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偽の聖女の汚名を着せられました~あなたたちが信じた聖女は、魔王です~  作者: 冬木ゆあ


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第11話 進軍

 帝国騎士団の訓練場に騎士たちが整列し、アルベールは馬上からそれを見下ろした。


「これより教皇領へと向かう。聖女ミシェルが聖都を取り戻すため、共に我らも戦おう。これは侵略ではなく、聖戦である!」


 声高らかにそう言ったアルベールに呼応するように雄叫びが上がった。アルベールが先陣を切り、その後ろをマリオン、ミシェル、クリスが同じく馬に乗り続いた。その後ろに帝国騎士団の騎士たちが追随し、進軍を開始した。

 ミシェルは金髪のウィッグを被り、シスター服姿で、髪を切る前のミシェルのようだった。馬に乗ったその姿は神々しく、騎士たちの士気は上がった。


 一行が国境につくと、ドルレアン帝国側の国境警備隊はすぐに道を開けたが、教皇領側の国境警備隊は蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。

 アルベールは教皇領の国境警備隊に告げた。


「聖女ミシェルの帰還である。道を開けよ」


 ひとりの若い騎士がアルベールの前にひざまずいた。


「皇弟殿下とお見受けいたします。ただいま国境警備隊隊長に報告いたします。今しばらくお待ちいただけますでしょうか」

「急いでいる。早急に頼む」


 騎士は立ち上がり、一礼し、アルベールの背後にいるミシェルと、クリスの姿を確認し、踵を返して、建物へと入っていった。

 その騎士は、国境警備隊隊長の執務室をノックした。返答があり、室内に入ると、そこにはすでに隊長と副隊長がいて、対応を協議しているところだった。隊長マシューは入ってきた騎士に尋ねた。


「どうだった?」

「間違いありません。聖女ミシェルと、クリス騎士団長です」

「クリス騎士団長が国境を通った記録はありますが、聖女ミシェルの記録はありません」


 そう言ったのは副隊長であるロビーだった。それにマシューはあごに手をやった。


「どういうことだ? なぜクリス騎士団長と聖女ミシェルが共にいる。教皇様は聖女ミシェルが偽の聖女だと通達し、捕縛するためクリス騎士団長は探しにドルレアン帝国に行ったはずだ」


 ロビーは唸り声を上げた。


「聖都は封鎖されているとも聞きます。最近の騒動はどこかおかしいと思いませんか」


 それにマシューはうなずいた。


「教皇様に問い合わせても、返信どころか使者さえも帰ってこない。なにが正しくて、なにが間違っているのか。これは正しく見極めなければならん。――俺がクリス騎士団長と話してこよう」

「わたしも同行します」


 マシューとロビーは外に出て、アルベールの前にひざまずいた。


「皇弟殿下にご挨拶申し上げます。国境警備隊隊長マシューと申します。ご一緒にいらっしゃるのは、聖女ミシェルとクリス騎士団長とお見受けいたします」


 クリスはわずかに前に出て答えた。


「そうだ。聖女ミシェルが聖都へ帰還される。国境を開放せよ」

「クリス騎士団長は我らの上長であらせられますが、教皇騎士団は教皇様が聖女をお守りするために作った騎士団。その教皇様が聖女ミシェルは偽物だとおっしゃっている。それはクリス騎士団長もご存じのはず。ご説明いただけないでしょうか?」


 クリスはうなずき、馬から降りて、マシューの前に立った。


「我々はヘンリエッタに騙されていた。真の聖女はミシェル様である。聖都を取り戻すため、ドルレアン帝国は手を貸してくださった」


 マシューは顔を上げ、クリスを見上げた。それから馬上のミシェルを見上げる。そのミシェルの表情は毅然としていた。ずっと崇めてきた存在がそこにいて、偽の聖女だとは思えなかった。


