第五章:「英雄」の限界?
影の中の恐怖
ルデスの質素な家の中で、リナは恐怖に震えていた。敏感な彼女のオーラは、ゼニヤが雷の全力を解き放ち始めたとき、空気を満たす邪悪な力を感じ取っていたのだ。アリスとルデスの母とともに部屋の隅に身を寄せ、心臓は戦太鼓のように打ち鳴らされていた。
ハンは妹の傍らにしゃがみ込んだ。声は優しく、安心させるようだった。「リナ、落ち着け。ここなら安全だ。お兄ちゃんを信じて」
しばらくすると、リナは少しだけ落ち着いたが、潤んだ目にはまだ恐怖が影を落としていた。「お兄ちゃん……あのオーラ……すごく恐ろしい」
ハンは、窓がしっかり閉まっているか確かめて回っているアリスのほうを向いた。「アリス、リナとルデスのお母さんを頼む。俺は外に出て、他のみんなの様子を見てくる」
アリスははっとして、心配そうな目で彼を見つめた。「どこへ行くの? 私……あなたが心配なの。ううん、私たちみんな、心配してる」
ハンは安心させるように微笑み、アリスの肩を軽く撫でた。「心配するな。自分の身は自分で守れる」
そう言うと、ハンは稲妻の閃く夜の中へ歩み出て、三人の女性を家の中に残した。
――
村の広場では、ルデスがゼニヤに立ちはだかっていた。神印が全身を青い炎で燃え上がらせている。その目は赤く燃え、長く溜め込まれた怒りに満ちていた。
「ゼニヤ! 七英雄の一人め!」彼は叫んだ。声は雷鳴にも負けないほど轟く。「俺たちはかつて、お前たちを信じていた! 崇めていた! だが、お前たちはただ権力に飢えているだけだ!」
怒りで息が荒くなる。「お前たちは弱い者を踏みにじる! 辺境の人間を王国に連れていって、恐ろしい人体実験をしている! お前たちは英雄なんかじゃない――聖なる仮面をかぶった怪物だ!」
遠くから、弓を構えたエンセイが、悲しげな目でルデスを見つめていた。怒りとなって溢れ出す親友の痛みを聞き、胸が引き裂かれる思いだった。
ゼニヤは嘲るように笑った。雷が彼女のまわりで踊る。「お前のような小僧に、私たちの何が分かるというの?」明るい青の瞳が傲慢さに燃える。「今まで生きてこられたのは運がいいからよ。十年前、モンスターの混乱からこの国を救ったのは、私たちなのだから!」
「そして今のお前たちは、もっと恐ろしい怪物になった!」ルデスが言い返した。
それ以上待たず、ルデスは炎の剣で斬りかかった。その動きは荒々しく、速く、致命的だった。ゼニヤは稲妻のような反応速度で、自らの雷の剣を使い、一太刀ごとに応じる。
ガキン! ガキン! ガキン!
炎と雷がぶつかり合い、大地を揺るがす小さな爆発を生んだ。
ルデスは数歩押し戻されたが、諦めなかった。「竜怒の剣!」
渾身の力で剣を振り抜く。巨大な竜の形をした炎が、空気を焼きながらゼニヤへと飛んだ。
背後から、エンセイが風をまとった矢を放つ。音速で飛ぶ矢は、ゼニヤの防御の隙を狙った。
二人の連携攻撃は成功した。炎と風が同時に叩き込まれ、ゼニヤは驚愕し、傷を負った。
「このっ……小僧どもが!」ゼニヤが吐き捨てる。口の端から血が流れていた。
――
不意に、ツバサが生きた悪夢のように影の中から現れた。闇の剣が容赦なく振るわれ、ゼニヤの急所を狙う。
ゼニヤは傷を負いながらも、まだ防ぐだけの速さを残していた。だがツバサは、王国への燃えるような憎しみに駆り立てられ、自分の分身をいくつも作り出して、立て続けに襲いかかった。
「お前を始末してやる、偽りの英雄め!」ツバサが叫ぶ。目は怒りに燃えていた。
影の連撃は成功した。ゼニヤは押し戻され、建物の木材の山に叩きつけられる。木材はたちまち崩れ、彼女の上に降り注いだ。
ツバサは剣を高く掲げた。「ここで終わりだ!」
「シャドウ・スラッシュ!」
凄まじい闇の波動が、瓦礫の山へ向かって放たれた。
だがその瞬間、空が轟いた。雷があらゆる方向へ荒れ狂う。瓦礫の中からゼニヤが立ち上がった。体は輝く雷の衣をまとい、そのオーラは何倍も恐ろしくなっている。
「あれは……何だ?」ツバサは一歩後ずさった。力の劇的な変化を感じ取ったのだ。
