第八章:希望
穏やかな朝
朝の陽光が、街の通りを心安らぐ温もりで照らしていた。エリナは市場の喧騒のなかをゆったりと歩いている。その顔から、愛らしい微笑みが消えることはない。緑の髪がそよ風になびいてきらめき、彼女が一歩進むたびに、道に沿って小さな花々が咲いていくかのようだった。
「おはようございます、エリナ様!」野菜売りの男が、親しげに声をかけた。
「おはよう、アルデンさん。奥様とお子さんたちはお元気?」エリナは、聞く人を必ず落ち着かせる美しい声で答えた。
「おかげさまで、とても元気です。昨日いただいた薬草のおかげで、下の子の熱も下がりました」
エリナは温かく微笑んだ。「よかった。お体に気をつけてね」
また歩き出したとき、彼女は小さな子供がつまずいて転ぶのを見た。膝から血が出て、小さな頬を涙が伝い始めている。
エリナはすぐに駆け寄り、その子の横にひざまずいた。「大丈夫?」
彼女は優しく、子供の膝の傷に触れた。温かな緑の光が手から広がり、傷は跡も残さず、ゆっくりと塞がっていった。
「ありがとう」子供は、感嘆に目を輝かせて言った。
「どういたしまして。走り回るときは気をつけてね」エリナは愛おしげに、その子の頭を撫でた。
周りの人々は、その光景に微笑んだ。彼らにとってエリナは、単なる英雄ではない。優しさと知恵、そしてこの世界に残された希望の象徴だった。
――
そのとき突然、幸せな空気のただ中で、エリナは何かを感じ取った。市場から遠くない暗い路地から、とても強いオーラが放たれている。
表情が真剣になった。彼女は大事な用事があるからと言って人々に別れを告げ、オーラの源へと慎重に歩き出した。万が一のことがあっても、一般の人々を巻き込みたくなかったのだ。
影に覆われた狭い路地で、黒い外套の人影が、古いレンガの壁にもたれていた。まるで、ずっと前から彼女が来るのを待っていたかのように。
「あなたは誰?」エリナは警戒の構えで尋ねたが、力は解き放たなかった。
男は影の中からゆっくりと歩み出た。暗い金属の仮面が、差し込む陽光の下でかすかにきらめく。
「エリナ」その声は深く、響いていた。「今、王国にいるのは、ゼニヤのほかに誰だ?」
エリナの目が見開かれた。「あなた……ラクシャ!」
本能が目覚め、足元に小さな植物が芽吹き始めた――攻撃のためではなく、警戒の表れとして。
ラクシャは顔をそむけ、敵意がないことを示した。「エリナ、どうか暴力は見せないでくれ。お前がそういう人間でないことは、知っている」
エリナは気持ちを落ち着かせようとし、周りの植物はゆっくりと引いていった。「望みは何? どうして、今の王国に誰がいるかを知りたがるの?」
「奴らに用がある」ラクシャは短く答えた。「これは……正義の問題だ」
――
エリナはゆっくりと首を振った。美しい緑の瞳に、深い悲しみが浮かんでいる。「正義の名のもとに、殺し続けることはできないわ。他の方法がある――破壊ではなく、希望をもたらす方法が」
ラクシャは少し黙り、その言葉を吟味しているようだった。「行動なき希望は幻想だ、エリナ。この世界は、あまりにも壊れすぎている。時には、新しいものを築くために、古いものを先に壊さねばならない」
「でも、その代償は何なの?」エリナの声が、感情に震えた。「失われる魂、引き裂かれる信頼、壊される子供たちの未来? 私は信じているの。血も、破壊もなく、変化は起こせるって」
「俺はもう、あまりにも遠くまで来てしまった」ラクシャの声には、どこか脆いものがあった。「俺はお前たちのような英雄ではない。俺はただ、すべてが破壊される前に、過ちを消し去る影にすぎない。俺はただ……自分にとってとても大切なものを、守りたいだけだ」
