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剝製屋事件簿<水色うさぎ>  作者: ルリコ


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7/8

うさぎ酒場

「にいちゃん、大丈夫か? そないビックリしたか? 気付けにどうや」

鈴子は氷の入ったグラスを手渡す。

 薄い黄金色の液体……梅の香り。


「あ、どうも。いただきます……あ、おいしい」

 高アルコールの梅酒は上質の味。

 口に含めば、気分が良くなった。


 動物霊園事務所の中。

 聖はソファに。

 鈴子が目の前に。

 ゴールドに茶色の細ストライブのパンツスーツ。

 いつもながらに派手。

 脱いだ<ウサギの着ぐるみ>がテーブルの上に。

 透明ポリ袋に入れて置かれている。


 ……やっぱコレ、気味が悪い

 聖は、禍々しい邪気を感じていた。


「ウワン、ウウ、」

「わん、わん、わん、」

 外からシロとトラの吠え声。 

 ややこしいから柵に戻されたらしい。

 その事が不満で吠えているのか?

 にしても、吠えすぎている。 


「セイさん、焼いて墓に埋めて欲しいと男の人が持ってきたんです」

(受付カウンターに立っている)悠斗が言う。


 男?

 なんで動物霊園に?

 着ぐるみに墓? 

 どうして……?

 

 複数の疑問が湧く。

 何から聞いていいのか。


 まずは、

「どうして社長は、ソレを着てたんですか?」


「にいちゃん、自分でも、よお分からんねん。何となく、やな」

 鈴子はしれっと答えた。


「何となく……でもね、社長、『水色のウサギ』ですよ」

 

 着ぐるみを、動物霊園に持ち込むなんて、それだけでも異常でしょ?

 しかも、あの<ウサギ男>まんま、ですよね。

 怪談師殺しのモノかも知れないんですよ。

 すぐに警察に通報すべき、ですよね。

 被害者の血が付いてるかも、知れないのに、


 鈴子は、聖の問いには答えずに

「ウサギ男やて。なあ、知ってる?」

 悠斗に聞いた。

「すぐ調べます」

 悠斗は携帯電話で検索。


「社長、これです。怪談師が配信中に刺し殺されて……」

 事件記事を鈴子に見せる。


「へえ。喋ったら死ぬ話をして殺されたんか。けったいな事件やなあ」


「『ウサギ男』、着ぐるみは水色みたいですよ」

 

 なんと

 鈴子も悠斗も<ウサギ男事件>を知ってはいなかった。


「にいちゃん、カオルさんに知らせるんやろ?……ゴメンって言うといてな」

 鈴子は事件のあらましを知り、バツが悪そう。


「セイさん。自分が1人で対応しました。事情は詮索していません。今までにも人形やぬいぐるみを持ち込まれたケースはあります。マニュアル通り人形供養の寺などを勧めました。しかし、どうしても墓にと言われて、料金は現金前払いです。もちろん申込書に記入は頂いています」

 悠斗は、事務的に説明する。


「申込書も撮らせてもらってカオルに送ります」

 

 依頼主の素性は警察ならすぐに分かる。

 

 着ぐるみのパーツごと写真と一緒にカオルに画像を送った。

 直ぐに既読になり

 10分後に

(今から暑を出る。霊園事務所に回収に行く)と返信。


 アニー殺害の動画に写り込んでいたモノなのか。


 テーブルの上の着ぐるみに、皆の視線が集まる。

 水色の着ぐるみはところどころ色あせて灰色。

 よく見れば血痕のような汚れもあった。


 自分の頭に浮かんできたのと、何故同じなのか?

 聖はソレが怖い。

 怖いから、なぜなのかと考えずにはいられない。

 わからない。


 考えても、考えても分からぬ問いに、

 鈴子が

 あっさり答えをくれた。


「これは『うさぎ酒場』の『うさぶろう』やな」

 と。

「うさぶろう、ですか?」

 不気味なウサギは、固有名詞があった。

 頭に浮かんだのは、実際に見たから?


