第六章:英雄
十年前――最後の平和な時代
小さな村の近くの深い森は、子供たちの笑い声に満ちていた。二つの小さな人影が、朝日の差し込む木々の間を駆け回り、尽きることのない元気で野ウサギを追いかけている。
「捕まえた! 捕まえたよ!」茶色の髪の少女――キムが叫んだ。たった今捕まえた白いウサギを抱きしめ、顔は幸せで輝いている。「お姉ちゃん、見て! このウサギ、すごくかわいい!」
彼女はウサギの柔らかな毛に頬をすり寄せた。「ぎゅってすると、あったかいの、えへへ!」
姉――ほとんど同い年の少女――は、妹の喜びように優しく微笑んだ。「本当にきれいなウサギね、キム。あなたみたいに」
キムは嬉しそうに笑い、ウサギを抱いたままくるくると回った。その瞬間、世界は完璧に思えた。怖がるものも、心配することも、何もなかった。
だが、その幸せは長くは続かなかった。
突然、村の方角から黒い煙が高く立ちのぼった。悲鳴と破壊の音が、平和な朝の空気に響き渡る。
キムは振り向いた。明るかった瞳が、戸惑いと恐怖に変わる。「あっちで何かあったの、お姉ちゃん? どうして煙が出てるの?」
姉は村のほうを見つめた。顔は不安で満ちている。何かとても悪いことが起きているのだと、本能が叫んでいた。
「分からない、キム。でも、急いで行かなきゃ!」彼女は妹の手を取った。「お父さんとお母さんが危ないかもしれない!」
――
二人は足の限り速く走った。キムの手は、姉にしっかりと握られている。白いウサギは地面に落ち、森へと駆け戻っていったが、キムはもう気にもしなかった。
村のはずれに着くと、恐ろしい光景が目に飛び込んできた。
巨大な狼のような姿、双頭の熊、そして説明のつかない様々な化け物たちが、家々を打ち壊している。村人たちはパニックの中を逃げ惑い、途方もない混乱のなかで恐怖の悲鳴を上げていた。
「キム、家に行くよ! 早く!」姉が命じた。心臓が激しく打っていたが、落ち着いた声を出そうとした。
「お姉ちゃん、怖いよ……」キムは震え、涙があふれ始めた。「あの化け物……恐ろしい……」
「私の手をしっかり握って。私たちは大丈夫、約束する」姉は言った。自分でも、その約束に確信は持てなかったけれど。
二人は、慌てふためく人混みをかき分けて、家へ向かおうとした。だが、小型の化け物の群れが二人の存在に気づき、牙を光らせて追ってきた。
鋭い爪が、キムの頭をかすめそうになった、そのとき――
ゴオオオォッ!
遠くから炎が走り、化け物たちを一撃のもとに焼き払った。灰と埃が舞い上がる。
煙の中から一人の女性が現れた。そのオーラは、生きた炎のように燃えている。髪は燃えるような赤。眼差しは鋭く、それでいて思いやりに満ちていた。
「二人とも、無事?」彼女は尋ねた。声は毅然としていて、温かかった。
姉は慌てて頷いた。まだ呆然としている。「は、はい、ありがとうございます! あなたは?」
「サフィラよ」女性は答えた。小さな炎が、まだ彼女の手のまわりで踊っている。「ここの化け物は、私が片付ける。あなたたちは安全な場所を探しなさい、今すぐ!」
返事を待たず、サフィラは化け物の群れの中へ跳び込んだ。炎が、通り過ぎるすべてを焼き尽くしていく。
――
姉はキムを引き寄せ、村はずれの自分たちの家へ走った。まだ希望はある――お父さんとお母さんは無事かもしれない、家の中に隠れているかもしれない。
けれど、扉を開けた瞬間――
二人の子供は凍りついた。
父と母は、床に倒れていた。血溜まりの中で、息はない。体には、化け物の爪と牙の傷がはっきりと残っていた。
「パパ! ママ!」キムは駆け寄り、しゃくり上げて泣いた。「どうしてこんなことになったの? どうして起きてくれないの?」
彼女は母の冷たい体を抱きしめた。この抱擁の温もりで、母が目覚めてくれるかもしれないと願いながら。「ママ、怖いよ……起きて、お願い、起きてよ……」
