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第一章:消えた足跡

虐殺の夜から四か月後


朝霧がヴァレンドラの森を包み込むなか、三つの人影が巨木の間を慎重に進んでいた。ルデスは剣を固く握りしめ、動くものすべての影に目を走らせる。隣ではエンセイが矢筒の矢を確かめ、アリスは二人の後ろを歩いていた。


「エンセイ」ルデスが囁いた。寝不足のせいで声がかすれている。「本当にこの道で合ってるのか?」


エンセイは足を止め、くたびれた地図に目を落とした。「確かなことは誰にも分からない。伝説では、生命の水はこの森の奥にあって、竜に守られているそうだ」


アリスは疑わしげに鼻を鳴らした。「伝説、ね。生命の水なんて本当にあるの? 子供を慰めるための、ただのおとぎ話じゃなくて?」


ルデスが振り向いた。その目は怒りに燃えている。「あろうがなかろうが、俺は試す!」声が大きくなり、鳥が何羽か飛び立った。「母さんのためだ。闇の呪いにかかった母さんの。分からないのか、アリス? ここひと月で、大勢の老人が亡くなってる。誰にも治せない奇妙な呪いにかかってな」


アリスは言葉を失い、はっとして何かを思い出した。「待って……そんな呪いをかけられるのは、闇の英雄ランガだけじゃない?」


エンセイは小さく頷いた。表情は暗い。「あの虐殺の夜以来、世界は変わった。もう誰が正しいのか分からない。英雄たちは今も俺たちを守っているのか、それとも気ままに人を裁く神のようになってしまったのか。だが少なくとも、あの中に本物の英雄がいたことだけは確かだ」


「ロイドは殺されたわ」アリスはほとんど囁くように付け加えた。「ラクシャが本当に英雄たちを狩っているなら……私たちの知らない何かを知っているのかもしれない」


ルデスは強くかぶりを振った。「あいつらの政治なんて知るか。俺が気にかけてるのは母さんだけだ」彼は歩き出した。「行くぞ」


二時間後……


茂みの陰からオークの群れが雄叫びとともに飛び出した。ルデスは即座に炎の力を解き放つ。剣が赤い炎に包まれた。


「相手を間違えたな!」叫びながら、最初のオークを真っ二つに斬り裂く。


エンセイは後ろに下がって弓を引いた。矢のまわりで風が渦を巻き、放たれた矢はオークの心臓を正確に貫く。


だが、数が多すぎた。十数体のオークが四方から押し寄せる。


アリスは両手を掲げ、三人の周囲に水の壁を作り出した。「この防御、長くはもたない!」


激戦のさなか、オークの爪がルデスの腕を裂いた。血が滴る。アリスはすぐさま傍らに膝をつき、淡い青に輝く手で傷を癒した。


「次は気をつけなさい」と彼女はたしなめる。


ルデスは息を切らしながら頷いた。「ああ、分かってる」


最後の一体が倒れると、三人は敵の亡骸のそばに座り込んだ。疲れ果てていた。食料は乏しくなり、日も暮れかけている。


「どこか身を隠せる場所を探そう」エンセイが暗くなる空を見上げて言った。


遠く、木々の隙間から、そびえ立つ古い石の遺跡が見えた。


ルデスが立ち上がる。その目が輝いた。「あれだ。ここまで来たんだ。今やるしかない」彼は二人を見た。「入るぞ」


古代の遺跡は、想像していたよりもずっと大きかった。ルーンの刻まれた石壁が高くそびえ、内部の空気は、どこか……生きているように感じられる。まるでこの場所が呼吸しているかのように。


「何かおかしいわ」アリスが囁いた。空気に奇妙な震えを感じ取っていた。


広い回廊に三人の足音が響く。崩れた天井の隙間から月明かりが差し込み、床に砕けたような模様を描いていた。


突然、空気が震えた。


ドオオォン!


巨大な竜が遺跡の天井から舞い降りた。鱗は銀と金に輝き、瞳は燃える宝石のよう。広げた翼は、彼らの視界をすべて覆い尽くした。


イスタロス。


「竜……」ルデスは唾を飲み込んだが、その目は燃えていた。「イスタロス。ここでお前を倒す!」


ためらうことなく、彼の手に淡い紋様が浮かび上がる。神印が発動した。全身が赤々と輝き、筋肉が膨れ上がり、炎の力が何倍にも増していく。瞳は血のような赤に染まった。まるで戦いに飢えているかのように。


だがアリスには分かっていた。この状態は、ルデスの体力を根こそぎ奪い尽くす。


ルデスは燃える剣を手に突進し、不死鳥のように空を焦がす攻撃を放った。巨大な鳥の形をした炎が、イスタロスめがけて飛ぶ。


竜はその巨体に似合わぬ優雅さで身をかわし、氷のブレスで反撃した。大地が凍りつく。


「エンセイ、今だ!」ルデスが叫ぶ。


風をまとった矢の連射が放たれた。一本一本が槍のような威力だ。しかしイスタロスは炎のブレスで応え、矢は一瞬で消え失せた。


ルデスは決意に突き動かされて斬りかかる。炎の剣がイスタロスの体の上で舞うが、竜は耐え、苦もなくかわし続けた。


アリスは水の盾で皆を守ろうとしたが――


イスタロスが消えた。


「どこだ!?」エンセイが慌てて振り向く。


ガァン!