「社長、『うさぎ酒場』って、昔、ミナミ(大阪の繁華街)にあった4階建ての居酒屋ですね」


 悠斗は、噂を聞いたことがあると言った。

 顔つきから良い噂では無さそう。


「そうやで。3年しか続かんかったけど。ようけ金かけて宣伝したのにな。関西局でコマーシャル流してたんやで。『うさぶろう』が店の外階段を千鳥足で降りてくるねん……月並みでは無いからな、不気味やと、評判にはなったな」


(あ、それだ。俺、そのコマーシャルを見たんだ)

 聖は腑に落ちた。

 頭に浮かんだ気味の悪いウサギは、空想では無く記憶だった。

 子供の頃に実際見ていたのだ。


<ウサギ男>の着ぐるみは、この<うさぶろう>なのか?

<うさぎ酒場>から辿れば犯人が分かるのでは?


「にいちゃん、それはどうやろ。閉業して20年も経ってるから。『うさぶろう』は3年の間は、ずーっと店の前に立ってたけどな」

 11時から24時まで営業中は店の前に居た。

 おどけた身振りで動く看板の役目を果たしていた。

 ポケットティッシュや割引券を配っていた。

 時には酔っ払いに絡まれたり、こどもに蹴られたり……


「長時間労働で立ちっぱなし?……キツい仕事ですね」

 聖はシフト制だったかと思った。


「1人やで。一番の役立たずに『うさぶろう』させてると、店長は言うてたな」

 嫌な事を思い出したのか、鈴子は眉をひそめた。


「役立たず、ですか……辞めさせる為に、キツい仕事を振ったってコトですか」

 自主退職させるための常套手段かも。


「違うで。事情があって辞められない人を、選んでた。皆、泣く泣く『うさぶろう』になったんやで」

「皆?……『うさぶろう』は何人もいたんですか?」

  

「うん……」

 鈴子は口ごもる。


「セイさん、自分が聞いた話では、4人ですね」

 悠斗が話を引き継いだ。


「外階段から転落して1人死にました、酔っ払いに川に投げ込まれて溺死が1人。熱中症で救急車で運ばれたが手遅れだったのが3人目。あと1人は……」

 なにやら怖い話をスラスラと……。

 ブラックジョーク?


「4人目は老人で心不全でしたね」


(ひいいーーつ)

 聖は

 妙な金属音を聞いた。

 どうやら自分の口から漏れたようだと、

 気付いて恥ずかしい。


「兄ちゃん、えげつない話やろ」

「あ、は、はい……」

 怖すぎる。

 そんなんで『うさぎ酒場』はすぐ潰れたのか?


「しやで(そうだ)。さすがに4人も死んだらゲンが悪い。人も引く。……まだ続きがあるんや。こわいで。聞きたいか?」

 鈴子はタバコに火を付けた。


「は、はい。聞きます」

 こわいけど、聞かずにおられない。


「恐ろしいのは後日談や。職を失った店長がな、おかしなって、2年くらい後に、無理心中したんやで。嫁と2人の子を刺し殺して、自分も死んだ……因果応酬や、『うさぶろう』の祟りやと、ミナミでは密かに語り継がれてるんや」

   

 嫁と子供2人殺した……一家4人無理心中?

 20年前に店が潰れて、その2年後なら18年前。

 エスターが<ウサギ男>を見たのと同じ頃ではないか。

 キミ子が住んでいた団地の、無理心中事件と……もしや同じ話?


 だったらどうなる?

 一瞬、これで繋がった気がした。

 しかし何と何が繋がるのか、見えてこない。


「社長、今の話も、カオルに伝えます」


(着ぐるみは『うさぶろう』だと山田社長から聞いた。

 ミナミにあった『ウサギ酒場』の客寄せらしい。

 元店長は、妻と子2人を道連れに無理心中で死去)

 

 結月薫に、ラインを送った。


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