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剝製屋事件簿<水色うさぎ>  作者: ルリコ


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3/5

怪談師

「俺は助手のユヅキや。君はなんで神流センセイを知ってるの?」

 薰は突如、助手になった。


「都市伝説系のオカルトサイトでイラストを見ました」

 (なんだそれ。どんなイラストなんだ?)

 聖は突っ込みたかった。

 でも薰が横目で制した。

 

「なるほどな。そうなんか。ほんで神流センセイのサインが欲しいンか? 一緒に写真撮りたいんか?」

「違うんです。聞いて欲しいコトがあるんです。……マオねえちゃんが連れてきた人らが、怖いこと言うてたんです。人に喋ったら死ぬ話です。喋ったからマオ姉ちゃんは死んだんやと」


「そんなしょーもないコト言うてたんか」

「隣のテーブルを片付けてた時に、聞いてしまったんです。僕が側に居ると気付いて、『アンタ、今の話聞いたか?』と、2人に凄い顔で睨まれました」

 何も聞いていないと答えた。

 ホントは全部聞いてしまった。


「マオ姉ちゃんって、救急車で運ばれた子やな?……亡くなったとはな。君の従姉妹やったんか。……ショックやな」

 薰は、ツムギの両肩に大きな手を載せる。


「はい……嘘みたいで」

「ショックなところに、あの話、聞かされたんやな。晩飯の時に、横で喋ってた怖い話やろ」

「え?……聞いたんですか」

 ツムギは聖の顔をチラ見した。

 聖は、ただ頷いた。

 薰が相手をしてくれているのだ。

 霊感剥製士はあまり喋らない方が良いのかも。


「あんな、ただの偶然やで」

「……でも」

「あの話は創作やで。そんな風にな、3人で喋ってたで」

「創作?…… ほんなら何で、あの2人は怖がってたんやろう」

「怖い、怖い、いうて楽しんでるんや。そない悲しくは無いんやろ」


「悲しくない……あ、そうかもしれないです。初めてリアルで会ったみたいやし」

 ツムギは腑に落ちたようだ。


「センセイ、悪霊も死に神も、おりませんでしたなあ」

 話を振られた。

 

 最後は霊感剥製士がシメるのか。

 

「はい……何の気配も……、特には」

 ツムギの恐れを払拭する言葉を捜す。


 エスターは(喋ったら死ぬ話を)喋ったせいで死んだのではない。

 前にも誰かに話したと呟いていた。

 初めて喋ったのだとしても、そんな呪い、ある筈が無い。


 それなのに

 どういうわけだか 

 さっきから

 

 ウサギ男が頭に浮かんでる。

 想像で作り上げた姿、なんだろうが、リアル。

 水色の所々が色あせて灰色。

 白目は黄色すぎて

 鼻のピンクも赤に近い


 細部まで……勝手に浮かんできた。

 気味悪いウサギ。

 さっと消し去りたい。


「聞いた話は、早々に記憶から消すことです。思い出すのは抑制できないけど、意識して気を逸らすんです。面白い動画見るとか」

「……はい」

 ツムギは頷いた。


「もし、何かあればメールでも電話でも」

 聖は名刺を渡した。

 

「ほんまに電話しても、いいんですか?」

「聞いた話を、誰かに喋ったりしないことです。それだけ守れば、何も心配ないですよ」

「あ、そうなんや。……喋らんかったら、そんでええんや」

 ツムギは名刺を胸に当て、一礼して走り去った。


「霊感剥製士の名刺はお守りになるようやな……なんぞ、車酔いに利くお守りは無いんか」

 渋い顔して運転席に乗ろうとする。

「カオル、高速で帰ろうか。和歌山から大阪周りコースで。俺が運転する」

「えらい遠回りやで。ええんか?」

「時間はそう変わらないよ」

「ほんならついでにドライブしよう。海が見たくなった」

 カオルは嬉しそうに助手席に乗り込んだ。


 その夜

 マユは早い時間に姿を見せてくれた。

(白い羽根を編み込んだ生地のノースリーブのワンピース。白地に桃色の花を刺繍した着物を羽織っている)


「人が大勢いたんでしょ。気分悪くならなかった? ちゃんと楽しめた?」

 心配げな顔でマユは聞く。

 引きこもりの子が、久々に外出したみたいに。


「うん。行って良かったよ。思っていたよりずっと大きな川だった」

 満天の星、北欧風のペンション……。

 ひととおり楽しい旅の報告。

 

 <同宿客の死>は省いた。

 心臓発作で急死は、マユの過去と被ってるし。

 <ウサギ男>を再び思い描きたくなかった。


 3人のホラーマニアとツムギ。

 ひっくるめて記憶から消し去ろうとした。


 ところが

 1週間も経たぬうちに、ツムギが電話を架けてきた。


「か、怪談師が、刺し殺された事件、あ、あの人に、似てると、宿泊名簿、やっぱり、……やっぱり…………、」

 しどろもどろ。

 何言ってるか意味不明。

 その上言葉は途切れた。

 

「カイダンシ、って言いました?(何ソレ)……そんな事件があったんですか?」

「し、知らへんのですか? 昨日、生配信中に刺されたんですよ」

 知らない。 

 で?


「殺されたのは、マオ姉ちゃんと、一緒やった人でした」

「え?……マジで?」


 聖は3人の女を思い出す。


 エスター(マオ):20代前半、色白で小柄。

 三つ編み。ベルベットで白襟のワンピース。

  ……2月28日死亡。


 パール:30代後半。痩せて長身。茶髪。

 深紅のワンピース。


 アニー:50才くらい。ふっくらした体型。

 セミロング。焦げ茶色のエプロンドレス。

 

 パールかアニーが殺されたの?

 

「マオ姉ちゃんが死んで、続けてあの人が殺された。偶然ですか? 呪い、ちゃうんですか?」

(喋ったら死ぬ話を)喋ったせいで死んだと、

 ツムギは言う。


「僕は、神流さんに言われた通り、誰にも喋ってません。喋って無いんやから、死んだりせえへん。そうですよね?」


 すっかり怯え、再び霊感剥製士にすがっているのだ。

 事件が事実としたら……無理も無いかも。


「たとえ呪いが本物でも、言葉通りですよ。……誰かに話さない限り、君に害は及びません」

 安心させる言葉で終わらせた。


  即、携帯電話でニュース記事をチェック。


 3月6日午前2時

 奈良市内のアパートで、女性が倒れているのを警察官が発見。

 全身数カ所を刃物のような物で刺され、心配停止状態。

 殺人事件として捜査。

 女性は、この家に住む香田スミレさん(49才)と判明

 <怪談師 阿尼>の名で怪談語りを配信。

 生配信中に何者かに刺されたと視聴者より通報。


 事件時の配信動画は閲覧出来なかった。

 <怪談師 阿尼 実話怪談語り>の数種類が上がっていた。


 ふっくらした体型。下ぶくれの柔和な顔立ち。

 濃い茶色のセミロングは緩やかなウエーブ。

 黄土色のセーターに焦げ茶色のエプロンドレス。


 どの動画も最初に見た時と同じ服装。

 顔も声も、

 <アニー>だった。





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