表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/67

夜明け

蒼は、小さな客間で目が覚めた。自分の部屋で寝ていなかったことに驚いたが、そういえば、碧黎様が調子悪くて気の乱れがそこかしこで起こっているとか何とか…。

蒼は、起き上がって襦袢を直した。そうして、着物を探すと、慌てて侍女が入って来て着物を着せ掛けて来た。

「王、申し訳ありませぬ。昨夜はどうしたことか、皆宿直の者まで寝入ってしまっておりまして…遅れましてございます。」

蒼は、苦笑して首を振った。

「いや、良い。それで気の乱れは?」

侍女は、頭を下げた。

「はい。本日は大変に落ち着いておりまして、どちらも問題ないようでございます。」

蒼は、ホッとして頷くと、歩き出した。

「客人たちの様子も聞きたい。オレの居間はもう入れる状態か?」

侍女は、頷いた。

「はい。ご準備出来てございます。」

蒼は、侍女に命じた。

「じゃあ、維心様達をオレの居間へご案内してくれ。お帰りになる前に、茶でもと。」

侍女は、深く頭を下げた。

「はい。仰せの通りに。」

そして、侍女は出て行き、蒼は、回廊を自分の部屋へと急いだのだった。

歩いて行く途中、空を見ると、昨夜宮の気の乱れで泊まることが出来なかった、客の王の臣下達や軍神達が、次々と到着して来るところだった。それを横目に見ながら、蒼は自分の居間へと入った。


しばらくして、維心と炎嘉、維明と箔翔が入って来た。蒼は、意外だという顔をした。

「あれ、久島様と、志心様は?」

維心が、側の椅子へと座りながら言った。

「あやつらは、一晩経ったのに疲れが取れておらぬと早々に宮へと帰り支度をしておっての。」と、炎嘉を見た。「我らも、何やら休んでおった感じでないのよ。やはり、碧黎の気の乱れのせいか。」

蒼は、首をかしげた。

「いえ…それはもう、改善したのだと先ほど聞きました。なので、こちらへも入って頂けるようになって。」と、蒼も身のだるさを感じていたので、何かあるのかと考え込んだ。しかし、炎嘉が言った。

「まあなあ、神としてならまだしも、神の気を抑えられて走り回ったのであるぞ?あちこち疲れておっても仕方がない。そのうちに回復するだろうて。」

維心も、頷いた。

「運動会の開催に当たって、次からはよう考えねばならぬぞ、蒼よ。我ら、確かに神ではあるが、体だけを使うことには慣れておらぬから。やはり疲れるのだ…だるくてならぬわ。我も、早々に龍の宮へ戻ろうと思うておる。あちらの方が、やはり我に合っておるから、回復も早い。」

蒼は、頷いた。

「はい。今回は、急なことであったので…次からは、少し競技の内容も数も余裕を持って取り決めましょう。勝ち負けのことに関しても…その、クレームもあったし。」

維心は、苦笑した。

「久島であろう?あやつにも困ったものよ。ま、良い。今朝はそんなこと、全く言うてなかったぞ?ただ、楽しかったのでまだやろうとだけ言い置いて、臣下達と帰還準備に入っておった。文句を言うておっても、後は引かぬから。気にするでないわ。」

皆がだるそうにして茶をすすっていると、そこへ維月が入って来た。

「維心様!」

維心は、パッと表情を明るくすると、すぐに立ち上がった。

「維月…おお、こちらへ!」

維月は、嬉々として維心に飛びついた。維心は、それを受け止めて抱きしめ、その髪に頬を摺り寄せた。

「どうしたことか、長く離れておったように思うてならぬ。やはり我は、一夜でも主を側から離したくはないのだの。」

維月も、維心を見上げて微笑み、ねだるように身を摺り寄せた。

「私も、お会いしたいとそればかりで。早よう宮へお連れくださいませ…。」

維心は、愛おしげに頬に口付けた。

「連れ帰ろうぞ。早よう帰ろうの。」

それを見ていた炎嘉が、呆れて言った。

「あのな。皆が見ている面前でなんぞ。維月も維月ぞ、普段は落ち着いておるのに。それに維心、主、だるいのではなかったか。」

維心は、首を振った。

「維月は別ぞ。我はこれが居ったらそのようなもの感じぬから。」

相変わらずの維心に、蒼も呆れたがなぜかホッとする感情もあって、苦笑して言った。

「では、オレもこれで。皆を見送りに出なければと思っておったところでありまするし。炎嘉様も、お疲れでしょう。」

炎嘉は、頷いて立ち上がった。

「おお、もう戻る。軍神達も準備は出来ておろう。では、出発口まで一緒に行こうぞ。」

蒼と炎嘉が先に立って歩き出し、その後ろにべったりと足が絡まるのでないかとくっついて歩く維心と維月、そしてその後ろに維明と箔翔が続き、皆は宮の出発口へ向かったのだった。


一同が出発口に到着すると、碧黎が若い神と共に立っていた。維心、炎嘉、維明、箔翔、そして蒼は一斉に構えた…そして、それは維月が碧黎に気付いて喜んで駆け出したので解けた。そうだ、どうして構える必要がある?

