第七章:血と雷と涙
太古の魔物の王
巨大な獅子の魔物は、破壊の只中に傲然と立っていた。目は消えかけた燠火のように赤く燃えている。その声は深く響き、数千年のあいだ澱んできた憎悪に満ちていた。
「貴様らは、ただの短命の生き物にすぎん……」魔物は唸った。吐く息が、冷えた空気の中に熱い靄を作る。「我は数千年を生き、貴様らには想像もつかぬ歴史を見てきた。遅かれ早かれ、貴様らは皆、塵のように滅びるのだ」
鋭い牙の並ぶ口から、怒りの咆哮が轟いた。青い炎がその巨体を包み込み始め、赤い目はいっそう燃え上がる。
次の瞬間、体から濃い黒の霧が広がり、戦場全体を覆って、英雄たちの視界を奪った。
パルリは目を閉じた。命の危険のただ中にいるというのに、体は力みなく緩んでいる。周囲の大地の振動を、一つひとつ感じ取っていた。足跡、動き、そして心臓の鼓動までも。
「警戒を怠るな」彼は静かに言った。声はわずかも震えていない。「奴は俺たちのまわりを動いている」
突然、パルリの目が鋭く開いた。「ランガ、後ろだ!」
「ふん、思ったとおりだ」ランガは冷たく答え、影のような速さで身をかわした。
だが最初の攻撃をかわしたそのとき、別の爪が違う側から襲いかかった。まるで魔物が、二か所に同時に存在しているかのように。
ザシュッ!
「ぐっ!」ランガがよろめいた。左腕から血が流れる。「あいつ……二体になったのか!?」
ゼニヤが拳を握りしめた。小さな稲妻が、彼女のまわりで閃く。「くそ、あんたと同じような影の操作ね、ランガ」
「集中しろ!」パルリは地面を強く踏みしめて叫んだ。「攻撃はあらゆる方向から来る。ゼニヤ、計画どおりにやれ」
ゼニヤは頷いた。目が明るい青に閃く。
パルリは両手を動かし、地中から巨大な石の柱を呼び出した。数十本の柱が円形の陣を組んで現れ、魔物の動きを制限するだけでなく、その動きを探知する感知器の役目も果たす。
「迫りくる死からは、逃れられんぞ!」魔物は大地を揺るがす声で叫んだ。
巨大な爪で石柱を打ち砕き、さらに青い炎を吐き出して、数十メートルの範囲にあるものすべてを焼き尽くした。
パルリはすぐさま、幾重にも重ねた石壁を持ち上げ、その致命的な炎を防いだ。石は、極度の熱で溶け始める。
一方、ランガは影の鷲を呼び出して空から様子を探らせ、同時に影の狼たちを放って、魔物を死角のあらゆる方向から襲わせた。
だが魔物は、あまりに強く、そして経験豊富だった。影の狼たちは数秒のうちに引き裂かれ、黒い煙のように消えていった。
「俺の狼が、五秒以上もったためしがない」ランガは呟いた。汗が流れ落ちる。「この魔物は、並のレベルじゃない」
突然、空が恐ろしく轟いた。
神印を全開にしたゼニヤが、両手を空へ掲げた。巨大な雷が破壊的な力で降り注ぎ、霧を吹き払って、戦場全体を照らし出す。
「ふん、もう隠れられないわよ、醜い化け物」ゼニヤはにやりと笑った。目が稲妻のようにきらめく。
魔物は完全に姿を現した。巨体は全身に傷を負っている。だが、敗北にはまだほど遠い。
魔物は燃え上がる怒りとともに、パルリへ一直線に突進した。その巨体からは考えられない、驚異的な速さで。
ズブッ!
剣のように鋭い爪が、パルリの胸を正面から貫いた。肋骨を砕き、心臓にまで達する。
パルリは鮮血を吐いた。だが顔には、まだ謎めいた薄い笑みが浮かんでいる。
「確かに速いな、年寄りの化け物にしては……」彼は荒い息の中で呟いた。
しかし、まだ力の残る両手で、パルリは自分を貫いた魔物の腕をつかみ、大地の力のすべてを流し込んだ。
魔物の体が、接触点からゆっくりと石化し始めた。腕から始まり、全身へと広がっていく。魔物は、硬く固まる石の殻に閉じ込められた。
「貴様! 貴様も、我とともに死ぬのだ!」魔物は恐慌のなかで吠えた。
パルリは、さらに大きく笑った。口の端から血が流れている。「そうか? やってみなければ分からんさ」
空では、ゼニヤがすでに切り札を用意していた。「雷竜!」
巨大な竜の形をした雷が、光の速さで降り注ぎ、石に閉じ込められた魔物の体を直撃した。爆発が村全体を揺るがす。
ドオオオオォォォン!
