自分に負けないために
「真那ちゃん、俺の力を使ってみてどうだった?」
「凄く怖かったです。まるで、自分が自分でなくなるような。」
ムネナシに質問され真那は萎縮するように言う。
「信長氏、お主の力の所為で真那氏は怯えているのだ。なんて無神経なことを。」
「確かに、人の心を考えることのできないあなたらしいといえばらしいですが。」
「おいアルキメデス、それから与謝野、お前らこそ知ったようなことを言うな。あの時、俺の力を楽しんでいたのは他でもない真那ちゃん自身だ。お前たちは貧乳超人としての板野真那は解っているのかもしれないが、一人の人間としての板野真那をきちんと見たことはあるのか?そもそも、どうして俺のフラットストーンがお前たち五人を使いこなした時に初めて起動出来るようになっていたのか、知らないだろう。」
「信長氏、どういうことだ?」
「俺の力はお前たちの中で唯一負の感情である憎しみ。何も考えずに使えば憎しみに心を飲み込まれ、全てを壊す破壊兵器となってしまう。それを恐れて、俺のフラットストーンには厳重なロックが掛かっていた。で、実際どうだ。真那ちゃんは自身の憎しみに飲み込まれて全てを破壊する修羅のような戦いを行った。言ってしまえば、真那ちゃんに俺の力は早すぎた。だから俺の力を使うなと真那ちゃんに言ったんだ。」
ムネナシの事情を知らないネデス達にムネナシは説明をする。
「それでも、麗雄君の言葉はあの時の真那にも届いた。だからきっと、麗雄君がいれば真那は大丈夫。」
ゲイルはムネナシの言葉に反論する。しかし、
「ふん、どうだか。あれとて俺の力を使いこなせていない上に変身して間もないからすぐに戻ってこれたこと。お前たちは如何せん綺麗過ぎる。それは見た目の話じゃない。心が綺麗過ぎるんだよ。確かに与謝野には心の隅に曇りが見える。だがそれは憎しみではない。自身の無力さからくる後ろめたさ。お前たちには人を殺したいと思えるほどの憎しみを感じられない。ま、だから清く正しい貧乳超人様になれたんだろうが。だが俺は違う。俺のフラットストーンは最後に作られた。何故か解るか?作った奴自身が恐れていたんだ。光も闇も、善も悪も、正も負も、全てを受け入れられる心広い精神を持つ人がいるはずが無い。人間は必ずどちらかに寄る。初めから強い負を持っていればその力に飲み込まれる。正が強ければ、それが闇で捻じ曲げられた時の反動は計り知れない。真那ちゃんは多少負に寄っていた。まあ仕方が無いさ。今までがあんな生活だったんだ。それに、ムネトピアに日本が支配されてからも悲惨な日々だ。負の感情が強くなるのは当たり前なんだ。」
ムネナシはそれに対して更に反論する。
「それは…私自身が弱い所為で…」
真那は落ち込む。
「真那は落ち込むな。」
ムネナシは自分が落ち込ませた原因であると理解しつつも真那に話しかける。
「そんな、落ち込んでなんて!」
「別に負の感情が悪いとは言わない。そもそも、負の感情が無かったらレジスタンスなんてやっていないだろう。俺が真那に言いたいことはただ一つ。自分に負けるな。憎しみをコントロールしようとなんて思うな。憎しみは憎しみ、目の前のことは目の前のことで、割り切って考えろ。それが出来ないなら俺は真那の変身に応じない。それでいいな。」
「はい…わかりました…」
ムネナシの言葉に真那は頷く。
「じゃ、俺はぶいあーるの作成で忙しいから失礼する。」
ムネナシは実体化を解除する。
「相変わらず、我々とは価値観の異なる奴だ。」
ネデスはため息を吐く。
「私と同じで、争いを終わらせるために戦っていた人なのに私と全然違う。」
ダルクも困り顔で言う。
「仕方ないよ。信長さんはちょっと特殊な生涯を迎えた人だから。」
真那はなんとかフォローしようとする。
「しかし、いくら戦乱を終わらせるためとはいえ、敵を恐怖で押さえつければ反逆を受けるのは当然のことです。所詮、学のない人が当主をした結果というだけです。」
それに対してテッパンは自身の見解を述べる。
『まったく、どいつもこいつも俺の上っ面だけしか見てないな。それに対して真那は変わっている。俺とあいつらのそれぞれに合わせた会話をする。さて、少し調べてみるか。』
ムネナシはムネナシオニキスの中から様子を確認し、検索用のパソコンを開くと真那が勤めていたContrast Futurのサイトに接続し、会社の概要を調べる。
『なるほどな。真那がデザインした服はどれも品切れが続出するほどの人気なのか。ん?』
ムネナシは商品ページを見て気になる部分を発見する。
『こいつはどういうことだ?とりあえず、真那のえすえぬえすを一通り調べてみるか。』
ムネナシは複数のSNSのアカウントにログインし、真那のアカウントを全て特定する。
『そういうことか。これはあいつらに見せられないな。あとで真那を呼んで話すか。』
ムネナシはパソコンを閉じる。
「真那ちゃん、後で大切な話があるんだけど、他の貧乳超人達の耳に入らないように、出来るなら真那ちゃん一人で来てほしい。もし無理なら真盾のおっちゃんは連れてきてもいい。あいつになら聞かれても構わない。」
ムネナシはフラットストーン越しに真那に話しかける。
「貴様、真那氏に何かしようと企んでおるな!」
ムネナシの言葉を聞き、実体化していたネデスは警戒する。
「ジジイ、ちゃんと聞いていなかったのか?真盾のおっちゃんも一緒でいいって言っただろ?お前たちが一緒だと出来ない話もあるんだよ。」
