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妖怪学園の七不思議① 影拾いの影法師  作者: 磐城 怜
第4章 妖怪学園の新入生たち
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23/24

第23話 心を読む妖怪

面談室は職員室よりもずっと小さかった。中央に細長い机があり、向かい合わせに椅子が置かれている。壁には小さな窓が一つあるだけで、職員室にいた先生たちの話し声も、扉を閉めるとほとんど聞こえなくなった。


急に静かになった部屋の中で、古い時計が時を刻む音だけが響いている。


カチッ。カチッ。カチッ。


ぬらりひょんは机の向こう側へ座ると、流生にも椅子を勧めた。


「どうぞ、お掛けください。」


流生は、勧められた古い木の椅子を机から引いた。椅子には薄くて深い緑色の座布団が敷かれている。座ると、リュックの中でサッカーボールが背中に当たった。


ここへ来た理由。聞きたかったこと。言わなければならないこと。


何度も頭の中で考えてきたはずなのに、いざ話そうとすると、どこから説明すればよいのか分からなくなる。


ぬらりひょんは急かさず、落ち着いた動作で書類を机の上に置いた。


「流生さん。あなたが人間界からこの学園へ来られた理由を、ご自分の言葉でお話しいただけますか。」


流生は膝の上できつく両手を握った。握りしめた手のひらが、熱く湿っている。


父さんと母さんに会いに来たんです。


そう言うだけだ。


この学園からサッカーボールが送られてきたことも、両親には生まれてから一度も会ったことがないことも、二人がどこにいるのか教えてほしいことも、全部話せばいい。


流生は大きく息を吸い、顔を上げて、ぬらりひょん事務長を見つめた。そのとき、閉めたはずの面談室の扉が、音もなく開く。


「お前の父親と母親は、今ここにはいない。」


低く、落ち着いた男の声が面談室に響いた。流生は驚いて振り返り、背後にある扉を見た。


扉の前に、背の高い男が立っていた。墨色の着物の上に、深い紫の羽織を重ねている。黒い髪にはわずかに白いものが混じっていたが、年齢はよく分からない。角も、羽も、尻尾も見当たらず、一見するとただの人間のように見えた。


その男は、椅子に座っている流生の顔をまっすぐに見つめた。


その目に見られた瞬間、胸の奥までのぞき込まれたような感覚がして、流生は思わず息を止める。


「……俺、まだ何も言ってないですけど。」


止めていた息を吐き出すように、流生は言った。しかし男は、流生の言葉などお構いなしに何かを確かめるように、さらに流生を見つめた。静かに見つめられるほど、流生は自分の気持ちを隠したい衝動に駆られた。


なんだコイツ。


まるで蛇やサソリのような、身の危険を感じるものを目の前にしたときのゾワゾワする嫌な感覚が、全身を駆けめぐる。


「顔を見れば分かる。」


男はそれだけ言うと、流生から目をそらさないまま、面談室の中へ入ってきた。


嫌な言い方。


腹が立ったが、先ほど言われた言葉が気になった。


――お前の父親と母親は、今ここにはいない。


「……父さんと母さんのこと、知ってるんですか?」


流生は椅子から身を乗り出して、恐る恐るたずねた。男は答えなかった。


ぬらりひょんは、男が突然入ってきたことに少しも驚いた様子を見せなかった。


「こちらの先生にも、同席していただきます。」


そう言って自分の隣の椅子を手で示すと、男は流生の向かい側に腰を下ろした。


なぜこの男が同席するのか、流生には分からなかった。しかし、この学園の先生であることは分かった。


「あの、さっきも聞いたんですけど、俺の父さんと母さんを知ってるんですか?」


流生はもう一度聞いた。男はジロリと流生をにらみつけながらボソリと言う。


「……知っている。」


その言葉に流生の心臓が、ドクンと大きく反応する。


やっと見つけた!


