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5-14 ふたりの関係

 合流のためにレガルテと一緒に向かおうとしたのは、俺達が泊まっていた宿ではなく別の建物だった。レガルテの用意している隠れ家であり、ターナがフィアナ達をこっちに連れてくると言っている。

 探査魔法を使ったところ、フィアナとユーリは確かにこっちに向かってきているからよしとしよう。


 それから、探査魔法を使ってから思い出した。自分の周囲に、こちらに敵意を持っているものがいないかどうかを確認する。というよりは俺の目の前にだな。

 結論から言えば、レガルテ・サキナックは俺たちに敵意を持っていなかった。俺の魔法を信じるならば、彼は善意でこれをやっている。




 レガルテの隠れ家というのは、俺たちが泊まっているのとそう変わらないような宿屋の一室だった。宿屋の主人とは知り合いで長い間部屋を占拠させてもらっていると説明した。

 それから少ししてからフィアナ達も部屋にやってきた。見た感じ無事そう。連れてきた女がターナ・チェバルなんだろう。サキナックの家の人間であるレガルテとは敵同士のはずの人間。

 そのはずなんだけどな。


「よかった。本当に心配したんだターナ」

「わたしだって同じさレガ。夜道で保安官を襲うなんて危ないって……渡しておいた暗視の布はどうだった?」

「すごかったよ。まるで昼のようにはっきりと見える。さすがターナの魔法道具だ」

「それは良かった。家の物置から探し出した甲斐があったよ」

「あ、あの。そのくらいに…………」


 レガルテとターナは顔を合わせるとお互いに駆け寄って向かい合い、手と手をとり言葉を交わしあう。

 あとレガルテが闇夜の中で保安官達を襲撃できた理由とか、あの目を覆っていた布の正体もわかった。夜目が効くようになる道具らしい。


 とにかく、レガルテとターナはふたりの世界に入り込んでしまった。その様子からなんとなく想像はつくが、ちゃんと説明をしてもらわないといけない。

 こういう時に頼りになるカイがふたりに割り込んでくれて、ようやく目の前でいちゃつく男女はこちらのことを思い出したようだ。




「お二人は付き合ってるんですね!」

 こういう話題は大好きですみたいな笑顔を浮かべたリゼが尋ねる。尋ねるというよりは断言しつつの確認だけど、レガルテとターナは揃って頷いた。


「そうなんだ。家の事情があることは知っている。でも俺は一目見た時からターナに恋してしまったんだ」

「何を言ってるのさレガ。わたし達の前には家のなんて些細なことさ!」

「その通りだよターナ! 俺達は必ず結ばれる! 最初からそういう運命だったんだ!」

「ええ。開闢神の導きによって!」


「いいですねいいですね。素敵です。こういう恋ってなんか憧れるよね」

「そうか? まあ好みは人それぞれぐえっ」

「もー! コータってば夢がないんだから! 『クルトとルチアツカ』とか読んだことないの?」

「あるはずないだろ!」

 恋に敏感なお年頃なのか俺の体をぎゅっと握って目の前の恋人に見入るリゼに抗議する。

 というか別にリゼの好みは否定してないから手を離してほしい。クルトとルチアツカが誰かは知らないが、たぶん俺の世界で言うロミオとジュリエットみたいな文学があるんだろう。あれは悲劇なんだけどいいのかそれは。こっちのはハッピーエンドなんだろうか。


「それでレガさんターナさん。おふたりの出会いは一体どんなのだったんですか?」

「待て待て。その話はまた今度な。とりあえず詳しい話が聞きたい。事情を教えてくれないか。その内容によっては協力関係が築けるかもしれない」

 シュリーが入ってくれて、ようやく話が進みそうだ。




 既に明らかな事実として、レガルテとターナは恋人である。家の事情を考えればそんなことは許されるはずがないから、この関係はふたりだけの秘密だ。少なくとも今のところは。


 出会いはお城の社交パーティーとかのありふれた場。そしてお互い一目惚れである。

 惚れてしまったものは仕方がないから、この関係を公にできるよう状況を作り変える。これが今のふたりの大きな目標だ。


「とはいえ方法が見つからなかった。お互いの家は相手を本当に敵視している。千年続く因縁だ。説得してどうにかなるとは思えない」

「もしわたし達の関係が家に知られたら間違いなく命を狙われることになる。グバルテさんの時みたいに」

「そうだ。あの悲劇を繰り返しちゃいけない」


「待ってくれ。グバルテっていうと、グバルテ・サキナックのことか? 今のサキナック当主の叔父の」

 知っている名前が出てきてシュリーが反応する。そしてレガルテはそれを肯定した。


「そうだ。グバルテ……あなた達がここに来た理由でもあるよな。俺やターナの家からすれば、大切なアーゼスの印章を持ち出した悪人ってことになってるけど」

「やっぱり、ここの名門は印章が持ち出されていたってことは知ってたのか」


 だから今の当主は探るような質問をしてきた。予想はしていたがそれが確実になった。


「そうだ。お城に保管されているという印章は、よくできた偽物だ。本物は六十年ほど前にグバルテが密かに持ち出したまま旅に出た。すぐにサキナックとチェバルはそれに気付いたが、グバルテは既に行方をくらましていた」


 そして、いつの間にか離れた街の外れの森で命を落とした。ここで死んでしまうことはグバルテ本人にも予想外のことだったのだろう。だからこそグバルテの死体は今まで見つからず、印章はその街の領主の屋敷に価値もわからぬまま収納された。



「サキナックは本物の印章の行方を探している。そこにシュリー、あなたが来た。グバルテの足取りを示す証拠と共に。奴らは当然、あなたが印章も持っていると考えただろう。あなたが歴史学者だからその価値を理解し、こちらに渡そうとしないと考えた」


「ああ。その通りだ。奴らは印章を狙ってあたし達を襲ったんだな……そうなることは予想していた。あんた達みたいなのが関わってくるとは思わなかったが」


「やっぱりあなたが印章を持っているんだな? 本物の印章を」

「シュリーさん。その印章を見せてくれよ。本物だとすれば、わたし達は力になれる。それにわたし達にとっても重要なものなんだ」

 レガルテとターナは揃ってシュリーに頼み込む。


 シュリーは考えている。本当にこのふたりは信頼できるのかと。ふたりが愛し合っていることや家の事情を疎ましく思っているのは事実でも、だから全面的に味方と考えていいかと言えばそれは別問題だ。


 そんなシュリーに、ふたりはさらに説明を重ねることにした。

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