凄まじい轟音が、数キロメートルにわたって大地を揺らした。魔物はついに倒れ、体が崩れ始める。
だが、最期の息を吐く前に、魔物はほとんど聞こえない声で言い残した。
「最も深い森の奥……この世界に触れられぬ場所……時の支配者……この世界は……ただの嘘だ……」
そして、静寂が訪れた。
ゼニヤは黙り込み、ゆっくりと手を下ろした。「時の……支配者? あの魔物は何を言ってるの?」
ランガはゆっくり首を振り、腕の傷から流れる血を拭った。「死にかけの魔物のたわごとなど忘れろ。目の前のことに集中しろ」
彼は、胸に大きな穴を開け、血を溢れさせて倒れているパルリのもとへ歩み寄った。
だがそのとき突然、パルリの目が、何事もなかったかのように開いた。
「生き返った!?」ゼニヤが叫んだ。目を見開き、信じられないという顔をしている。
パルリはゾンビのようにゆっくりと身を起こした。胸の穴は、ひとりでに塞がり始めている。息はまだ重いが、重い苦痛の兆候はなかった。
ランガはにやりと笑ったが、その目には感嘆の色があった。「ハハ……お前は本当に変な人間だな、不死のパルリ。お前の再生能力は、どんな知識でも説明がつかん」
パルリは服の埃を払った。「他の者たちはどうなっている?」
ランガは少しのあいだ目を閉じ、影の鷲と交信した。「俺の影の鷲によれば、エリナとサフィラは、南の区画でまだモンスターの群れと戦っている……だが、心配ない。サフィラは、あの程度の下級モンスターには強すぎるからな」
「それで、カーラは?」
「ふん、あの冷たい女か?」ランガは小さく笑った。「もう一人で全部片付けたよ。あの辺りの地形は、何キロも続く氷原に変わっている」
ランガは少し間を置き、薄く微笑んだ。「だが、もう少し離れた別の場所は、氷ではなく、水と血の混じった水たまりが地面を覆っている」
パルリは満足げに頷いた。「なら、しばらく休めるな」
ランガは、粉々になった獅子の魔物の残骸へ歩み寄った。慎重に、一瓶分の血と、まだ原形を保っている肉の塊を採取する。
「それは何のためだ?」ゼニヤが興味深げに尋ねた。
「お前には関係ない」ランガは素っ気なく答えた。「これほど古い魔物なら、きっと面白い秘密を持っているはずだ」
――
別の場所、村はずれの小さな家で……
英雄たちの戦いの雷鳴と爆音が、空を揺るがして響いていた。キンバリー――茶色の髪の少女――は、姉の手を強く握りしめている。
「怖がらないで、キム。もっと安全な場所を探しましょう」姉は囁き、恐怖に震える妹の小さな体を抱きしめた。
父と母の亡骸は、まだ床に冷たく横たわっていた。けれど、二人には悲しんでいる暇さえなかった。
姉は立ち上がり、慎重にドアの取っ手に手を伸ばす。「ここから出なきゃ、その前に――」
ガシャァン!
狼の頭を持つ魔物が、ひび割れた壁を突き破って入ってきた。目は飢えて赤く燃え、牙は濡れて光り、爪は引き裂く準備を整えていた。
「お姉ちゃあああん!!」キムが恐怖に絶叫する。
魔物は稲妻の速さで跳びかかり、爪が姉の体を狙った。
その攻撃は、姉に当たるはずだった……
だがキンバリーは、とっさに湧き上がった守る本能で、姉を突き飛ばし、自分の小さな体でその攻撃を受け止めた。
ザシュッ!
