↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ~息吹戸瑠璃が遺したもの~  作者: 森羅秋
第一章 馴染むところから始めます
42/461

第42話 羽ばたく生首

 話しが一区切りついたところで、ピーピー、とベランダから洗濯終了のお知らせが鳴った。


 息吹戸《いぶきど》は「あ」と声をあげて立ち上がると、ベランダへ向かう。


 不思議そうに視線を投げた津賀留に振り返った。


「洗濯機済んだみたい。ちょっと服を干すから待ってて」


「え!? は、はい」


 洗濯機を回していると驚いている津賀留《つがる》をよそに、息吹戸《いぶきど》はゴミを避けながらベランダに続く窓を開けた。


 砂で黒く汚れた屋外スリッパを履いてバルコニーに降り、横に設置されている洗濯機の蓋を開ける。


 脱水した衣服を取り出そうとして


 バサバサ。


 と、羽ばたき音が真横で聞こえた。


 何かが外壁の手すりに何か留まった気がする。


(こんな夜中に鳥かな?)


 変わった鳥だと思いながら、顔を動かして手すりに停まるモノを見た。


 体が人間の頭部の形状をしており、異様に大きな耳が翼のように広がっている。


 つまり、耳の大きな生首であった。


「きゃああああああああああああああああああ!」


 息吹戸は驚きと気持ち悪さを体現するように雄叫びをあげながら、鋭い右ストレートを生首にぶちかます。

 

 生首の鼻と口に拳がめり込んだ。

 

 そして打撃により鼻がへしゃぎ牙が数個もぎ取られ宙を舞ったのが、スローモーションで確認できた。


 途端に生首の顔が凹んで反対側にボンと破裂すると、盛大に血しぶきをまき散らしながら、地面に落下する。


「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」


 こちらは後悔の悲鳴である。


 まさか穴が開くとは思わなかった的な、気持ち悪い虫を素手で殺してしまった的な、気持ち悪いという感情が込められている。


 前回の悲鳴から五秒しか間があいておらず、通常の耳では長い一つの悲鳴として聞こえただろう。


「どうしました!?」


 津賀留《つがる》が血相を変えてベランダに駆け寄り、息吹戸《いぶきど》に声をかける。


 息吹戸《いぶきど》は右手を触りながら、真っ青な顔で振り返った。


「生首が手すりに止まっていた。あれ殺してよかったのかな? 天然記念物だったらどうしよう」


「生首が!?」


 津賀留《つがる》は靴下のままベランダに降りて手すりの向こうを確認する。


 暗くて見えにくいが、確かに何かが落ちている。


「降りて確認します!」


 津賀留《つがる》が急いで玄関へ向かうので、息吹戸《いぶきど》もその後を追った。





 ベランダの裏手へ行くと、胴体、というか、顔面を破壊された生首がコンクリートに転がっていた。


 険しい表情をした津賀留《つがる》は持っていたビニール手袋をはめて、生首を持ちあげる。


「これは……異形の吸血鬼(チョンチョン)ですね」


「チョンチョン?」


「ええ。人間の頭部をもち耳を翼として空を飛ぶ生首で、夜行性の吸血鬼です」


「ああ。チョンチョンね」


 息吹戸《いぶきど》の脳裏に、南米産のヴァンパイアが浮かぶ。



 翼をはためかせて夜空を飛び回るのは、西洋の吸血蝙蝠と類似点があるが。


 チョンチョンの外見はそれとは異様な姿をしている。


 体全体が人間の頭部を形成し、異様に大きな耳で空を飛んでいるのが特徴だ。


 夜間、病人のいる家の周囲を飛び回り、怪しい鳴き声を発するという。


 鳴き声は病人が死ぬ前兆と捉えられ、病人の魂とチョンチョンが格闘している証だと考えらている。


 チョンチョンが勝利すると病人の体に入り込み、血を吸うと考えられていた。


 一説には、彼らは人間の魔法使いとも言われており、チョンチョンの秘密を知ると、頭部を体から分離させて飛べるようになるとか。



 そこまで考えていると、津賀留《つがる》が眉をひそめた。


「これは南の禍神《まがかみ》が持ってきた伝染病の一種で、主に病人を襲います」


「これが伝染病? まさかこれが病原体なの?」


 知っている病気とかけ離れているので実感はわかないが、津賀留《つがる》が言うのならそうなのだと無理やり納得した。


 そして別の視点で考えてみる。


(この世界に出てくる侵略者ってどう考えても神話の生物だよねえ。まあ、モンスターって言ったほうが早いだろうけど……モンスターと共存している世界かぁ)


「そうです……でもその説明は後でします。ほかにも居るかもしれません。探さないと」


 津賀留《つがる》が夜空を見渡す。


 天路国《あまじのくに》における病気概念は、呪いによる遺伝子変異も含まれている。

 それを説明すると長くなるので、追々話すことにした。


 チュンチュンは伝染病である。一匹ではなく群れで行動することもあるため、見つけた場所から半径五〇〇メートルを地点をくまなく探す必要があった。


「吸血鬼の討伐はカミナシの管轄です。すぐに連絡をして吸血鬼が飛んでいないか見回ってみましょう。この付近で首のない死体があると思います」


 息吹戸《いぶきど》に異存ないため「分かった」と頷く。

 

「連絡の仕方は分かりますか?」


「やってみる!」


 息吹戸《いぶきど》は意気揚々に答えてリアンウォッチを触った。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白いなと思いましたら、また読みに来てください。

お話が気に入りましたら、何か反応して頂けると創作の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。