第10話 出陣前夜
ミシェルたちは帝都に戻り、皇帝フレデリックと皇帝騎士団団長ヴァンサンを交え、フレデリックの執務室で話していた。アルベールからの報告を聞いたフレデリックは、アルベールに尋ねた。
「つまりはアルベールが勇者に選ばれたということか?」
アルベールは勇者の剣を鞘から抜いた。
「そうです。あれ以来、俺は勇者の剣を鞘から抜くことができます」
フレデリックは腕を組み、ソファーにもたれた。
「そうか……。聖女ミシェルたちが旅立ってから、わたしは教皇領について調べていました。偵察を送ったのですが、聖都は封鎖されたまま、中の様子はわかりません」
それにクリスは答えた。
「聖都の封鎖を指示したのは教皇様です。しかし、その後ろにはヘンリエッタがいるに違いありません。おそらくは聖女ミシェルが戻ってくることを恐れているのだと推察します」
「まずは聖都をヘンリエッタから取り戻しましょう。教皇騎士団の規模は?」
「聖都にいる騎士団員はおよそ三百。そもそも我々は聖女を守るために結成された騎士団です。数はそう多くありません」
フレデリックはそれにうなずいた。
「ならば、アルベール、五百の兵士をお前に託す。聖女ミシェルと共に聖都を奪還せよ」
「かしこまりました」
アルベールはうなずいた。その隣でミシェルは頭を下げた。
「皇帝陛下、お心遣い、感謝いたします」
フレデリックはうなずいた。
「聖女ミシェル、これはあなただけの問題ではなく、我々人類の存続の危機でもある。魔王が教皇領から我が帝国に勢力を伸ばすのも時間の問題」
ミシェルはうなずいた。魔王がヘンリエッタ以外の人間を操れることがわかった今、誰が操られるかわからない。魔王の手下が増えていけば、他国だっていつ侵略されるかわからない。
――急がなければ。そして、ヘンリエッタを止められる可能性があるのは、聖女の私と勇者のアルだけ。
ミシェルが隣に座るアルベールに視線を向けると、アルベールもミシェルを見ていた。二人はお互いにうなずいた。
その夜は城に部屋を用意してもらっていた。
けれど、ミシェルは落ち着かなくて、夜の城の庭を散策していた。夜はまだ冷え込み、吐く息は白い。
――明日、教皇領に向けて出陣する。
ミシェルはヘンリエッタを思い出すと、いまだに恐怖を覚えて、体が震える。
「ミシェ?」
ミシェルが振り返ると、そこにはアルベールがいた。
「奇遇だな。ミシェも寝つけない?」
ミシェルは苦笑しながらうなずいた。アルベールはミシェルの肩に手を置いて、指をした。
「あっちにベンチがある。少し話そう」
二人はベンチに並んで座り、星が輝く空を見上げた。ミシェルは久しぶりにアルベールと二人きりで、少しだけ緊張してしまう。
アルベールが頬を指でかいた。
「こうして二人きりになるのは久しぶりだな。旅に出た当初を思い出す」
同じようなことを考えていたことにミシェルは思わず微笑んだ。
「最初の頃は、アルはすごく気を遣ってくれていたよね」
「なんだよ、今もちゃんと気遣っているだろう?」
ミシェルはくすくすと笑った。
「そうだね、アルはいつでも優しく、私を受け入れてくれていた。だから、ここまでくることができた。ヘンリエッタと再会するのはとても怖いけど、アルがいればきっと大丈夫」
アルベールはミシェルの手が震えているのに気づき、そっとその手を掴んだ。
「ああ。一緒に魔王に会いにいこう。今度は仲間がいる。ひとりじゃないよ、ミシェ」
ミシェルはそれに微笑みで答え、そっとアルベールにもたれた。