魔物の鋭い爪が、キンバリーの小さな体を貫いた。血が噴き出し、木の床を濡らす。
「キム!! いやあああ!!」姉が叫んだ。恐怖と怒りで、声が裂けていた。
キムは姉の腕の中に倒れ込んだ。体が震え、口から血が流れる。茶色の瞳から、あれほど明るかった光が薄れ始めていた。
「お姉……ちゃん……」声は囁きのようにか細い。「私……怖い……さ……む……い……」
「キム! だめ! 目を閉じないで! お願い、私と一緒にいて……」姉の目から涙が溢れ出した。
キムは、残った力でかすかに微笑んだ。「お姉ちゃん……今度……また一緒に……ウサギを……捕まえようね……今朝みたいに……」
その息は、ますます弱くなっていく。
「私……大好き……お姉ちゃんが……」
そして、胸の上下が止まった。茶色の瞳は、永遠に閉じられた。
「キンバリィィィー!!」姉が叫んだ。その声は、夜の静寂を破って響き渡った。
涙が顔を濡らした。怒り、悲しみ、喪失が、一つに混ざり合い、彼女を打ち砕くような感情となった。
その目が、まばゆい白に輝き始めた――極限のトラウマによって目覚めた力の証だった。体は震えている。恐怖からではなく、煮えたぎる怒りから。
「このクソ化け物!! 私の人生から、全部奪っていった!!」彼女は叫んだ。その声は、もう子供のものには聞こえなかった。
壊れた木の棒を拾い上げ、その小さな体には不釣り合いな力で、狼の魔物に叩きつけた。
だが、魔物が反撃する前に――
木の床から突然、緑の植物が生え出し、驚異的な速さで這い進んで、魔物の全身に絡みついた。太い根がますます強く締めつけ、ついに魔物の骨は砕け、潰れた。
長い緑の髪の女性が、半壊した家の中へ入ってきた。そのオーラは温かく、安らぎを与えた。たった今見せたばかりの致命的な力とは、対照的に。
「大丈夫?」女性は、母のように柔らかな声で尋ねた。
彼女は、すでに亡くなった妹を抱いて泣く少女を見た。冷たくなった小さな体を、涙とともに抱きしめている姿を。
「ごめんなさい……」女性の声が震えた。「遅くなってしまった。もっと早く、ここに着くべきだったのに」
女性は近づき、悲しみに沈む少女を、母のような温もりで抱きしめた。
「安全な場所へ行きましょう。私はエリナ。あなたの名前は?」
少女は虚ろな目で見上げた。涙はまだ流れ続けている。「……アリス」
「アリス」エリナは、少女の頬の涙を拭った。「あなたはとても綺麗な目をしているのね。さあ、ここを出ましょう。妹さんも、あなたがこんなふうに悲しみ続けるのは望んでいないはずよ。ちゃんとお別れをしてあげましょう」
アリスは弱々しく頷き、最愛の妹への最後の抱擁を解いた。
――
数か月後――孤児院
きちんと整えられた小さな墓所。三つの簡素な墓石の前で、アリスは草の上に座り込んでいた。彼女が植えた小さな花々が、咲き始めている。
「キンバリー……」アリスは、真ん中の墓石に語りかけた。声は、前よりずっとしっかりしている。「エリナさんは、私にすごく優しくしてくれるの。孤児院は居心地がいいし、新しい友達もできたよ」
彼女は小さく微笑んだ。目はまだ潤んでいたけれど。
「その中の一人は、エンセイっていうの。面白い子でね、いつもくだらない冗談で私を笑わせようとするの。あなたもきっと、あの子を気に入ったと思う」
アリスはオレンジ色に染まる夕空を見上げた。
「昨日ね、白いウサギを見たの……あの朝に見たのと、そっくりな色だった。とても綺麗だった。あなたがウサギを抱きしめて、あったかいって言ったのを思い出したわ」
また涙が流れ始めた。けれど今度は、悲しみだけの涙ではなかった。
アリスは、キンバリーの隣に並ぶ二つの墓に目を向けた。
「ママ……パパ……私、前に進み続けて、強くなるね。二人が教えてくれたみたいに。二人がくれた命を、無駄にはしない」
彼女は立ち上がり、手の甲で涙を拭った。
「みんなが、そこで幸せでありますように……ママ、パパ……そして、大好きなキンバリー」
夕方の風が優しく吹き、墓に咲く小さな花々を揺らした。まるで、旅立った人たちが、最後に手を振っているかのように。
アリスは墓所を後にした。以前よりしっかりとした足取りで、美しい思い出と、強く生きるという決意を胸に抱いて。
遠くから、エリナが彼女を見守っていた。誇らしさと悲しみの入り混じった微笑みで。幼い少女は、あまりにも重い喪失を乗り越えて、強い人へと成長していたのだ。
――つづく。




