第196話:レッドアイズスタードラゴンに勝てる人類が居るんですか!?
マフティーが下がり、リディスが魔法陣の上に乗る。
召喚の詠唱をすると魔法陣が輝きだし、白い円柱が空へと伸びる。
とりあえず変なのが召喚されるのは確定みたいだな。
マフティーの時とは違い禍々しい感じはしないので、悪魔ではないだろうが……。
チラリと横に居るアーシェリアを見ると、マフティーの時とは違いとても落ち着いている。
アクマを使って軽く内面を見るも、一欠片として心配していない。
色的にも雰囲気的にも問題なさそうだが、こういったところは貴族という生き物だと実感させられる。
「――召喚したのは貴様か?」
「そうよ」
光の円柱が薄れ、魔法陣の上に龍が現れた。
……竜ではなく、龍か……ヨルムとは違い銀ではなく白だが……いや、色についてはこの際どうでも良い。
「ふむ……余を呼び出すだけの気兼ねはありそうだな。良かろう契約を…………を?」
現れた白い龍は俺の方……というよりはヨルムを見て固まる。
なんとなーくそんな気がしていたが、まあそんな感じか。
「……いや、うむ。契約を結ぼう。右手を差し出せ」
「――えぇ」
固まったとは言っても僅かな間だったので、どうやら問題なさそうだな。
しかし、この魔法陣は無差別に呼び出すのではなく、何かしら縁がある存在を呼び出しているのだろうか?
「余は白龍のアリシアである。汝の名を告げよ」
「アインリディス・ガラディア・ブロッサムよ。私と契約を」
「うむ。今ここに契約は成された。なにかあれば呼ぶが良い」
リディスの右腕の甲に紋章が浮かび上がり、アリシアは光の中へと姿を消した。
ヨルムとはまた違った迫力のある巨体だったが、あれも大きさを変えられるのだろうな。
白龍……あれ、白龍って確か……。
「あああアインリディス様!」
「えっ、はい?」
「もう一度白龍様をお呼びできませんか!?」
アリシアが消えると共にエメリナがリディスの右手を握り締め、懇願する。
いつものおっとりとした感じからは信じられない態度だが、まあ無理もない話だ。
(これって偶然か?)
『ある意味偶然だね。まあ確率で言えば数パーセント位だけど、中々運が良いね』
(出来ればもうちょい面白みがあれば良かったんだが、リディスも運が良いんだか悪いんだか……)
まさかリディスが使徒を召喚するなんて思わなかった……。
白龍はソルアラマスの使徒であり、立場的に言えばヨルムと同じになる。
ソルアラマスを崇めている教会に居るエメリナが興奮するのも、仕方のない事だ。
ソルアラマスは勿論白龍もほとんと人界に関わる事は無いらしいので、エメリナからすればいきなり芸能人にあった様なものだろう。
「あの、また今度でよろしいでしょうか? 一応授業の一環となっていますので……」
「……すみません。少し興奮してしまいました。後日屋敷へと伺いますので、よろしくおねがいします」
「はい」
『ちょっとどういう事よ! 一体何が起きているのよ!』
(白龍はソルアラマスの使徒となりますので、エメリナさんが興奮するのも仕方のない事ですね)
『………………えっ、使徒?』
神についてはそれなりに学園側も教えるし、屋敷の本にも書かれていたが、その使徒については専門的に学ばなければ知る機会はない。
その一例としてヨルムは魔物としては知られているが、クシナヘナスの使徒とは知られておらず、危険な魔物として扱われている。
まあクシナヘナスは魔物の神であるため、人の間ではほとんど情報が出回っていないので仕方ないが。
他ではハイエルフはシルヴィーの使徒であるが、これもあまり情報としては出回っていない。
エルフの上位に当たる存在とは知っていても、それ以上の事を知っているのは本人たちエルフ位だ。
魔法少女で言えば各国の十位以内のランカーは他国でも大抵有名だが、十一位を知っているのはほとんどいない。
そんな感じだろう。
(詳しくは帰ってから話しましょう。それと、マフティー様の召喚したあれにはなるべく関わらないようにして下さい)
『えっ、そもそも召喚されない限り問題無いんじゃな……』
それが普通なのだが、俺の勘があいつは呼ばれなくてもこっちに来るだろうと告げている。
召喚紋は繋がりを作る物なのだが、この繋がりがあれば使役される側は繋がりを辿って自力で転移モドキをする事が出来る。
ヨルムが使っている黒い渦による転移も、俺の転移と召喚紋に付属している魔法を組み合わせている。
何が言いたいかだが、一定以上の知識や素質があれば、勝手に出てくる事が出来るのだ。
通常の悪魔みたいな異形ならば問題だろうが、テレサは威圧さえしなければ肌の黒いエルフだ。
何も知らない奴らが見たとしても悪魔とは気付かないだろう。
魔力の質まで見抜ける魔法使いなんてほとんどいないし。
