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世界の終演を君に。  作者: 遠藤
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9

夢を見ていた。


それは遠い遠い昔の話。


叶わなかった夢は、微睡の中に溶けて消えた。


 


「っ……凪斗!」


息も整わないままベットに駆け寄る。放り投げたスクールバッグが、床に当たってぐしゃりと悲鳴を上げた。


「凪斗、起きて凪斗!」


学校に、凪斗が意識を失ったという連絡が入ったのは3時……今から約1時間も前の話。


掠れた様な凪斗の呼吸音に重なるように、時計の秒針の音がやけに大きく病室に響き渡る。鮮やかに差し込んだ夕陽が、真っ白な凪斗の頬に紅色の影を落とす。


泣くことしかできない僕が、見守るしか出来ない僕が、手を握ることしか出来ない僕が、ただひたすらに憎たらしかった。


「僕が治すって……それまでは待つって言ったの凪斗だろっ……起きろよ!!」


八つ当たりをする様に駄々をこねる。そうすれば、いつもみたいに困った様に笑って、『ごめんごめん、そうだよな』って言ってくれる気がして。


 


ピッピッピッ__


無機質な機械音が、すっかり暮れ込んだ空に空虚に染み込んでいく。


「ん……」


「凪斗!?」


不意に声を上げた凪斗の手を、反射的にギュ、と握る。


「斗、羽……?」


呼吸器越しの声は、掠れて小さくて……ひどく弱々しかった。


「凪斗っ……目、覚めて……」


「斗羽、手、痛い」


ごめん、と呟いて、そこでようやくどれだけ強い力で握っていたのかに気づいた。


「……ごめんなぁ」


唐突に、凪斗がそう溢す。え、という困惑は声にならずに喉が飲み込んでしまった。


「約束、守れなくて……斗羽には、ずっと笑っていて欲しかったのに、こんな顔させて……」


途切れ途切れに発される言葉はまるで……別れのようで。


「な、に急に……そんなん言わないでよ」


咄嗟に捻り出したのは、そんなありきたりの言葉だけで。


「死にたくないなぁ……まだ斗羽といたい」


それは、初めて凪斗が僕に言った弱音だった。今まで辛い検査も手術も、『大丈夫』の一言で笑っていた凪斗が、初めて僕に嫌だとこぼしたのだ。


「っ……死なせない、僕が治すまでいてくれるんでしょ」


縋るように、引き留めるように手を握り直す。


「ごめん、ごめんっ……俺も、いたいけど」


声も視線も、だんだんと宙を泳ぎ始めているのが怖くて寂しくて。


「俺のために、頑張ってくれてる、のに」


苦しそうな笑みから、スッと抱えきれなかった涙が滑り落ちる。


「やだ、嫌だっ!置いてくなよ、勝手にいくなよ凪斗!」


「おれ、斗羽の親友で、よかった……」


「なんでそんなこと言うんだよっ、まだ一緒にいるだろ!?」


今にも消えそうな何かを掴みように、離さないように、凪斗を抱きしめる。


「だいすき、だったよ」


最期の言葉は、掠れて小さくて弱々しくて……幸せそうだった。


 *


「……凪、斗?」


ずっと遠くを歩く背中に手を伸ばす。


「まって……待って凪斗!!」


走っても走っても彼には近づけなくて。


段々と白い光が強く眩く輝きだし、背中もその中に消えてしまいそうなほど。


不意にその影が振り向いた。


それから、小さな、それでいて悲しげな声で……


「来 ち ゃ 駄 目 だ よ。」


ゆっくりと、彼の姿が光の中に消えていく。


「嫌だ、置いていかないでっ……僕も連れて行って凪斗!」


喉が潰れるほどの叫びも虚しく、視界は一面白に塗りたくられ……


泡沫に、消えた。


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