「お父様!」

維月は、維心にしたのと同じように碧黎に抱きついた。維心は、ムッとした顔をしたが、それでもいつものように皮肉は言わず、黙っていた。碧黎は、維月を抱きとめて笑った。

「おお維月よ、もう龍の宮へ帰るか?此度はゆっくり父と話すことも無かったではないか。もう少しこちらへ残らぬか?」

まるで妃に対してするように、維月の頬に触れて言う碧黎に、蒼も驚いたがやはり黙っていた。維月は、ためらうように言った。

「でもお父様…もう帰らねばなりませぬわ。また、あちらへもお越しくださいませ。あちらでもお話出来まするから。」

碧黎は、頷いて微笑んだ。

「そうよな。夫を立てる主の気持ちも分かる。また主を訪ねようぞ。」と、皆を見た。「帰るか。」

維心は、不機嫌なまま維月に手を差し出しながら答えた。

「此度はこちらの催しに参加するために来ただけのこと。」と、こちらへ戻って来た維月の手を取って言った。「疲れもあるしの。一刻も早く維月を連れて戻りたいと思うておる。」

碧黎は、相変わらずではあるが、それでも無意識に自分に遠慮はしている維心を見て、少し苦笑したが、言った。

「まあ待たぬか。我がここに来たのは、何も維月を見送るためだけではないわ。」と、傍らに立つ若い神に頷き掛けた。その神は、緊張気味に前に出る。「猛が炎嘉の役に立っておるのを見て、ならばとこれもこちらへ連れて参った。元々、我の宮に居ったのだがの。あんなところで埋もれさせるのはもったいないと思うての。帰る前に、紹介しておこうぞ。」

すると、その神は軽く頭を下げた。

「聖、と申しまする。」

皆、驚いた顔をした。覚えがある…そう思ったのだ。

「…どうしたことか、覚えがあるような。」炎嘉が、やっと口を開いた。「はて、主の宮へ行った時かの。」

碧黎は、首をかしげた。

「ほう?そうではないか?これを連れ出したのは初めてのことであるから。」

維心は、黙っている。しかし、腕はしっかりと維月の肩を抱いていた。維月が、不思議そうに維心を見上げた。

「維心様?」

維心は、ハッとして首を振った。

「何でもない。」と、碧黎に言った。「では、我はもう行く。聖は、これからここで過ごすことになるのか?」

碧黎は、頷いた。

「ああ、ここで神世を学ばせようと思うておる。そして、ここの軍にでも入るか、先はこれ次第であるの。」

維心は、黙って頷くと、維月の肩を抱いたまま踵を返した。

「では、我はこれで。またの。」

そうして、迎えに来ていた龍の軍神達が膝を付く、輿の方へと歩いて行く。蒼が、慌ててその背に言った。

「維心様!また、新年にご挨拶に参りますので!」

維心は、顔だけ振り返って分かったと軽く頷き、維月を先に輿へと入れ、自分もそこへ乗り込んで行った。炎嘉は、まだ聖を見ていたが、言った。

「ああ、我も帰らねば。しかし聖、主も神世を学んだら我の宮に来たければ来ても良いぞ。あちらもここと同じで寄せ集めの宮であるから。」

聖は、驚いた顔をした。

「炎嘉殿と申したか?我を、そちらへ?」

炎嘉は、困ったように表情を緩めると、頷いた。

「なぜか主が気に入っての。悪い神ではないようよ。」と、碧黎を見た。「ではの。行き場の選択肢に、我の宮も入れておけば良い。」

碧黎は、微笑んで頷いた。

「それは聖次第であるが、心強いの。我の子のようなものであるし、主は世話好きであるから、安心ぞ。とにかくは、早よう神世に慣れされることよな。」

炎嘉は、頷いた。そうして炎嘉が輿へと向かう時には、維心と維月が乗った輿は浮き上がって、軍神達に囲まれて飛び立とうとしていた。維明と箔翔も、その軍神達に混じって飛んでいる。

炎嘉は、輿へと乗り込んだ。

「ご出発!」

迎えに来ていた、嘉楠が叫ぶ。そうして、炎嘉もそこを飛び立って行った。

蒼は、何か忘れているように思えてならなかったが、それからは新年の準備が始まるのでいろいろと対応に追われ、すぐに気にならなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