憎しみの使い方を間違えるな
「少しは自分に素直になってみろ!」
ムネナシの言葉に真那は言葉が詰まる。
「信長氏、少しは黙らぬか。真那氏は学友がおっぱい魔人になっていたことで戸惑っている。」
ネデスはムネナシに反論する。
「ジジイ、少し黙っていろ。これは俺と真那ちゃんの話だ。」
ムネナシはネデスを睨みつける。
「好きにしろ。ただし、真那氏を傷つければ容赦はしないぞ。」
ネデスはそう言うと座り込む。
「さて真那よ、話を続けようではないか。」
ムネナシの口調は変わり、鋭い視線を真那に向ける。
「何故躊躇った?真那が躊躇ったことで奴を取り逃がし、奴は次の犠牲者を生み出す。それで良いのか?」
「だって、凜乃はクラスメイトだったから…」
「今更何を言っている。真那は既に会社の上司をその手で討ったのだろう。もはや後戻りは出来ない。足踏みをすることも許されない。違うか!」
「信長さん、どうしてそれを?だって、ずっと知らなかったって…」
「その程度の冗談を見抜けないのか。よほど俺の言葉に耳を傾けていなかったのだな。」
「どういうことですか?」
「俺がのーとぱそこんを作る時の事を話したはずだが、聞いていなかったとは。」
「たしかに、何か言っていた気がしますが。」
「言ったはずだ。電気街の跡地から取り寄せたと。もし何も知らないなら、既に地上が崩壊し、電気街が跡地になっていることなど知るよしもないだろう。」
「それは…」
「真那は俺の見かけに騙され、言葉を聞くという本質を忘れていた。それが先ほどの戦いにも現れていた。友を相手にし、相手の言葉に耳を傾けることを怠っていた。それについて、反論できるか?」
ムネナシの言葉に真那は沈黙する。
「肯定と受け取らせてもらうぞ。奴は真那に対して明確な逆恨みと殺意を向けていた。そんな奴に、対話が有効だと思えるのか?対話など出来るはずもない。少しは考えろ。」
ムネナシは冷たく言う。すると、
“真那さん、先ほどのおっぱい魔人、麗惨姫がまた出現しました。先ほどと同じように真那さんを探しています。”
真那に連絡が入る。
「ほら、行ったらどうだ。」
「あ…わかりました…」
ムネナシの言葉を聞き、真那はウィンドレイダーで出撃する。
「さっさと出て来い、真那!私はお前を殺したくてたまらないんだ!」
麗惨姫はその手の爪で人々をいたぶるように惨殺してゆく。そこに真那が現れる。
「もうやめて、凜乃!」
「だったらさっさと死ね、真那!」
麗惨姫の爪は今度は真那に向く。
「サファイア・スプラッシュ!」
真那はナイムネデスに変身し、アクアバトンで麗惨姫の腕を叩き、攻撃を防ぐ。
「ちっ!それが友達に対する態度か!」
麗惨姫は追撃の蹴りを放つがナイムネデスはアクアバトンで防ぐ。
「凜乃こそ私を殺しにきているじゃない!」
「うるさい!あんたみたいな貧乳は死んだ方が世界のためだからいいの!だけど私は違う!私の存在はこの世界に必要なものなの。だから、消え去れ!」
麗惨姫は正拳突きを放つ。ナイムネデスはアクアバトンで防ごうとするが、強力な拳の前にアクアバトンはへし折れ、ナイムネデスは怯む。
「これでも、くらえ!」
麗惨姫は跳躍し、ナイムネデスに急降下キックを放つ。
「ぅあああっ!」
ナイムネデスは数メートルほど吹き飛び、変身が解除される。
「さあ真那、これであんたもお終いだ。まったく、あの雑魚達はどうしてこんなゴミに倒されてきたんだか。」
麗惨姫は少しずつ真那に近づく。
「あんたさえいなければ、純平は私の告白を受け入れていた。あんたの所為で、私の人生は台無しになった!だから死ね!」
麗惨姫はついに真那の首を掴み、左手の爪を立てる。
(嘘…こんなところで終わるの?)
