第195話:アクマが天使で天使が悪魔で
今日の最初からやり直せないだろうか?
元の世界では何度も思った事があるが、この世界でも思う事になるとは思わなかった……本当に。
いっその事天使でも乱入してきて有耶無耶にしてくれれば良かったのだが、無駄に気を利かせたシルヴィーが結界を張っている事をアクマが教えてくれた。
(どうしたものか……)
『ハルナなら大丈夫! 大丈夫! いつもみたいに口八丁で切り抜けられるさ!』
(タネが割れている手品でどうやって観客を驚かせる気だよ……)
おそらく全員が全員勘違いしているだろうが、一番は何故テレサと知り合いなのかを誤魔化す必要がある。
もうこうなればあれだな。シルヴィーを道連れにしよう。
そうすればカバーストーリーを考える事が出来る。
リディスについては念話話で適当に本当みたいな嘘の話をすればなんとかなる。
アーシェリアやアンリに向けた言い訳は、俺は昔シルヴィーに拾われて育てられ、その関係で魔界に行きテレサに出会った。
天使というのはテレサが勘違いしているだけであり、この身は天使でも悪魔でも無いと言っておけばいい。
リディスには堕天した天使であり、シルヴィーについては懐柔しているって事にしておけばいい。
まあリディスは俺の言い訳で簡単に納得するだろう。
実際に召喚したわけだからな。
その為にまずは……。
「シルヴィーナロス様」
「はいは~い」
「えっ……あなた様はもしかして……」
結界を張っていたシルヴィーが、どこからともなく姿を現す。
そして姿を見たアーシェリアとハロルド。それからエメリナが驚きの表情した。
どうやら認識阻害を解いてくれているようだな。
もしも返事もせずに逃げていたら、一ヵ月はコーヒーを抜いていたところだ。
「私は幼い頃にシルヴィーナロス様に拾われ、そして育てられました。その関係で魔界へとシルヴィーナロス様と行き、魔王であるサタン様の娘であるテレサさんと出会いました。テレサさんが私を天使と呼んでいたのは、私が魔界へ行く際に言った嘘となります。普通ならば私が天使ではないと気付くはずですが、シルヴィーナロス様と一緒に居たので、そのまま勘違いしてしまったのでしょう」
(因みに正確には天使でも人間でもなく堕天使となりますいつもは変身していますので、そこのシルヴィーも勘違いしたままです)
『つまり実際は悪魔って事なのね?』
(私が天使に見えましたか?)
『……全然』
どうしてだろうな。言葉としては正解なのに、妙にイラっとした。
「本当にシルヴィーナロス様なのかしら?」
「そうだよ~。ハルちゃんには色々とお世話になっていてね~。流石にこうなっちゃったら隠れている訳にもいかないし、他の人には内緒にしてね~。それじゃあそう言う事でさよなら~」
現れた時と同じくシルヴィーはまるで最初からそこに居なかったかのように姿を消す。
ずっと見ていたはずなのだが、どうやら視線に晒されていても権能は働くようだな……。
神だから仕方ないが、やはりチート過ぎないだろうか?