ルデスは息を切らしながらも、すぐにその力を見抜いた。「間違いない……あれはゼニヤの神印だ」
――
雷が空を揺るがすなか、予想外のことが起きた。巨大な魔力に引き寄せられ、モンスターの群れが森から突如として現れたのだ。彼らは四方から村に殺到した。
エンセイはルデスの家へ走り、風をまとった矢でモンスターを退けた。「この家は、俺が守る!」彼は叫び、果てしなく押し寄せる敵と戦った。
一方、ルデスとツバサは、神印によって格段に強くなったゼニヤと対峙せねばならなかった。
ツバサは憎しみに突き動かされ、休むことなく攻め続けた。だがゼニヤはその一撃一撃を易々と受け止め、雷の波でツバサを弾き飛ばした。ツバサは傷を負い、崩れ落ちた。
「私の神印こそ、お前たちが最後に目にするものよ!」ゼニヤが脅す。目は稲妻のように輝いていた。
ルデスは炎をいっそう激しく燃え上がらせ、残された力のすべてを振り絞って攻めかかった。二人の戦いは周囲のすべてを破壊した。木々は倒れ、大地は裂け、空気は煙で満たされる。
だが、ゼニヤは強すぎた。雷の剣のただ一振りで、彼女はルデスの防御を突き破った。
シャアァッ!
ルデスの神印の炎が、たちまち消えた。彼は血を吐いて崩れ落ち、ほとんど意識を失った。
――
家の中では、状況がますます悪化していた。割れた窓から、数匹のモンスターが侵入してきたのだ。
「きゃああっ!」リナが恐怖の悲鳴を上げる。
アリスは必死の思いで短剣を使い、最初の一匹を仕留めた。手にはかなりの深手を負っていたが。さらに二匹が、牙を光らせて迫ってくる。アリスは、命に代えてもリナとルデスの母を守る覚悟を決めた。
突然、闇の閃光が走り、二匹のモンスターを一瞬で葬った。
アリスははっと息を呑んだ。黒い外套と仮面の人影が、死神のように目の前に立っていた。
「あなた……ラクシャ! 黒い外套の殺し屋!」彼女は叫び、手を震わせながらも防御の構えで短剣を掲げた。「何が望みなの?」
アリスが驚いたことに、リナは、ラクシャをまったく恐れずに見つめていた。その目には、言葉にできない何かさえ浮かんでいた。
「大丈夫よ、リナ。私があなたを守るわ」アリスはそう言い、自分の体でリナをかばおうとした。決意に満ちた目でラクシャを見据える。「殺したいなら私を殺しなさい。でも、この人たちは生かして!」
ラクシャは何も言わなかった。ただしばらくその場に立ち、彼女たちを観察しているようだった。それから素早い動きで、再び影の中へ消えた。
アリスは呆然と立ち尽くした。なぜ、何もせずに去ったのだろう。そして、それ以上に不思議なこと――なぜ、リナは彼を恐れなかったのだろう。
――
外では、ゼニヤが雷の剣を高く掲げ、地に倒れて無力になったルデスを処刑しようとしていた。
「裁きを受けなさい、裏切り者!」彼女は叫んだ。
そのとき突然、ラクシャが稲妻のように現れ、ゼニヤの神印に匹敵する速さで襲いかかった。闇の剣と雷の剣がぶつかり合い、村全体を揺るがすエネルギーの爆発を生む。
二人の戦いは緻密で、致命的だった。ラクシャは完璧な精度で攻守を繰り返し、ゼニヤの動きをすべて、起こる前から読んでいるかのようだった。
「お前は何者なの!?」ゼニヤが怒鳴った。次第に押され始めている。
ラクシャは答えず、ますます激しさを増す攻撃で圧をかけ続けた。
追い詰められたゼニヤは、最後の切り札を放った。「雷竜!」
巨大な竜の形をした雷が、すべてを破壊する力で飛んだ。凄まじい爆発が大地を揺らし、地面に大きな窪みを穿つ。
「ハハ! お前は確かに危険ね! ロイドが負けたのも納得だわ!」ゼニヤが嘲った。
だが、煙が薄れたとき、ラクシャは無傷のまま、すっくと立っていた。周囲では、きらめく氷の盾がゆっくりと溶けていく。
「お前……どうして?」ゼニヤは愕然とした。「私の雷竜は、絶対的な破壊のはずよ!」
ラクシャは何も言わず、闇の剣と炎を組み合わせた攻撃を放ち、ゼニヤの雷の衣を貫いた。ゼニヤは神印を使っていたにもかかわらず、あり得ない属性の組み合わせを前に、押され始めた。
シャアァッ!