その声音に、エリナの目が和らいだ。「大切なものを守ることは、尊いことよ、ラクシャ。でも、魂を犠牲にする方法ではだめ。あなたは、とても細い線の上を歩いているの。もし一歩踏み出しすぎれば、あなたが戦っている相手と同じ怪物になってしまうかもしれない」
「大切なものを守るために怪物にならねばならないのなら」ラクシャの声が硬くなった。「その重荷を背負う覚悟はできている。権力に飢え、自我と野心に溺れる連中のせいで、この世界がゆっくりと壊れていくのを許すくらいなら。俺には、他に選択肢がない」
「選択肢は、いつだってあるわ」エリナは少し近づいた。声は優しいが、確信に満ちている。「ただ、信じればいいの。この闇の中にも光はまだあるって。たとえ見えにくくても。私はあなたを信じてる――あなたには、まだ心があるもの」
ラクシャは長い間、黙り込んでいた。二人のあいだを、風が静かに吹き抜ける。エリナの足元に、無意識のうちに咲いた花々の香りを運びながら。
「その光は、俺が運ぶ。だが、俺のやり方でだ」その声は再び冷たく、きっぱりとしたものに戻っていた。「そして俺のやり方は、闇の中の影を通るやり方だ。そこでなら、誰にも見られずに動け、誰にも理解されずに行動できるからな」
――
「もういい、エリナ」ラクシャは、彼女が答える前に遮った。「俺が正しいことは、お前も分かっているはずだ。俺がやらなければ、誰がやる? この世界は、本当の破滅が来るまで、待ち続けてはいられない。俺がこれをやるのは憎しみからではない――責任からだ」
エリナは、潤んだ目で彼を見つめた。声は小さいが、感情に満ちている。「責任とは、すべてを犠牲にすることではないわ。私はただ、怖いの……いつかあなたが、この戦いの中で自分自身を見失ってしまうんじゃないかって。そしてそうなったとき、本当のあなたの何が残るの?」
暗い路地を、長い沈黙が包んだ。聞こえるのは、風の音と、二人それぞれの心臓の鼓動だけ。
「俺はもう、ずっと前に自分を見失っているのかもしれない」ようやくラクシャが言った。声は、ほとんど囁きのようだった。「だが、守るべき大切なものがある限り、俺はこの道を歩き続ける……たとえ、一人であっても」
――
エリナが答える間もなく、路地の向こうから、子供たちの明るい声が聞こえてきた。
「エリナ様ぁー! こんにちはー!」小さな女の子が、駆け寄りながら叫んだ。
「エリナ様、どうしてここにいらっしゃるんですか?」後ろからついてきた男の子が尋ねた。
エリナははっとして、すぐに後ろを振り向いた――だが、ラクシャはすでに、初めからいなかったかのように消えていた。ただ風が、闇のかすかな匂いを運んでいるだけだった。
彼女は長く息を吐き、それから三人の子供たちに温かく微笑んだ。「あら、さっき猫を追いかけてここまで来たの。でも残念、隣の塀に跳び移って逃げちゃった」
「だったら、エリナ様!」女の子が、熱心にエリナの手を握った。「私の猫を見せてあげる! すっごくかわいいんだよ!」
「まあ、それなら、あなたの猫ちゃんを見に行きましょう」エリナは心からの笑顔で応えた。心はまだ、ラクシャとの会話への不安でいっぱいだったけれど。
彼らは一緒に暗い路地を出て、光と子供たちの笑い声に満ちた世界へ戻っていった。
だが、笑顔の裏で、エリナは拭い去れなかった。さっきの出会いが、はるかに大きく、危険な何かの始まりになるという予感を。
――
目に見えない場所で、ラクシャは、子供たちと並んで歩くエリナを見つめていた。仮面の奥に、憧れのようなものがあった。
「お前のような光は、この世界では稀有だ。あの子と同じように」彼は囁いた。「だから……俺は、どんな手を使ってでも、守ってみせる」
そして彼は再び影の中へ消えた。ますます強まる決意を、胸に携えて。
――つづく。