これで本人に接近戦の素養があれば、勝つのは物凄く厳しいだろう。
クシナヘナスの権能もかなりえぐいので、他の神も似たり寄ったりの酷いチートを持っていそうだ。
「……」
「……」
「……」
シルヴィーが消えた後、しばらく無言の時間が続く。
あまりにも現実味がない展開のせいで、全員情報の整理をしているのだろう。
しかし、俺の擁護をしてくれたものの、テレサについては一言も言っていなかったな。
まあこの空気なら誤魔化せたまま進めるだろう。
問題があるとすれば、一応事故とは言えマフティーがテレサと契約した事だ。
見た限り本にあった様な対価のある契約ではなく、普通に召喚獣としての契約をしていたが、テレサ側は悪魔とバレない方法を持っているみたいだな。
種族もダークエルフなのに、ドラゴンニュートとか言っていたし。
その誤魔化し方はどうかと思うのだが、居ない相手に文句を言っても仕方ない。
「私の事は良いのですが、マフティー様の契約はどうするのでしょうか? 誤魔化してはいましたが、一応禁忌になるのでは?」
「…………そうですね。王国法に照らし合わせますと、マフティーさんは死刑となるのですが、実際の悪魔召喚ではなく、契約は召喚陣に則ったものでした。これが私達の手に負える相手なら対処を考えますが」
「……残念ながら私達二人じゃどうしようも無いわね」
ハロルドとアンリは苦々しく顔を歪め、マフティーは目を合わせない様に顔を逸らす。
あれでも一応魔王の娘だし、俺が武器を与えてしまっているからな……。
まあ俺なら勝てるのだが、口を挟むのは野暮だろう。
ついでに言えば、テレサは間接的にだがシルヴィーのお墨付きである。
本人が言っていた通りもう誤魔化してしまった方が気が楽だろう。
どうせバレないだろうし、天使も来ることは無さそうだからな。
「あの、シルヴィーナロス様が何も言わなかったという事は、神と魔王で何か関係があるのですか?」
「私も過去に無理やり連れて行かれただけなのでなんとも。強いて言える事があるとすれば、見た目通りの子とだけ」
エメリナならば勘付くと思ったが、予想通りだな。
天使は役割上悪魔を倒しているが、その上位にあたる神と魔王は世界にとって必要な役割であり、敵対関係ではない。
エメリナからすれば常識が壊れるような話なので誤魔化したが、人によっては価値観の違いから壊れるだろうな。
「テレサねぇ。随分と気心が知れていたように見えたけど?」
「お互い似たような立場でしたからね。私としては騙してしまっている罪悪感もありますが。それよりも、結局どうするのでしょうか?」
アーシェリアが茶々を入れてきたが、軽くいなして話を進める。
俺としてはリディスが何を召喚するのか楽しみにしていたので、出来ればこのままリディスの召喚までやって欲しい。
ついでにマフティーは、今後一切近寄って来ないで欲しい。
魔界で色々と誤魔化していた俺が悪いのだが、後で魔界には口止めに行かなければならないな……。
「……本人の申請通りにドラゴンニュートとします。使徒の使役する魔物ですので、あの異常な変化も説明出来ます。ですが、マフティーさんは事の重大性を十分に理解しておいて下さい。テレサさん一人の手により、王国は滅びる可能性がるのですから」
「……すまない。俺としてもどうしても力が欲しかったものでな。緊急時を除き、呼ばないと誓おう」
「承知しました。皆さんもこの場で起きた事は他言無用でお願いします」
「そうね。今日起きた事は見なかった事にするわ。神様が内緒と言ったんだから、従う事にするわ」
「個人的にはテレサさんからシルヴィーナロス様の話を聞いてみたいですが、今日の事は胸に仕舞っておくことにします」
大人陣とマフティーは納得したようだが、隣でにこやかな笑みを浮かべていたアーシェリアは眉をひそめている。
しかし何も言わないので大丈夫だろう。
(しかし、若いってのは無謀だな)
『それはどっちが?』
(両方だよ)
敵であるマフティーを排除するために魔法陣を改悪したデメテル。
召喚した悪魔を、力欲しさから契約を申し出たマフティー。
殺し殺されが身近にあるせいか、やる事がえぐい。
デメテルは本人の意向というよりは派閥としての動きだろうが、もしも証拠が見つかればその時点で終わりだ。
これはマフティーも似たようなものだが、デメテルと違い神のお墨付きがあるので、シルヴィーが取りなせば何も問題は無い。
ただ、個人的にはマフティーではなくリディスで問題が起きて欲しかった…………が、テレサが召喚されるのならばマフティーで問題が起きて良かった。
それにしても、学園の派閥的には第四王子であるマフティーや第三王子のベルセリオスを狙っているのが大多数なのだろう。
リディスの件は基本的にスティーリアが動いていると見て良さそうだ。
「最後のリディスさんの召喚ですが、後日に回す事も出来ますが、どうしますか? 今でも構いませんが、リディスさんの判断に任せます」
「……今やってしまいます。先生方を煩わせるのも申し訳ないので」
完全にマフティーの件は無かった事として扱われ、残されたリディスの番となる。
てっきり魔法陣について調べてからとかで後日に回されるかもと思ったが、嬉しい誤算だ。
「分かりました。エメリナ先生。避難された方達に報告をお願いします。それと、本日はもう解散とお伝えください」
「はい」
訓練場を出て行ったエメリナは直ぐに帰ってくるとの事で、それまでは召喚を待って欲しいと言って出て行った。
色々とあったが、ようやくメインディッシュだ。
だが、マフティーの時みたいな想定外な事は起こらないだろう。
一体何が召喚されるだろうか?