ラクシャの斬撃が決まり、ゼニヤに深手を負わせた。胸の傷から血が溢れる。
ゼニヤは残された力で空から雷を呼んだ。ラクシャを回避へ追い込む範囲攻撃だ。その一瞬を利用して、ゼニヤは稲妻の速さで逃げ去った。
ラクシャは追わなかった。ただしばらくその場に立ち、やがて夜の影の中へと再び消えた。
――
遠くから戦いを見ながらモンスターを倒し続けていたエンセイは、ついにすべての敵を片付けた。彼は急いで家に戻り、皆の無事を確かめた。
アリス、リナ、ルデスの母は無事だったが、ルデスとツバサは非常に重い傷を負っていた。二人を家の中へ運び込み、アリスとリナがすぐに傷の治療を始めた。
「時間がかかるわ」アリスは言った。ルデスの傷を癒やす手が青く輝く。「傷がとても深いの」
不意に、ハンが血相を変えて戸口に現れた。「リナ! 無事か? アリス? ルデスのお母さんは?」
「私たちは大丈夫です」ルデスの母が弱々しい声で答えた。「でも、ルデスとツバサさんが重傷なんです。エンセイさんも疲れ切っています」
アリスは疑いの目でハンを見つめた。「あなた、どこにいたの? さっきは、あんなに大変な状況だったのに」
「モンスターから安全な場所に隠れて、村の人たちを誘導してたんだ」ハンは、さっきの慌てぶりとは対照的な、気楽な口調で答えた。
アリスは眉をひそめたが、それ以上追及しないことにした。「あなたが無事なら、それでいいわ。私とリナで二人を治療する。でも、かなり時間がかかるかも」
――
遠く離れた王国の、大理石の柱が並ぶ壮麗な広間。ゼニヤは全身傷だらけでよろめきながら入ってきた。そこでは、二つの人影が彼女を待っていた。長い緑の髪と緑の瞳を持つエリナと、堂々とした体格に金色の瞳を持つパルリだ。
「ゼニヤ! 何があったの?」エリナがすぐに駆け寄り、手を緑色に輝かせて傷を癒やし始めた。
ゼニヤは血を吐き、青ざめた顔でパルリを見た。「パルリ、あんたは……用心したほうがいい。ルデスは……思っていたより強いわ。仲間もたいしたものよ。特に、あの荒々しい闇の使い手が」彼女はまた咳き込んだ。「でも、あんたには信じられないでしょうね……」
パルリは眉をひそめ、金色の瞳を輝かせた。「どうした?」
「あの黒い外套の仮面の男……ロイドを殺した奴よ」ゼニヤは絞り出すように言った。声が震えている。「あいつの力は……桁外れだわ。炎と闇を使うことは分かっていたけど、さっきは……」
ゼニヤは言葉を切った。体が震えている。
「氷も使ったの。それも、ただの氷じゃない。私の雷竜を防ぐほどの氷よ」
エリナが鋭い目で彼女を見つめた。その声には警告がこもっている。「ゼニヤ、言ったでしょう。また民を傷つけたら、もう治療はしないって」
しばしの沈黙。エリナの視線に、ゼニヤは黙り込んだ。その顔には、まだ恐怖がはっきりと浮かんでいた。
パルリは薄く微笑んだ。「面白くなってきたな。気になるよ……」彼は立ち上がり、王国の景色を映す大きな窓を見つめた。「誰が生き残るのか。その奇妙な力か……それとも、俺の不死か」
その夜、王国は悟り始めた。自分たちが、これまで想像したどんなものよりも危険な敵と対峙しているのだということを。
――つづく。




