閑話、又はとある少女の初恋
時間は立冬の歓迎パーティーから数時間巻き戻す――
「……ごめんな。こんな時間まで引っ掛かってしまって。残業代はちゃんと出すから」
「いえ、気にはしてません」
ダンは従業員であるレナをレナの自宅まで送っている最中だった。
此処の治安は良い方なのだが、先日の様なゴロツキがいるのも確かなのでギルトサクラは外が暗くなると、必ず一般の女性従業員は必ずギルトのメンバーか男従業員の誰かと一緒に帰る様に義務付けてある。
ダンと共に帰るレナの脳裏には先程ギルトマスターの部屋にいた一人の少年と美男性を思い出す。
少女レナは男が苦手である。
レナは幼少の頃から大人しく、泣き虫な女の子であった。
大袈裟に驚いて泣くレナに近所の男の子達は面白がって悪戯ばかりした。ある時は虫を投げ付けたり、泣く度に囃したてたり、何より気の弱いレナは男の子の大きな声が苦手で何時も泣いていた。
男の子達に虐められる度に女友達が助けに来てくれて、時には男の子達にレナの代わりに敵討ちしてくれた。そう言う訳でレナは身内以外の男性を苦手とした。
しかしレナ自身そんな自分を変えたいと思っており、ギルトサクラにバイトしたのもお客やギルトメンバーの男性と接して少しでも緩和したいと思ったからだ。
ギルトサクラのギルトメンバーやお客は皆良い人ばかりで、最初ぎこちなかったレナも常連客や男性メンバーと接する内に少しずつ克服してきたとレナを良く知っている人物は皆そう証言している。
しかし客の中には素行が良くない者がいる。あの日もそうだった。
運悪くレナが接客した客が余所者のゴロツキで、レナに絡んできたのだ。しかも運悪くその時男メンバーはその場におらず、助けてくれる常連客がいなかった。
尻や胸を触られる度に嫌悪で吐きだしたくなって仕方がなかった。嫌悪と恐怖のあまりレナはその場で『死』を考える程に追いつめられていた。
ソレを助けたのがギルトサクラのギルトメンバーであり、ギルトマスターの養子であるカランであった。
まるで風の様に颯爽と現れ、レナをゴロツキから逃がした。そしてゴロツキ達をスーパーヒーローの様にボッコボコにやっつけたのである。
カランの存在は先輩達から聞かされていた。
カラン・アンソニーではなく流輝圭と言う島国の名前でメンバー登録したのは、元々別のギルトでメンバー登録しようとしたがアイニアの我が侭で頓挫した事。
それでもカランは義母の力を借りず己の力で依頼を成功させた。特にカランは類い稀な知識量を持っていてSSSランク級(このレベルは解決不可もしくは七武帝しか解決できない)の古代文字の解読を成功している。時にその知識を使って魔物討伐にも貢献していてギルト内だけではなく、他のギルトから後援を求める声があるとか。
同年代の少女が活躍して、しかも身近にいると聞いてレナは人目でも会いたいと思っていた。その時にあの事件である。
レナがカランを惚れるのも無理も無かろう。
そんな時に息子と名乗る少年とカランに説教した見た事もない美青年。
これもバイトの先輩から聞かされたが、少年はカランの実の子供ではなく(カランの年齢から考えて当たり前だが)訳あってカランが保護者として一緒に暮らしているそうで、美青年の方は何とカランの使い魔で上位クラスの魔獣だった。
勿論彼女等の間に恋愛関係はないのだが、冒険者の中には使い魔と恋に落ちて夫婦になる者も多い。あんな神の様な美しさを持つ美青年を見て何時か恋に落ちるかもしれない。そもそも同性愛なんて拒否されるだけだ。
段々とネガティブな考えに陥っているレナを知ってか知らずかダンはレナに話しかける。
「所でレナちゃんはファンクラブに入っているかい?」
「えっ? ファンクラブ?」
初めて聞く言葉にレナは困惑する。
「あーレナちゃんは知らないか。お嬢にはねファンクラブがあるんだよ。バイトの子のほとんどが全員館員になっているからレナちゃんもそうかなーと思って」
「バイトの子がほとんどって、会員は女性が多いんですか?」
「まあね。何せお嬢はどこか男らしい面があるから女の子にも惚れられていてね。中には本当に恋している子もいてね」
『恋』の所でレナの心臓がドクリと大きくなった。
「……カランさんはそう言う人達をどう思って?」
「お嬢は同性愛を容認しているよ。『別に犯罪を犯してもいないし、ただ恋した相手が同性だっただけで他人には迷惑かけてないし。てか、子供が出来ないだけで問題はないと思うけど?』と好意的だよ。だがら告白する女の子はいるけど、お嬢は全員誠心誠意に断っているよ」
「そう、ですか」
カランは同性愛を容認していると聞いて安心したが、誠心誠意とは言えやはりカランは断っていると聞いてやっぱり告白するのを躊躇ってしまう。
……ファンクラブに入ろうか。そして私の気持ちを誰かに聞いて貰おう。そしていつかカランさんと恋人同士でなくても、大人な友達関係になりたいな……
そんなことを決心したレナは明日にでもファンクラブに入ろうと決め、家に到着したダンにお礼を言った。