姉は戸口に立ち尽くしていた。涙が止めどなく流れる。世界が、一瞬で崩れ落ちた。今朝まで、一緒に森で笑っていたのに。それが、今は……
震える足取りでキムのもとへ歩み寄り、彼女を強く抱きしめた。二人は両親の亡骸のそばで一緒に泣いた。外では、破壊の音が鳴り響き続けていた。
――
別の場所では、混乱がますます激しくなっていた。化け物たちは果てしない波となって押し寄せ、通り道のすべてを破壊していく。
突然、嵐の風が凄まじい力で唸りを上げた。巨大な竜巻が形作られ、化け物の群れに激突し、高く持ち上げてから地面に叩きつける。
銀髪の男――ロイドが、家の屋根の上に立っていた。鋭い青い目が戦場を見渡す。
下から、茶色の髪の男が彼に叫んだ。「ロイド、この一帯の化け物を食い止められるか?」
「俺に任せろ、パルリ!」ロイドは自信に満ちた声で答えた。
パルリは頷いた。「東のほうで、大きな化け物の咆哮が聞こえる。俺は他の連中と、そっちへ行く!」
ロイドは両手を動かし、自分のまわりで回る小さな竜巻をいくつも作り出した。化け物たちは風の渦に吸い込まれ、引き裂かれていく。
「簡単すぎるな」彼は笑みを浮かべて呟いた。
だが、化け物は森から途切れることなく押し寄せてきた。想像を絶する数だ。数十、数百。ロイドは次第に押され始めた。
「くそっ、きりがない!」彼は吐き捨てた。汗が流れ始める。
ロイドの目が辺りを見渡し、燃える家々の中にまだ閉じ込められている村人たちの姿をとらえた。彼らは助けを求めて叫んでいる。
狂気じみた考えが、彼の頭に浮かんだ。
表情が冷たく変わり、彼は両手を高く掲げた。巨大な風の渦が村の上空に形作られ、広い範囲の空気と酸素のすべてを吸い上げていく。
化け物たちは窒息し、次々と倒れ始めた。だが同時に、閉じ込められた村人たちの悲鳴が、家々の中から聞こえてきた。
「助けて! 息ができない!」
「私たちを助けて!」
「うちの子がまだ中にいるの!」
ロイドはその叫びを聞いていた。それでも、顔には後悔の色が少しも浮かばない。それどころか、彼はにやりと笑った。
「ちっ、まだこの一帯に何人か残っていたのか」彼の目が、ひどく冷たくなる。「まあいい。お前たちの犠牲は、俺たちの勝利の一部として記憶されるだろう」
彼は風の渦を維持し続けた。やがて、すべての化け物が――そして、数人の民間人も――窒息して死に絶えるまで。
――
その頃、村の東側にパルリが到着した。大きな化け物の咆哮が聞こえた場所だ。そこでは、二人の仲間がすでに激しい戦いを繰り広げていた。
紫の髪で、雷光のきらめく目を持つ女――ゼニヤが、双頭の獅子のような巨大な怪物の爪をかわしていた。その傍らでは、闇のオーラをまとったランガが、死角から攻撃を仕掛けようとしている。
「ゼニヤ! ランガ! 二人とも無事か?」パルリが駆け寄りながら叫んだ。
「ちっ、この化け物、家みたいにでかいくせに速いのよ!」ゼニヤがぼやく。避け続けて息が上がっていた。
「パルリ、少しの間、こいつの動きを止められるか?」ランガが尋ねた。赤い目が、闇の中で燃えている。
パルリは頷き、地面を強く踏みしめた。巨大な石の柱が地中から現れ、巨獣の足と体を縛ろうとする。
だが怪物は、爪の一振りで、石の拘束をすべて易々と砕いた。
「単純な手は、通用しそうにないな」パルリは呟き、真剣な表情になった。
ゼニヤは二人の仲間を見つめ、神印を発動させた。きらめく雷が全身を包み、目は稲妻のように明るい青に輝く。
ランガも負けてはいない。闇の中から七匹の影の狼を呼び出した。目は赤く燃え、殺意に満ちている。
「終わらせるぞ!」パルリが叫んだ。
その日、「英雄」たちが生まれた。
だが同じその日、すべてを失った何人かの心には、憎しみの種が芽吹き始めていた。
――つづく。