巨大な爪がエンセイを打ち据え、壁まで吹き飛ばした。口から血があふれる。


「気をつけろ! あの竜、姿を消して影の中を動けるぞ!」彼は血を吐きながら叫んだ。


ルデスは人間の炎と化した体から、凄まじい熱波を放った。遺跡の温度が急上昇し、イスタロスは透明化を解いて再び姿を現さざるを得なくなる。


だが、それでも力は足りなかった。


ルデスの神印が薄れ始める。体がふらつき、汗が噴き出す。イスタロスの爪が、その首めがけて走った。


ガキィン!


アリスが前に飛び出し、砕けかけた水の盾で巨大な爪を受け止める。


「やめよ!」


イスタロスの声が遺跡中に轟いた。竜は身を引き、彼らを見つめた。そこにあったのは……好奇心だった。


「お前たちはここにいるべきではない、若者よ。何を求めてきた?」


ルデスは息も絶え絶えに、残った力で答えた。「俺たちは……お前を……生命の水のために……狩りに来た!」


イスタロスは笑った。大きな笑い声が遺跡に満ちる。


「ハハハ! 生命の水だと? ただのでたらめな噂だ! ここに生命の水などない、愚かな小僧め。すべての伝説が真実とは限らん。時には、あまりに無邪気な者を罠にかけるために、物語が作られることもあるのだ」


ルデスの世界が、一瞬で崩れ落ちた。「そんな……嘘だ……」


アリスは神眼を使った。他者の力の大きさを見抜く能力だ。だが、そこで見たものに、彼女は青ざめた。


「今すぐ逃げなきゃ!」彼女は慌てて囁く。「あの竜の力は大きすぎる。勝てないわ!」


エンセイは傷を負いながらも、竜巻を起こしてイスタロスの視界を遮った。「走れ! 今すぐだ!」


三人は遺跡から駆け出し、まだ笑い続けるイスタロスをあとに残した。


一時間近く、休まずに走り続けた……


ルデス、エンセイ、アリスはようやく小さな遺跡で足を止め、へとへとになって座り込んだ。息は上がり、汗が流れ落ちる。


「ない……」ルデスが地面を殴った。「生命の水なんて、ないんだ。全部……無駄だった」


アリスは彼の隣に座り、背中をさすった。「別の方法を探しましょう、ルデス。きっとあるわ――」


シュッ!


木の陰から短剣が飛来し、エンセイの首をかすめた。彼は反射的にかわし、すぐに自分の短剣を抜く。


目にも留まらぬ動きで、一つの人影が木の上から飛び降りた。驚異的な速さだった。


「くそっ!」エンセイは短剣と風の操作を組み合わせて反撃し、空気の刃を生み出す。


だが襲撃者はあまりにも速かった。影のように動き、闇の力でその体は煙のようになる。


ルデスは再び神印を発動させようとしたが、アリスがその手を押さえた。


「だめ! あなたの体はもたないわ!」それから襲撃者に向かって叫ぶ。「あなたは誰!? 私たちに何の用!?」


人影は動きを止め、短剣を構えた。冷たい目が彼らを見据える。


「ツバサだ」声は平板だった。「そしてお前たちは……王国の者だな」


その目がルデスに向かって細められる。「神印。一部の『英雄』が使うものと同じだ」


アリスは慌てて首を振った。「待って! 私たちはそんなのじゃない! ただの市民よ」彼女はルデスを指さす。「私たちは、この人のお母さんを治すために生命の水を探しに来たの。でも、そんなものは存在しなかった」


「信じてくれ、俺たちは王国とは何の関係もない」エンセイも武器を下ろしながら付け加えた。


ツバサは感情のない顔でしばらく彼らを見つめ、やがて短剣を下ろした。


「今のところはな」そして茂みのほうを向く。「ハン様、出てきて構いません」


影の中から、二つの人影が現れた。黒髪の青年――ハン。そして、愛らしい笑みを浮かべた少女――リナ。


ハンはほっと息をついた。「ふう、見誤ったかと思った。やっぱり王国の人間じゃなかったんだな」


リナがくすくす笑う。目がきらめいていた。「お兄ちゃんの勘、めったに外れないんだよ、えへへ。ごめんね、さっきからずっとつけてたの。神印を持ってる人には、慎重にならないといけなくて」


アリスは三人を見つめ、興味深そうに言った。「あなたたち、森の中で生き延びることに慣れてるみたいね」


ツバサは答えない。ただ黙って短剣の血を拭っていた。


ハンは慎重に口を開いた。「俺たちにはそれぞれ、王国を避ける理由があるんだ。ただ、特別な力を持つ人間を、簡単には信用しないようにしてる」


エンセイは小さく頷いた。「どうやら俺たちはみんな、今の……体制に問題を抱えているようだな」


リナはうつむいた。「とにかく、世界はもう安全じゃないよ」


ルデスは目の前の小さな焚き火を見つめた。「母さんはまだ死にかけてる。それなのに、俺はもう何を探せばいいのかも分からない」


ツバサは立ち上がり、彼らに背を向けた。声は冷たい。「明朝、発つ」


それ以上何も言わず、彼は離れて、一人で木の下に腰を下ろした。


「私たちはみんな」アリスがゆっくりと言った。「想像していたよりもずっと大きなゲームの、犠牲者なのかもしれないわね」


その夜、星空の下、さっきまで見知らぬ他人だった六人は、小さな焚き火を囲んで座っていた。それぞれが傷と、同じ問いを抱えて。


本当に悪いのは誰なのか。そして、正しいのは誰なのか。


――つづく。


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