アルベールは聖都に向かって、叫んだ。


「門を開けていただきたい」


 けれど、それに返答はない。アルベールはマリオンにうなずいた。マリオンはほうきを取り出し、クリスと共に上空へと飛行した。それに騎士団から感嘆の声が上がった。

 マリオンはクリスを背後に乗せ、門の上空までたどり着いた。そして、聖都を見て、マリオンは水色の瞳を見開いた。


「なんだこれ……」

「急いで門を開けましょう」


 二人は門の上の通路に降り立ち、クリスの先導で門のハンドルのある場所まで走った。クリスがハンドルを操作している間、マリオンは辺りを警戒していたが、やはり誰ひとりとして姿を現さなかった。


 西門が開き、先頭にいたアルベール、ミシェル、クリスは絶句した。街の人々が大勢倒れていたのだ。嫌な予感が当たり、ミシェルは奥歯を噛みしめた。

 アルベールが騎士団を振り返った。


「生存者を探せ!」


 騎士団員たちは街に散らばり、倒れた人を抱え起こした。騎士たちが無念そうに首を横に振る中、ひとつ声が上がった。


「生きています!」


 ちょうどマリオンとともに戻ってきたクリスが、その声に反応し、そばにいった。騎士の隣に膝をつき、意識を失っている男性に手をかざした。


「ヒール」


 すると、男性はうめき声を上げながら目を開けた。クリスが尋ねた。


「なにがあった?」

「……急に意識が遠くなって」


 クリスは周りにいる騎士たちに声をかけた。


「生存者はわたしのもとへ!」


 ミシェルはクリスそばに馬を寄せた。


「ここは頼みます。私たちはヘンリエッタのもとへ」


 クリスはうなずいて、ミシェルを見上げた。


「どうかお気をつけて」


 ミシェルはうなずき、アルベール、マリオンとともに教会へと向かった。聖都は瘴気に満ちていて、ミシェルは眉間に皺を寄せた。


 ――教会に近づくにつれて瘴気が濃くなっていく……。ヘンリエッタは間違いなく、教会にいる。


 教会の前で馬から降りて、ミシェルは教会の扉を開いた。すると、鈴を転がすようなヘンリエッタの笑い声が聞こえた。視線を先にやると、講壇に腰かけているヘンリエッタがいた。ヘンリエッタは足を組み、膝に肘をつき、頬に手を添えていた。


「おかえり、ミシェル」

「……ただいま、ヘンリエッタ。いいえ、魔王と呼んだ方が正しいのかしら?」


 ヘンリエッタは相変わらず笑っている。ミシェルは教会の中ほどまで歩いていった。ヘンリエッタも講壇から降り、ミシェルへと歩み寄った。ミシェルはヘンリエッタを見据えた。


「もう好き勝手にはさせない。聖都は返してもらう!」

「やれるものならな!」


 ヘンリエッタは男性の声になり、そう言った。そして、手の中に黒い剣が現れ、それでミシェルへと斬りかかった。アルベールはそれと対のような光をまとった勇者の剣で、ヘンリエッタの剣を受け止めた。

 ミシェルは少し下がり、杖を取り出し、マリオンと並んだ。マリオンはアルベールがヘンリエッタから離れたのを見計らって呪文を唱えた。


「サンダーアロー」


 雷の矢がヘンリエッタに向かって飛んだが、ヘンリエッタはそれを剣で薙ぎ払った。アルベールがその隙に打ち込んだが、ヘンリエッタはそれを後退して避けた。そして、剣先をアルベールへと向けた。


「ダークネスファイア」

「ホーリーバースト」


 ヘンリエッタが放った魔法にミシェルは自身の魔法を当てた。拮抗していたが、ミシェルのホーリーバーストの方がわずかに強く、ヘンリエッタのダークネスファイアを押し返した。


 ――ヘンリエッタにホーリーバーストは効かないけど、放った魔法には対抗できる!


 ミシェルはそう手ごたえを感じていた。すると、ヘンリエッタはわずかに剣を逸らし、ミシェルの魔法を避けてかわした。

 アルベールとヘンリエッタはまた剣を交え、凄まじい剣戟を繰り広げた。次第にヘンリエッタはアルベールの勢いに押され、顔を歪めた。マリオンはアルベールを援護するように呪文を唱えた。


「アイスブレイド」


 氷の刃がヘンリエッタに刺さり、わずかに姿勢を崩した。アルベールはヘンリエッタの首を切った。ヘンリエッタの口から黒いもやが勢いよく吹き出し、骨に戻り、乾いた音を立ててその場に倒れた。器を失った黒いもやは、今度は一番近くにいたアルベールに憑りついた。それを見たミシェルは叫んだ。


「アル!」


 振り返ったアルベールの口から黒もやが出ていて、にやりと笑った。


「この体はなかなかいい」


 魔王の声でそう言って、勇者の剣を軽く振った。それから、ミシェルとマリオンに向かって歩き出し、剣を振りかぶったときだった。アルベールの顔が歪んだ。


「抵抗する気か……?」

「俺の体を好きにはさせない……!」


 振りかぶった剣は震えながら下がり、アルベール自身を刺した。すると、アルベールの口から黒いもやが噴き出した。


「よくも追い出したな!」


 黒いもやが膝をついているアルベールに再び憑りつこうとしたが、ミシェルはそうはさせなかった。


「ホーリーバースト」


 黒いもやは、ミシェルが放った聖なる光に包まれた。


「こんな小娘に……」


 苦しげな声でそう言いながら、黒いもやは跡形もなく消滅した。

 アルベールは肩で息をしながら立ち上がり、呟くように言った。


「終わったのか……?」

「まだよ。聖都を包む瘴気が消えない」


 ミシェルは教会の奥へと進んでいく。それをアルベールとマリオンは追った。追いついたアルベールがミシェルに尋ねた。


「どこに行くんだ?」

「聖堂に。聖女が祈りを捧げる場所」


 ミシェルは聖堂に到着すると、女神像に向かってひざまずき、瞳を閉じた。


 ――女神エレノアよ。私に聖都を救う力をお与えください。


 祈りを捧げるミシェルから聖なる光があふれ、風が吹いた。アルベールとマリオンは辺りを見回した。


「空気が軽くなったような気がする……」

「あたいもそう感じるよ」


 その風は聖都中に広がり、優しく瘴気を払っていく。外で救助活動をしていたクリスが顔を上げた。


「これは聖女ミシェルの魔力……」


 クリスがまだ手当できていなかった生存者たちがゆっくりと起き上がった。

 曇っていた空に光が差した。

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