流生の表情がパッと明るくなった。


この人は、父さんと母さんを知っている。生まれてから一度も会ったことのない二人に、会ったことがあるのかもしれない。話したこともあるかもしれない。


「だったら、どこにいるのか教えてください!」


流生は思わず立ち上がりそうになったが、必死にこらえた。


「……さっき言ったはずだ。二人は今、この学園にはいない。」


「じゃあ、どこにいるんですか。」


男は答えなかった。


「知ってるんですよね?」


それでも男は、流生を見つめたまま口を開かない。


まただ。


大人はいつも、肝心なことを話してくれない。聞いても「まだ子どもだから」「今は知らなくていい」と言って、勝手に話を終わらせる。


流生の中で、不安に押しつぶされていた苛立ちが、少しずつ顔を出し始めた。気づくと流生は、頭をガリガリとかいていた。おばさんにいつも注意されていた癖だ。


「流生さん。」


ぬらりひょんが静かに呼びかける。


「こちらも、あなたがどのようにしてこの学園へ来られたのか、すべてを把握しているわけではありません。まずは、最初からお話しいただけますか。」


流生は男をにらむように見た。しかし男は気にした様子もなく、黙って流生の言葉を待っている。


話さなければ、何も教えてもらえない。落ち着け。


流生は自分に言い聞かせて、一度大きく息を吐くと、背負っていたリュックを膝の上へ下ろした。ファスナーを開き、中からサッカーボールを取り出す。


「これが、十二歳の誕生日に送られてきたんです。」


取り出したボールを、机の上にそっと置いた。サッカーボールは少しだけ転がり、ぬらりひょんと男の間で止まった。


「おばさんが、父さんと母さんから届いたって言ってました。箱の中には、これと、白いカードが入ってて……。」


流生はポケットから白札を取り出し、サッカーボールの隣へ置いた。それから、膝の上のリュックを椅子の脇へ下ろした。


白札を見た瞬間、面談室に入ってきてから一切表情を変えなかった男の目が、ほんのわずかに見開かれた。


「手紙はありませんでした。何でこのボールを送ってきたのかも、何も書いてなかった……。」


流生はサッカーボールに視線を落とした。


「俺、サッカーなんてやってないんです。俺がやってるのは空手で、幼稚園のころからずっと続けてて……。もうすぐ黒帯の試験を受けられるかもしれないんです。」


何を説明しているんだろう。ここまで来た理由を話さなければならないのに。


空手の話なんて関係ないのは、自分でも分かっている。それでも、流生は一度口から出た言葉を止めることができなかった。気づけば、言葉だけでなく、涙までボロボロと頬をつたい、口の中へ入ってきた。


しょっぱいな。


そう冷静に思う自分とは裏腹に、言葉も、涙も、それどころか鼻水まで、まったく止まらなかった。


「と、父さんと母さんは、そんなことも知らないんです。」


ずびっ、と流生は大きく鼻をすすった。


「俺が何を好きなのかも、何を頑張ってるのかも……何も知らないんだ。」


声がますます震えた。流生は何とか抑えようと、サッカーボールを両手で強くつかんだ。


「で、でも、箱についていた荷札に、北海道摩周湖一ノ一って書いてありました。学園の門にも、同じ住所が書いてあった。だ、だから、ここに来れば……会えると思って来たんです。」


男もぬらりひょん事務長も、流生の話をさえぎらなかった。


空手の話をしている間も、住所の話をしている間も、二人はただまっすぐ流生を見つめていた。


「お、俺、入学しに来たんじゃありません!」


流生は男の目をにらみ返した。バカみたいかもしれないが、目の前にいる男が自分の今までの不幸を作った原因のように感じられた。


「と、父さんと母さんに会いに来たんですっ!」


その言葉を口にした瞬間、胸の奥に押し込めていたものが、一気に喉までせり上がってきて、流生は吐き気をもよおした。しかし口からあふれる言葉をうまくコントロールすることができない。


「う、生まれてから、一度も会ったことがないんです。こっ、声だって知らないし、か、顔も知らない。街ですれ違っても……た、たぶん俺には……その人が親だなんて分からないんだ。」


流生は泣くつもりなんてなかった。


泣いたら、子どもだから泣いてるんだって、バカにされる。


でも、頬に熱い涙がつたうのを止めることができない。ボタボタと垂れる涙が顎からズボンへ落ち、まるで漏らしたような格好の悪い染みを作っていく。


鼻水で息が苦しく、嗚咽を必死にこらえる喉がジンジンした。泣いていることなど、目の前の大人たちには一目瞭然だった。それでも流生は必死にこらえようと、むきになって何度も目をギュッとつぶった。


大人たちの顔を、もう見られなかった。流生は机に置いたサッカーボールに視線を落とした。


「……どこにいるか、教えてください。」


声がかすれる。


「一目だけでもいいんです。」


誕生日には見るのも嫌だったサッカーボールを、流生は今、両親につながる大切な手がかりを奪われないように、両手できつく握りしめた。


「俺、父さんと母さんに……会いたいんです。」


面談室の中に、流生が嗚咽をこらえる息の音と、古い時計の音だけが残った。


カチッ。カチッ。カチッ。


ぬらりひょんも、男の先生も、すぐには何も言わなかった。


長い沈黙の後、男は着物の袖から、きれいに折りたたまれた紺色の手ぬぐいを取り出した。何かと思って流生が顔を上げた瞬間、男は素早い動作で、その手ぬぐいを流生へ放った。何かが飛んできたと思うより先に、体が動いていた。流生は片手をボールから離し、手ぬぐいを床へ払い落としていた。


「……会いたいと思うのは、当然だ。」


慰めてもらえるとは思っていなかった。ましてや、最初から嫌な言い方ばかりする、この男に。


「ご、ごめんなさい。」


流生は急いで、床にはたき落としてしまった手ぬぐいを拾った。


「俺は、お前の父親と母親を知っている。」


「そ、それなら、どこに……」


男は深く息を吐いた。


「だが、二人が今どこにいるのかは、俺にも分からない。」


「分からない……?」


流生の胸の中に差し込んだ小さな光が、また消えかけていた。

読んでくださって、ありがとうございます。


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