真那は心の中で思う。すると、
「彼女を離せ!」
一人の男性が体当たりをして麗惨姫の手は緩み、真那は解放される。
「凜乃、お前が憎むべきなのは、俺のはずだ!」
真那を助けた男性の正体は、凜乃が麗惨姫になる決意を固めるきっかけとなった人物、純平であった。
「純平!なんでそんな色気の欠片もないような奴を助けるの!」
「凜乃、何を勘違いしているんだ。俺は確かに凜乃より板野さんくらいの方がいいと言った。だけどそれは見た目の話じゃない。凜乃のそういう身勝手な性格が嫌いで、板野さんくらい協調性のある方がいいって話だ!ちゃんと聞いていなかったのか!」
「うるさい!私をフるような奴の言い訳なんて聞く必要ない!」
「凜乃、忘れたなんて言わないだろうな。高校時代、どうして凜乃が嫌われていたのか。」
「そんなの、みんなが私の魅力を妬んでいたからでしょ?」
「違うぞ。」
「えっ?」
「お前のそういう他人を見下した態度や、あからさまに見た目を強調する姿勢、時には実力行使をしようとすることが主に嫌われていた原因だ!現に俺も凜乃を嫌っていた理由だ。」
「嘘だ!嘘に決まっている!私が見下している?そんなわけない!」
「じゃあ板野さんに対する態度はなんだ?」
「あんなの当たり前のことじゃない。女として魅力がないなら、それを正しく評価してあげるのが、せめてもの情けって奴でしょ。」
「それがダメなんだ!」
「なんでよ!」
「自分がもし、同じ立場だったらどう思う!」
「あり得ない!私は全ての男達から愛されているに決まっている!私を避ける奴は、全て殺して、私の正しさを証明してみせる!」
麗惨姫はそう叫ぶと純平を素早く引き裂く。
「純平さん!」
「板野さん…君は逃げるんだ…君は人々の…希望…なん、だ、ろ…」
純平は鮮血を散らしながら息絶える。
「信長さん、力を貸して下さい。オニキス・アビス…」
真那は呟き、闇のフラットストーンの力を解放する。その力を鎧に変え、真那はオダノムネナシに変身する。
「ぅぅぅ…」
オダノムネナシは低い唸り声をあげると、鎧を纏っているとは思えない速度で麗惨姫に近づき、その顔面を鷲づかみすると、力一杯地面に叩きつける。
「がっ!」
地面に叩きつけられた衝撃で麗惨姫は呻き声を立てる。
「ぅあ゛あ゛あ゛あ゛つ!」
オダノムネナシは地面に叩きつけた麗惨姫に跨がると、火縄銃型の武器、アビスシューターを出現させ、まるで怯えさせるためがごとく、狙いを外した威嚇射撃を行う。
「麗惨姫様がピンチだ!行くぞ!」
黒服兵は人々を襲うことを中断し麗惨姫に加勢するが、オダノムネナシはアビスシューターで黒服兵を消し去る。
「次はオマエダ…」
オダノムネナシは日本刀型の武器、アビスブレイカーを出現させ、麗惨姫の左腕を突き刺す。
「あ゛ああああっ!」
麗惨姫は声にならない悲鳴をあげる。
「まだだ、まだ足りない…」
オダノムネナシは麗惨姫の両腕を交互に刺し続け、いつの間にか、両腕は切断されていた。
「お姉ちゃん、こわい…」
オダノムネナシが行う戦いは、もはや虐殺行為としか呼べない行為であり、その異様な光景に麗雄は怯える。
「ゲイル、今の真那、すごい怖い。」
ダルクも怯えきり、ゲイルにすがりつく。
「こうなったら!エメラルド・ラピッド!」
ゲイルは強制変身を行おうとするが、何も起きなかった。
「もう一度!エメラルド・ラピッド!…どういうこと!?変身出来ない!?」