「……今ここに国境警備隊としているのは、わたしと、副隊長のロビーだけ。わたしの権限で道を開けましょう」


 マシューは道の横に避け、ロビーもそれに従った。ふたりはミシェルに頭を下げた。


「ご武運をお祈り申し上げます、聖女ミシェル」

「ご理解いただき、感謝します」


 ミシェルがそう言うと、アルベールは進軍を再開した。マシューは顔を上げ、金の髪をなびかせて自身の前を通っていくミシェルを見上げた。


「どうかご無事で……」


 マシューは一行が見えなくなるまで後姿を見送った。隣に立つロビーに呟くように言った。


「これでよかったと思うか?」

「……わたしにはあの方が偽の聖女とは思えませんでした」


 ロビーの答えに、マシューは重くうなずいた。


 その日の夜。

 野営をして夜を明かすことにしたミシェルたちは、一つのテントに集まり、話し合いをしていた。顔ぶれは、ミシェル、アルベール、マリオン、クリスだ。

 アルベールは腕を組み、地図に目を向けながら言った。


「俺たちが教皇領に入ったことをヘンリエッタが認識していると考えた方がいいだろう」


 それにクリスはうなずいた。


「常に最悪を考えた方がいいでしょう。わたしとしては、ここまで戦わずして来られたことに拍子抜けしているくらいです」

「たしかに静かすぎる……」


 ミシェルはそう言って考えるようにあごに手をやった。

 マリオンが首を横に傾げた。


「聖都までおびき寄せるつもりなのかも」


 ミシェルはマリオンに視線を向けた。


「明日には聖都に到着するわ。封鎖されている聖都にどうやって進軍するかも考えないと」


 クリスはそれに答えた。


「街門は内側からしか開けられないので、門を壊すしかないでしょう」

「どうやって?」


 ミシェルの問いに、クリスは腕を組んで考えた。


「……丸太で押し開けるくらいしか思いつきません」

「あまり時間はかけられないわ」


 そのとき、マリオンが自身を指差した。


「内側に回り込んで、開ければいいでしょう? あたいやろうか?」


 視線が一斉にマリオンに向いた。アルベールは尋ねた。


「どうやって内側に回り込むんだ?」

「空を飛んでだよ」


 マリオンはそう言って人差し指を上に向けた。それに一同は驚き、ミシェルが首を横に傾げた。


「空を飛べるの?」

「うん。あたいの研究テーマだよ。まだそんなに長い時間は飛べないけど、外壁を越えるくらいならできなくない」


 クリスはうなずき、それからマリオンに尋ねた。


「二人、いけますか? 街門の扉の開閉はハンドルを回して開けます。それがなかなか重く、時間がかかります。なので、わたしが開けるので、マリオンさんには時間稼ぎをお願いしたい」

「うーん。クリスひとりなら何とかなるかな。やってみよう」


 そう言って、マリオンがテントの外に出たので、ミシェルたちも後に続いた。マリオンが手をかざすと、ほうきが現れた。それにまたがり、クリスに視線を向けた。


「後ろに乗って」

「こ、こうでしょうか?」

「しっかり掴まっていてね」


 マリオンがそう言うと、ゆっくりと浮かび上がり、どんどんと高度を上げていく。時々、左右に揺れている。

 地上に降り立ち、マリオンは後ろにいるクリスを振り返った。


「問題なさそうだね」

「けっこう怖かったですけどね……」


 少し青い顔でクリスはそう言った。


 翌日。

 一行は聖都を見渡せる丘の上まで来た。そこでミシェルは聖都を見て愕然と言った。


「瘴気がひどい……」


 隣に並んだアルベールが聖都を見ながら言った。


「瘴気? ミシェには見えるのか?」

「ええ。黒いもやのようなもの。あんなところに人が住めるわけがない……」


 その一言に嫌な予感がして、アルベールはミシェルに言った。


「急ごう」


 ミシェルは青い顔でうなずいた。

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