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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第一章 馴染むところから始めます
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第39話 衣食住にまつわる談話


「じゃぁ。ごはん食べながらお話伺っても良い?」


「勿論です! そのために来たんですから!」


 津賀留つがるは元気に言うと、何の躊躇ためらいいもなくテーブルの横に座り、袋からお弁当を出して置いた。


(次呼ぶ時は、もっとキレイにしなきゃ)


 そう強く決心してから、息吹戸いぶきども彼女の対面に座る。

 津賀留つがるはお茶のペットボトルを出し、紙コップに注ぎ込んだ。


「一応、温めてもらったので。お好きな方をどうぞ」


 生姜焼き弁当と焼肉弁当だ。

 息吹戸いぶきどは生姜焼き弁当を取った。製造元とコンビニ名を確認するが、知らない名前だ。


「差し入れありがとう、頂くね」


 お礼を言うと、津賀留つがるは笑みを浮かべた。




 息吹戸いぶきどは食事しながら細かく一般常識を訪ねる。

 この際、知っている事は全部聞こうと踏んで質問攻めにするが、津賀留つがるは嫌な顔一つせず、一つ一つの質問に丁寧に教えてくれた。


 おかげで、日常生活がざっくりと把握できた。結論から言えば、名称は違えども、『私』がいた世界と生活文化の違いや遜色そんしょくの差が殆どない。

 普通に生活できる、とほっと胸をなでおろす。


「ほんっとに助かるーーー!」


「他に何か聞きたい事有りますか?」


「えーとね。あとそうそう」


 息吹戸いぶきどの質問に対して、笑顔を浮かべている津賀留つがるは、内心とても驚いていた。


 玉谷たまやから記憶喪失について聞いていたが、ここまで欠落しているとは思わなかった。


 息吹戸いぶきど一人きりにしておくと、通常生活に支障をきたすのは明白だ。今、ある程度の基本知識を教えたので、日常生活は問題ない。


 しかし業務への悪影響が懸念される。

 万が一にでも、辜忌つみきが気づいてしまったら。これ幸いにと息吹戸いぶきどの暗殺を企てたり、言葉巧みに彼女を組織《辜忌側》に引きずり込む可能性もある。敵に回られたら厄介なことこの上ない。


 津賀留つがる玉谷たまやが念を押す意味がしっかり理解できた。


 今の彼女は、何が善くて何が悪いか解っていない諸刃の剣でもある。気を付けないといけない。

 そう思いながら、津賀留つがるはたくわんを噛み砕いた。





 息吹戸いぶきどはまったりとしながら食事終えた。基礎知識を得て安心しつつ腕時計に視線をおとす。


「スマホの役割がこの時計ってことなのか」



 電子腕時計式タブレット『リアンウォッチ』。

 これ一つで通話やネットは勿論。銀行口座への入金支払い。役所への手続き。更にGPS機能搭載、地図道案内、翻訳、計算などなど。が一つで補える。


 電池は人体の生体エネルギーだ。

 人間の体は微弱ながら電気が流れている。スマホのタッチパネルもその原理を応用しているが、ここではそれ以上に、人体の電流を蓄電として利用しているようだ。

 なので、常に肌に触れていなければ使う事が出来ない。という欠点はあるものの、肌に着ければ即使用できる。つまり充電する必要がない。

 

 カミナシが支給するリアンウォッチは機密事項が満載なため、生存している本人しか扱えない様になっている。

 本人の静脈・指紋・角膜認証に加え一定体温が探知されなければ使用不可能だ。


 カミナシ内部の情報がいつでも引き出せるようになっており、禍神まがかみ従僕じゅうぼくの資料、現在追いかけている事件の詳細もその場で確認できる。



(なんでこれ、忘れてったんだろうこの人)


 ビルにいるとき、これは持っていなかった。

 急いでいたのか、位置を把握されるのを嫌がったのか、という推測しかできない。


息吹戸いぶきどさん。さっきから言っている、スマホってなんですか?」


 津賀留つがるが不思議そうに質問してきた。息吹戸いぶきどは少し苦笑いしてから


「これと似たような物だよ」


 と、リアンウォッチを指し示しつつ答えた。

 スマホはどうやらこの世界に存在していないようである。






息吹戸いぶきどさん、他に聞きたい事有りますか? 私で良ければ教えますよ!」


 ドンと自信満々に胸を張って、目を輝かせながら頼られるのを待っている津賀留つがるを、かわいいなぁと思いながら、カミナシについての業務を簡単に教えてもらうことにした。


 基本は二人一組で業務にあたり、息吹戸いぶきどの現在の相棒は津賀留つがるだと判明する。


「そうだったんだねー。ポンコツになったけどよろしくね」


「ポンコツだなんてそんな!」


 と、津賀留つがるは前置きをして


「でも息吹戸いぶきどさんが本調子じゃないので、明日以降、東護とうごさんも加えて、三人で業務に当たることになるそうです」


「へぇ。東護とうごさんって誰?」


 知らないので当たり前の様に聞き返すと、案の定、津賀留つがるは困ったように眉を潜めた。

 

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白いなと思いましたら、また読みに来てください。

お話が気に入りましたら、何かで反応して頂けると創作の励みになります。

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