「……これにて終わりとなります。報告は私の方でしておきますので、皆さんはお帰り頂いて構いません。ですが、本日起きた事はシルヴィーナロス様の仰っていた通りに、内密にお願いします。それと、アインリディスさん達はクラブ活動をせずに今日は帰った方が良いかと思います。他の部員には私から話を通しておきますので、心配無用です」
ハロルドの言う通り、今日はさっさと帰った方が良いだろうな。
何が起きたのか知っているのは此処に居る人間だけだが、何かが起きたのを知っているのは沢山居る。
情報を得るために何をしてくるか分からない。
よって教師である自分が何とかするから、今日は帰って大人しくしてほしいと言ったところか。
アーシェリアが何か言いたそうにしているが、俺と同じくハロルドの言わんとしている事が分かっているので、流石に言い返す事も出来ないのだろう。
面倒事を外から見るのは好きだが、自分から関りに行くのは嫌だろうしな。
そんなわけで生徒である俺達は帰ることになった。
マフティーの表情はあまり良くないが、アーシェリアがどうにかしてくれるだろう。
俺は俺の方でテレサとアリシアの件があるので、流石に余裕がない。
「それでは私達はここで失礼します。また明日学園でお会いしましょう」
「今日程寮で暮らすのが面倒と思ったことはないわ……」
寮だからと常に部屋に籠っていられるわけではないし、俺達とは違い貴族としての付き合いもある。
唯一話を聞けるとすればアーシェリアだけとなるので、近寄ってくる生徒もいるだろう。
頑張れと煽ってやりたいが、少しだけ俺が悪い面もあるので、軽く頭だけ下げてリディスとヨルムと一緒に家へと帰る。
あんな事があったが、勿論今日もランニングをしてな。
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屋敷に帰って来た後はいつも通り夕飯を作り、さっさと食べる物を食べてやる事をやってからリディスとヨルムと共に中庭へと出る。
ついでだがちゃっかりシルヴィーも居る。
シルヴィーには俺の方で魔法を使うのが面倒なので、俺達の様子を誤魔化すための結界を張って貰っている。
ちゃんとお礼としてコーヒーと、例のバターで作ったタルトをご馳走している。
「それでは呼んで下さい」
「その前に使徒について教えてくれない?」
「……面倒ですが良いでしょう」
「あんたね……」
ぶっちゃけ異世界人の俺が、その世界の神について語るのはおかしいと思うのだが、まあ仕方ないか。
「この世界には創造神が管理の為に産み出した十柱の神が居まして、更に細かい管理の為に各神の下には使徒が居ます」
「なるほどね。……えっ、物凄くヤバくない?」
「そうですね」
これがハイエルフやその他諸々ならば誤魔化してどうにかなるだろうが、白龍だけは知名度的にかなり面倒なのだ。
まあ使徒ってだけで物凄くヤバいのだが、ここには神も居るので誤差と言えば誤差だろう。
最近は扱いが雑になり始めているが。
「さて、概要としてはこの程度なので、後は呼んでから話し合いましょう。あの様子では向こうも待っているでしょうから」
「……分かったわ。来て」
リディスが右手を掲げるとアリシアが召喚されるが、大きさは学園の時と比べるとかなり小さい。
「呼んでくれた…………」
現れたアリシアは龍らしく威厳を見せるが、再び固まる。
相手がヨルムだけならば問題ないだろうが、ここには神が居る。
シルヴィーの使徒ではないとはいえ、下手なことが出来る相手ではない。
「やあ、久しぶり~」
「お、お久しぶりでございますシルヴィーナロス様。あの、どうしてご一緒に?」
「ここで生活しているからだよ~。ソルちゃんは元気にしてる~?」
「いえ、ここ百年位は会っていないため詳細は分かりかねますが、仲間からは元気にしていると」
「それなら良かったよ~。私も中々会いに行けないからね~」
余とか言っているが、流石に神相手では下手に出るしかないよなぁ……。
今回召喚された中ではテレサよりも強いだろうが、不憫な存在だ。
「そうですか……ところで、見間違えでなければそこに居るのはクシナヘナス様の使徒ですよね? 余と違い此処に居ては駄目なのでは?」
ごもっともの意見なのだが、使徒なだけあり見ただけで分るんだな。
今の所ヨルムの正体に気付けたのは誰も居ないというのに。
「ハルちゃんの召喚獣をしてるよ~」
「うむ。我はハルナに負け、下に付く事にしたのだ」
「えっ! レッドアイズスタードラゴンに勝てる人類が居るんですか!?」
「いえ、こんな見た目ですが正体は悪魔です」
「はい? えっ? あれ?」
くねくねと身体を動かしながらアリシアは慌てるが、此処に居るメンバーを鑑みれば仕方の無い事だろう。
神達は魔王達との事を知っているが、その使徒までは情報が降りてきていないとヨルムから聞いている。
なのでアリシアからすれば、悪魔と神が一緒に居るのが不思議で仕方のないって事だ。