ムネナシは呆れるように言う。
「うむ。それなら、後で奏氏に事情を聞いてもよいのだな。」
「別に聞くことは構わないが、それを話すかはおっちゃんが判断するだろう。それに、もしかしたら真那ちゃん自身がいつかお前たちに話すかもしれないからな。」
「くれぐれも、真那氏を傷つけるようなことはするな。」
ネデスは何度も念を押す。
「ありがとうネデス。信長さん、行きましょうか。」
真那はムネナシオニキスを持って部屋から出て行き、奏と合流すると会議室に入る。
「さて、そろそろいいか。」
ムネナシは実体化する。
「まさか真那がこんなことを隠しているなんて、あいつらは知らないのだろう。」
ムネナシは検索用のノートパソコンを取り出しインジェクターに接続し、調べていたページを映し出す。そこには、真那がデザインしたはずの服が他人のデザインした物として商品紹介ページに掲載されていた。
「何故自分の功績を他人に奪われても平気でいられる。」
ムネナシは真那を睨む。
「それは、その名前は私の別名義で…」
「誤魔化そうとしても無駄だ。この二つのあかうんとはそれぞれ特定が済んでいる。なんでも、真那の上司なんだってな。」
「どうしてそれを…」
「真那が俺を力を使った時、真那の中の強い憎しみと後悔を感じ取れた。それも、ムネトピアの輩だけではなく、この世界の全てに対して。そこまでの力を発揮するとしたら、恐らく学生時代以外にも別の過去が原因と考えた。それで俺は真那が仕えていた会社と真那のえすえぬえすあかうんとを調べた。それで出てきたのがこれだ。」
ムネナシは説明をする。
「だって…だって仕方ないでしょ!今までコンクールとかで賞をもらえるほどの活躍もしていない、ただそこら辺の被服科を卒業して間もない私が食べていくにはこうでもしないと生きていけないの。信長さんも、自分の夢を簡単に諦めろって言われて、諦められるの!?」
真那は胸の内をみせる。
「出来ぬ話だな。真那のいいたい話はよくわかる。真那は生前の俺にそっくりだ。だからこそ、俺の力に魅入られて、あんな野蛮な戦いをした。あれこそが、本来の板野真那そのものだ。故に俺の力を使うなと言っている。これ以上俺の力を使えば、真那は最悪の場合、二度と変身を解くことなく力を求め続け、やがてはムネトピアの輩と同じ類になるだろう。」
ムネナシは忠告する。
「どうしてそんなことを言い切れるのですか!」
「決まっているだろう。怒りを司る火の王女さますら満足に扱えないんだ。そんな奴に俺を使いこなせると思うな。」
ムネナシは真那に対して言う。
「そんなことはありません!次は絶対に、信長さんの力を使いこなせてみせます。」
ムネナシの言葉に真那はむきになって反論する。
「やってみろ。おっちゃん、これまでの話を聴いて質問するが、他の奴らをこの場に呼ばない方がいいと判断した俺の考え、間違っていたか?」
ムネナシは奏に質問する。
「確かに、ゲイル達の持つ真那さんに対してのイメージは大きく崩れてしまう。信長さんの言うとおりだったかもしれません。」
奏はムネナシに肯定的な意見を述べる。
「さて、話は終わりだ。どう判断するかは真那に任せる。おっちゃんも忙しいのに悪かったな。」
ムネナシは実体化を解除する。
「真那さん、少し休んだ方がいいだろう。幸い、おっぱい魔人は現れていない。」
「解りました。奏さん、信長さんを預かってもらえませんか。」
「構わないよ。それじゃあ、ゆっくり休むんだ。」
「すみません、失礼します。」
真那はムネナシオニキスを奏に預け、会議室から出て行く。
「信長さん、これでよかったのですか?」
奏はムネナシに尋ねる。
『なに、これはいずれ真那自身で解決しないといけないことだ。それに、あんな不安定な感情では、これから先の戦に支障をきたす。それなら。早い段階で辛い思いを乗り越える方が、真那のためになる。』
ムネナシはフラットストーンの中から答える。
「それにしても、真那さんにあんな経歴があったとは。」
『ムネトピアに支配されたからサイトの更新はされていないと思って調べていたが、俺も調べていて驚いた。』
「それで、真那さんは信長さんの力を使いこなせるようになりますか?」
『それは俺にも解らん。それを決めるのは、最終的には真那だ。俺もおっちゃんも、それからあいつらも、今は真那を信じるしかないだろう。』
ムネナシは真那のことを想いながら言う。
「ただいま、みんな…」
自室に戻った真那はベッドにうつ伏せになる。
「大丈夫であったか真那氏!あやつに何かされなかったか!」
ネデスは不安になり真那に質問する。
「大丈夫だよ、奏さんもいたし。それより、今は少し一人にさせてほしいかな。」
真那はうつ伏せのまま答える。
「うむ、そうか。では麗雄氏に頼んで我々は童との触れ合いに勤しもうか。」
ネデスは麗雄と連絡を取る。
“おじさん、どうしたの?”
「いや、たまには真那氏も一人の時間がほしいと思ってな。我々五人で麗雄氏達の遊び相手になろうと話していたのだ。どうだ?」
ネデスは麗雄にそう話すと麗雄はすぐに真那の部屋にやって来る。
「おじさん、それからみんな、一緒に遊ぼう!お姉ちゃんも、ゆっくり楽しんでね!」
麗雄は屈託のない笑顔をみせると、ネデス達と変身を出て行く。
(自分に負けないために、か…何が負けで、何が勝ちなんだろう?)
真那は考えるが、考えれば考えるほど、次の疑問にがんじがらめになり、考えることしかできずにいた。




