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剝製屋事件簿<水色うさぎ>  作者: ルリコ


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6/6

ウサギ男が出た


「カオルさん、上機嫌だったね。……謎ね」

 マユは、話を聞くのが楽しみだと言った。

「明日にでも、来そうな感じだったね」


 しかし

 3週間過ぎ、4月になっても薰は来ない。

 ラインも無い。

 

 怪談師殺人事件は解決していない。

 犯人はベランダから侵入、クローゼットに潜んでいた痕跡。

 捜査の続報はそこで止まっている

 

 事件現場は7階建てマンションの3階だった。

 地上からベランダを伝って上ったらしいが、目撃情報はない。

 

 捜査に進展が無いのに、テレビのワイドショーでは

 <ウサギ男>が連日取り上げられている。


 ……恐ろしい展開になっていたから。


 栃木で一人

 大阪で一人

 <ウサギ男>に、殺された。

 水色のウサギの着ぐるみを着た何者かに、

 刺し殺された。

 

 栃木県O市の事件

 被害者A: 29才男性(会社員)

 3月20日午前1時。

 自宅(社員寮)前の路上。

 同僚2人と、近くの居酒屋から歩いて帰ってきた。

 犯人はAの背後から覆い被さり、腹部をめった差し。

 死因は出血多量によるショック死。

 同僚の1人は、Aから<ウサギ男>の話を聞いたと証言。

 

 大阪府Y市の事件

 被害者B:40才女性(無職)

 3月27日午後9時、自宅前で倒れているのを家族が発見。

 腹部に複数の刺し傷。救急搬送中に心肺停止。

 「ウサギ男が来た」と言うのを家族が聞いた。

 

「セイ、まさかこんなコトになるなんて……」

 マユは顔を曇らせた。


 警察に保護を求める者まで出てきている。

 自分は怪談師阿尼の生配信を見た。

 <ウサギ男>の話を聞いてしまった。

 ……喋ってしまった。

 怖い。

 <ウサギ男>に殺されるのか?


「なんで、あっちにもこっちにもウサギ男が現れるんだ?」

 

 ことの発端はホラーマニアの体験話。

 聞いた相手が実話怪談のネタを捜している怪談師だった。

 早々に配信動画に載せた。

 何事も無ければ話題にもならなかった。

 視聴者は多くは無いのだから。


「セイ、SNSには『水色の悪魔』と名付ける人も。そもそもウサギじゃ無かった。長い角が、耳に見えたんだと」

「悪魔に水色は似合わないのに……ブルー系は聖なる色だろ。マリア(聖母)ンブルーって言うくらいだから」

 <ウサギ男>が、また目に浮かぶ。

 真っ赤な鼻。

 気味が悪い。

 まさか、取り憑かれてるとか?


 エスターの話を聞いてしまったから?

 そんな、アホな。


「『ウサギ男』は1人の人間では無いわね」

 マユがきっぱり言う。


「人間で無い? まさか、本物の化け物?」

 と、聞いてみる。 

 そんな筈無いと確信しながら。


「3つの事件、同一犯とは考えられないという意味よ。着ぐるみがあれば誰でも『ウサギ男』になれるんだから……ほら、ここ見て」

 ディスプレイの、更新された記事を指差す。


(ウサギの着ぐるみに注文殺到)とある。


「……なんで?」

「中古品も、品切れですって。数少ない水色、青が先に売り切れ、白もピンクも売り切れ」

「コスプレしてSNSにあげたいのかな。相当数、巷に出回ってるのか。まてよ……ヤバい奴が持ってる可能性があるんだ」

 誰かを殺したい、でも捕まりたくない。

 そういう奴が、手に入れたとしたら。 

 殺人実行のハードルが下がるんじゃないか?

 着ぐるみがあれば、『ウサギ男』の犯行に、偽装できる。

 被害者は『ウサギ男』を知らなくても。

 死人に口なし。

 喋ったから殺された、ことに出来る。


「そっか。栃木、大阪の事件は怪談師殺しの犯人とは別なんだ。……模倣犯だな」

「『ウサギ男』の呪いに、見せかけたのよ」

「捜査攪乱か。けど警察は欺けないさ」

「連続殺人では無いと、分かってるでしょうね……怪談師殺しの犯人が捕まればいいのにね。これ以上模倣犯が湧いて来る前に」


 翌日、今度は沖縄に<ウサギ男>が現れた。

 被害者C:50才男性。

 腹部を刺され倒れているのを観光客が発見。

 心配停止状態。

 家族の証言では「ウサギ男に追いかけられた」と、数日前に言っていた。


「また……出たんだ」

 嫌なニュースに気分が沈む。


 解体中のパピヨンが

 ウサギっぽく見えてくる。

 また頭の中に<ウサギ男>が現れる。


 想像で描いた姿であろうに

 だんだんリアルになってるようで気味が悪い。

 頭の中から<ウサギ男>を追い出したい。


 いつもより早い時間に、山田動物霊園に向かった。

 閉業時間(午後6時)丁度に着くように。

 シロに早く会いたいと。

 森の中の小径を走っていった。


 山桜がちらほら咲いている。

 シロとトラの吠え声……。

 続いて木立の間から

 木製の柵が目に入る。


 柵で囲まれた広いスペースで

 シロとトラが同じ方向に向かって吠えていた。


「何に、吠えてるの?」


 森を抜けきる。

 視界が開ける……と、あらぬモノが目に入る。

 ……<ウサギ男>が。

 やばい、やばい、俺、やばい、


 聖は目を閉じた。

 空想の<ウサギ男>の幻覚を見たのだと。


 俺、どうかしている。

 頭を一振りして、カッと目を開ける。


 え?


 <ウサギ男>は消えてくれない、どころか、こっちを見てる。

 水色の所々が色あせて灰色。

 白目は黄色すぎて

 鼻のピンクも赤に近い

 

 頭の中に居着いたまんまの姿。

 頭の中から抜け出た?

 俺の想像が実体に?


 ……そんな馬鹿な。

 金縛りに会ったように足が動かない

 アレ、の側に行きたくない。

 ……怖い。

 

 立ってられない。

 しゃがんでしまう。


「セイさん、どうしました?」

 悠斗の声。

 シロとトラが短く吠える。


 ギイギイと柵の入り口を開ける音。

 直ぐさま犬2匹駆けてくる。


 心配げにクンクン、くわんくわん。

 優しく頬を舐められた。

 

 ……<ウサギ男>が目の前に。

 手を伸ばせば触れる距離。

 え?

 

「ええーっつ」  

 聖は大きな声が出てしまう。

 

 幻覚じゃ無かった。

 明らかに実体。

 で、その中身は……。

 ウサギと言うより、猛獣の気配。

 分厚い着ぐるみを通してでも、感じた。

 良く知っているオーラ。

 ………ほのかにムスクの香り


「兄ちゃん、貧血か?」


 <ウサギ男>は

 鈴子の声で喋った。




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