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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第一章 馴染むところから始めます
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第41話 私は貴女の傍にいる

(ほんとうに、あの息吹戸いぶきどさんなんだろうか? こうしてみると別人みたい)


 津賀留つがるの脳裏に、初めて息吹戸いぶきどに会った日が蘇る。




 第一印象は怖い人だった。

 話は聞いてくれるが基本は無口。必要以上に喋る事も、交流を深めることもしなかった。


 津賀留つがるの力が戦闘に不向きな力だと知った彼女の第一声が、『使えない』だったのをよく覚えている。


 反論は出来ない。その言葉通り、確かにお荷物だった。

 戦闘時に使える能力だが、自身の身を守ることは出来ない。

 自分の身を守れないのであれば、死にに行くようなものだ、と苦言くげんていする事も多かった。


 戦闘のたびに他者の負担になり、結果、足を引っ張ってしまう津賀留つがるは能力を重宝する一方で、その扱いに困っていた。


 たらい回しの中、玉谷たまやの指令で相棒コンビを引き受けたのが息吹戸いぶきどだ。


『構いません。肝が据わっているなら問題ない。一番困るのは、任務途中で我が身可愛さに逃走することですから』


 決して快くではなかったが、役立つ気があるなら。と、行動を共にするようになったのは、一年前くらいからだ。


 津賀留つがるの能力を周知していたので、事あるごとに、『お荷物』『足手まとい』『でしゃばるな』『何もできない』『勝手に動くな』と罵声が飛び、扱いも乱雑で冷徹だった。


『足手まといと自覚するなら、考えて動け』


『クズでノロマだと自覚しているならどうにかしろ。やろうと思えば多少なりとも変化が出るだろう? 甘えるな』


『私に何も期待しなくていい。私もあんたに期待していない』


 しかし。口や態度が冷たくても、息吹戸いぶきどはただの一度も津賀留つがるを見捨てようとしなかった。


 足り無いと感じた知識は覚えるまで叩き込まされたし、任務に関わる内容は暗唱できるまで繰り返させた。


『自分の頭で考えて答えを出せ。そして戦場の局面を把握し、常に先手を目指すようにしろ。それが私の役に立つということだ』


 常にその言葉を口にしていた。


『相手の裏をかけないとこうなる。わかったか? 命拾いして良かったな』


 失敗した時も、苦戦した時も、自分の命が危うくなる場面でも、必ず助けてくれた。


『理由? 部長の命令の他に何がある』


 そう淡々と言い放つ後姿は、触れるなと常に拒絶していた。

 だけど時々、触れる手が暖かいと感じることもあった。

 その暖かさをもっと欲しいと思った。

 だから彼女の役に立つため、行方不明になった小鳥の足取りを必死になって追った。


 小鳥が掴んだ禍神降臨(まがかみこうりん)の情報は、息吹戸いぶきどの任務として使われる予定だったが、彼はその情報を持ったまま行方不明となる。

 敵に捕らわれたに違いないと、自らの危険も顧みず、津賀留つがるは敵地に侵入した。

 計画の中枢に足を踏み入れたまでは良かったが、うっかりと正体がばれてしまった上、生贄の条件に当てはまってしまい儀式に引っ張られた。

 運が良かったことといえば、非戦闘員ということで暴行を受けなかったことだろう。激しい暴行を受けた小鳥の状態をみたときは胆が冷えたものだ。


 もうすぐ死ぬと思ったときに浮かんだのは息吹戸いぶきどの顔と苦言であった。

 怒られてもいいから最後にもう一度逢いたいと強く願っていたら、叶った。

 

『あ、これだ! 妹分だ! 津賀留つがるちゃんだよね?』


 息吹戸いぶきど津賀留つがると小鳥を救い出した。

 言動がおかしいことが気になったが、後に記憶喪失だと知り驚いた。

 それと同時に、記憶を失くしても救出したという事実が津賀留つがる随喜(ずいき)の涙を流させた。



 津賀留つがるになんらかの価値を見出しているのだろう。その期待に応えたいと気迫がみなぎる。決意の眼差しで見つめると、息吹戸いぶきどは柔らかく微笑んだ。

 こんな表情が出来るんだと見惚れて、言葉に詰まる。


「あ、あと……『出目の引きの良さ』ですかね?」


「なにそれ?」


 息吹戸いぶきどの首を傾げた。

 やっぱり忘れてるんだ。と津賀留つがる苦笑いを浮かべつつ、胸を張る。この能力こそが息吹戸いぶきどとコンビを組むことになった要因だからだ。


「不本意ですが、私が関わると事件が動くみたいです。私が動くと、何故か大きい事件の核心にいたり、事件に巻き込まれてしまっています。同僚からは『トラブル探知機』と言われていますが……」


 事件がこっちにやってきて意図せず深く関わってしまう。そのため常に命の危険があると津賀留つがるはため息を吐いた。


 息吹戸いぶきどは「それは大変だね」相槌を打つ。


「はい。よく従僕じゅうぼくと出遭うし、妙なトラブルに巻き込まれることが多くて。皆さんに大変ご迷惑おかけしています」


「いい人材じゃない? 引きの良さって重要だよ」


 同じ調査をしていても、目星が当たっていないと解決に至らないことだってある。そう考えると、カミナシに所属した津賀留つがるは、天職に当たったといっても過言ではないだろう。


「まぁ、そうなんですが。攻撃方法が全くないんで。その、基本的にお荷物で……」


「いいんじゃない? 出来ない事は他の人に任せれば。津賀留つがるちゃんの能力は重宝されるよ。津賀留つがるちゃんが出来なことは、私がなんとかすればいいんだし。そのためにコンビ組んでるんでしょ?」


 津賀留つがるは吃驚して言葉を失う。

 初めて言われた言葉に感動して目じりに涙を浮かべたが、すぐに指で涙をなぞって隠した。



読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白いなと思いましたら、また読みに来てください。

お話が気に入りましたら、何か反応して頂けると創作の励みになります。

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