怪談師
「俺は助手のユヅキや。君はなんで神流センセイを知ってるの?」
薰は突如、助手になった。
「都市伝説系のオカルトサイトでイラストを見ました」
(なんだそれ。どんなイラストなんだ?)
聖は突っ込みたかった。
でも薰が横目で制した。
「なるほどな。そうなんか。ほんで神流センセイのサインが欲しいンか? 一緒に写真撮りたいんか?」
「違うんです。聞いて欲しいコトがあるんです。……マオねえちゃんが連れてきた人らが、怖いこと言うてたんです。人に喋ったら死ぬ話です。喋ったからマオ姉ちゃんは死んだんやと」
「そんなしょーもないコト言うてたんか」
「隣のテーブルを片付けてた時に、聞いてしまったんです。僕が側に居ると気付いて、『アンタ、今の話聞いたか?』と、2人に凄い顔で睨まれました」
何も聞いていないと答えた。
ホントは全部聞いてしまった。
「マオ姉ちゃんって、救急車で運ばれた子やな?……亡くなったとはな。君の従姉妹やったんか。……ショックやな」
薰は、ツムギの両肩に大きな手を載せる。
「はい……嘘みたいで」
「ショックなところに、あの話、聞かされたんやな。晩飯の時に、横で喋ってた怖い話やろ」
「え?……聞いたんですか」
ツムギは聖の顔をチラ見した。
聖は、ただ頷いた。
薰が相手をしてくれているのだ。
霊感剥製士はあまり喋らない方が良いのかも。
「あんな、ただの偶然やで」
「……でも」
「あの話は創作やで。そんな風にな、3人で喋ってたで」
「創作?…… ほんなら何で、あの2人は怖がってたんやろう」
「怖い、怖い、いうて楽しんでるんや。そない悲しくは無いんやろ」
「悲しくない……あ、そうかもしれないです。初めてリアルで会ったみたいやし」
ツムギは腑に落ちたようだ。
「センセイ、悪霊も死に神も、おりませんでしたなあ」
話を振られた。
最後は霊感剥製士がシメるのか。
「はい……何の気配も……、特には」
ツムギの恐れを払拭する言葉を捜す。
エスターは(喋ったら死ぬ話を)喋ったせいで死んだのではない。
前にも誰かに話したと呟いていた。
初めて喋ったのだとしても、そんな呪い、ある筈が無い。
それなのに
どういうわけだか
さっきから
ウサギ男が頭に浮かんでる。
想像で作り上げた姿、なんだろうが、リアル。
水色の所々が色あせて灰色。
白目は黄色すぎて
鼻のピンクも赤に近い
細部まで……勝手に浮かんできた。
気味悪いウサギ。
さっと消し去りたい。
「聞いた話は、早々に記憶から消すことです。思い出すのは抑制できないけど、意識して気を逸らすんです。面白い動画見るとか」
「……はい」
ツムギは頷いた。
「もし、何かあればメールでも電話でも」
聖は名刺を渡した。
「ほんまに電話しても、いいんですか?」
「聞いた話を、誰かに喋ったりしないことです。それだけ守れば、何も心配ないですよ」
「あ、そうなんや。……喋らんかったら、そんでええんや」
ツムギは名刺を胸に当て、一礼して走り去った。
「霊感剥製士の名刺はお守りになるようやな……なんぞ、車酔いに利くお守りは無いんか」
渋い顔して運転席に乗ろうとする。
「カオル、高速で帰ろうか。和歌山から大阪周りコースで。俺が運転する」
「えらい遠回りやで。ええんか?」
「時間はそう変わらないよ」
「ほんならついでにドライブしよう。海が見たくなった」
カオルは嬉しそうに助手席に乗り込んだ。
その夜
マユは早い時間に姿を見せてくれた。
(白い羽根を編み込んだ生地のノースリーブのワンピース。白地に桃色の花を刺繍した着物を羽織っている)
「人が大勢いたんでしょ。気分悪くならなかった? ちゃんと楽しめた?」
心配げな顔でマユは聞く。
引きこもりの子が、久々に外出したみたいに。
「うん。行って良かったよ。思っていたよりずっと大きな川だった」
満天の星、北欧風のペンション……。
ひととおり楽しい旅の報告。
<同宿客の死>は省いた。
心臓発作で急死は、マユの過去と被ってるし。
<ウサギ男>を再び思い描きたくなかった。
3人のホラーマニアとツムギ。
ひっくるめて記憶から消し去ろうとした。
ところが
1週間も経たぬうちに、ツムギが電話を架けてきた。
「か、怪談師が、刺し殺された事件、あ、あの人に、似てると、宿泊名簿、やっぱり、……やっぱり…………、」
しどろもどろ。
何言ってるか意味不明。
その上言葉は途切れた。
「カイダンシ、って言いました?(何ソレ)……そんな事件があったんですか?」
「し、知らへんのですか? 昨日、生配信中に刺されたんですよ」
知らない。
で?
「殺されたのは、マオ姉ちゃんと、一緒やった人でした」
「え?……マジで?」
聖は3人の女を思い出す。
エスター(マオ):20代前半、色白で小柄。
三つ編み。ベルベットで白襟のワンピース。
……2月28日死亡。
パール:30代後半。痩せて長身。茶髪。
深紅のワンピース。
アニー:50才くらい。ふっくらした体型。
セミロング。焦げ茶色のエプロンドレス。
パールかアニーが殺されたの?
「マオ姉ちゃんが死んで、続けてあの人が殺された。偶然ですか? 呪い、ちゃうんですか?」
(喋ったら死ぬ話を)喋ったせいで死んだと、
ツムギは言う。
「僕は、神流さんに言われた通り、誰にも喋ってません。喋って無いんやから、死んだりせえへん。そうですよね?」
すっかり怯え、再び霊感剥製士にすがっているのだ。
事件が事実としたら……無理も無いかも。
「たとえ呪いが本物でも、言葉通りですよ。……誰かに話さない限り、君に害は及びません」
安心させる言葉で終わらせた。
即、携帯電話でニュース記事をチェック。
3月6日午前2時
奈良市内のアパートで、女性が倒れているのを警察官が発見。
全身数カ所を刃物のような物で刺され、心配停止状態。
殺人事件として捜査。
女性は、この家に住む香田スミレさん(49才)と判明
<怪談師 阿尼>の名で怪談語りを配信。
生配信中に何者かに刺されたと視聴者より通報。
事件時の配信動画は閲覧出来なかった。
<怪談師 阿尼 実話怪談語り>の数種類が上がっていた。
ふっくらした体型。下ぶくれの柔和な顔立ち。
濃い茶色のセミロングは緩やかなウエーブ。
黄土色のセーターに焦げ茶色のエプロンドレス。
どの動画も最初に見た時と同じ服装。
顔も声も、
<アニー>だった。