突然の事態に、ゲイルは困惑する。
「おそらく、真那ちゃんの強い憎しみの念に、俺の力が支配されている。」
待機しているゲイル達にムネナシは事態を話す。
「力が支配されているってどういうこと!?」
「言葉通りだ。真那ちゃんは貧乳超人になって初めて人に守られた。だが、その守ってくれた人が奴の凶行によって殺されて、今まで押さえつけていた感情が爆発し、俺の力をコントロール出来なくなっている。俺の方も変身の強制解除を試したが、受け付けてくれなかった。おそらく、それと同様にお前からのアクセスも受け付けていないのだろう。」
「だとしたらどうして!?」
「それは真那ちゃん自身が拒絶しているからだ。今の真那ちゃんは激しい怒りと憎悪の渦の中にいる。それこそ、俺の言葉すら届かないほどに。当然お前の言葉に耳を傾ける気もないだろう。」
ムネナシがゲイルに説明をしている間も、オダノムネナシは麗惨姫への一方的な攻撃を続けている。既に麗惨姫の体は無数の刺し傷で血塗れになっている。
「お前らおっぱい魔人全て殺す。お前らはこの世界の害悪。害悪はこの手で消し去る。」
オダノムネナシは憎しみの感情を露わにしながら麗惨姫の胸部を刺し続ける。
「やめて…お姉ちゃん、もうやめて!」
その光景を怯えていた麗雄は咄嗟にスピーカーでオダノムネナシに届くように、そう言葉を発する。
「ハッ!麗雄君!」
麗雄の怯えた声はオダノムネナシの心に届き、我に返る。
「ひっ!」
オダノムネナシは目の前の光景に怯える。麗惨姫は既に声を出すことすら出来ないほどに傷ついていた。
「うあああああ!」
オダノムネナシはアビスシューターにエネルギーを溜め、その無類なき砲撃で麗惨姫を消し去ると、変身が解除され地面に倒れ、気を失う。
「みんな、真那さんを迎えに行こう!」
奏の言葉で数人のメンバーで真那を連れて帰る。
「…ここは?」
真那は治療室で目を覚ます。
「目を覚ましたか、真那。ここはウォールストリートの治療室だ。真那はあの戦いで体力の限界まで戦い続け、疲労で気を失っていた。」
ムネナシは真那に事情を説明する。
「凜乃は!凜乃はどうなったの!?」
真那は混乱する。
「忘れたか、真那?自分自身で討ち取ったことを。見事な戦いぶりであった。」
「そんな、私…」
「どうした?」
「私はあの時、凜乃とは違う別のおっぱい魔人と戦っていたはず。」
「なるほどな。学友の非道な光景を前にして無理矢理俺の力を使った所為で、脳が真那の中にある優しさを省く為にそう幻覚をみせていたのだろう。」
「幻覚?」
「そうだ。だから俺達の言葉も届かず、過剰な攻撃が行えたのだろう。」
真那はショックを受ける。
「真那、人は正の感情だけではない。負の感情も誰だって持っている。それを否定する気は無い。だがな、憎しみの使い方を間違えるな。俺に憎しみの念を抱いて謀反を起こした輩は皆、憎しみを上手く抑え込んでいた。俺に妻を取られた奴もいた、成り上がりを目指す野心家に対して敢えて地位を与えずにいた、皆憎しみの形は違った。だが、それを戦の場に出す奴は一人もいなかった。俺に歯向かう者は皆、憎しみを隠して天下泰平のために俺に立ち向かった。憎しみをむき出して戦う先に待つのは破滅だけだ。真那の学友のようにな。とにかく、今の真那には俺の力を使わせるわけにはいかない。しばらくは考えろ。俺はげーむに戻る。」
ムネナシは実体化を解除する。真那はうつむくことしかできなかった。




