第二王子との出会い②
流石は王城のケーキね。めちゃくちゃ美味しいわ。ここまで美味しいのは前世も含めて初めてかも。
いくらでも食べられそうだと四皿目を完食したところで誰かに見られている気配がする。
「ん?」
ゆっくりと視線を感じる方向を見るとルードルフが立っていて一瞬思考が止まった。
何故こちらに来ている。一体いつからそこにいたのか。
もう他のご令嬢達に挨拶を終えたのかと見ると周りからは名残惜しそうな視線を向けられていた。
どうやら話し足りなかったらしい。
ゆっくり話をしてあげたら良かったのに。
考えているとルードルフから声をかけられる。
「美味しかったですか?」
「え?」
「ケーキですよ。ずっと食べていましたよね」
これは王子である自分がいるのにケーキに夢中になるとは馬鹿にしてるのかと叱られているのだろうか。
花より団子ならぬ王子よりケーキだったけど。馬鹿にしたつもりはない。
「美味しかったですよ」
表向きは笑顔で、内心では煽るように返した。
王妃様がルードルフの意思を本当に尊重するのなら彼が私との婚約を望まない限り私の破滅は防げるだろう。そして悪い印象を残しておけば婚約を申し込もうという気持ちにはならないはず。
「そうですか…」
「美味しすぎてすっかり夢中になっていました。殿下がお近くに居る事にも気づかず無礼な態度をとってしまい誠に申し訳ありません」
立ち上がり、スカートを摘まんで膝を折り頭を下げた。
ケーキに夢中になっていたのは事実だし、それが王子に対する無礼だという事も分かっているので謝罪はする。不敬罪だと言われたくないので。
「気にしなくて良いですよ。近くにいたのに声をかけなかった私も悪いですから」
「ですが…」
「それよりもお名前を伺っても良いですか?」
名乗る事を忘れていた。
慌てて淑女の礼をとって名前を告げる。
「お初にお目にかかります。シーラッハ公爵家の長女クラウディア・フォン・シーラッハでございます」
「シーラッハ公爵の娘…。叔母上の娘さんでしたか」
この世界には貴族の名前と姿絵が載った貴族図鑑という物が存在している。しかし貴族図鑑は成人を迎えないと載せてはいけない決まりとなっている。
例外は王族だけ。
故に血の繋がりを持つ従兄妹であろうとルードルフが私の顔を知らないのは当然の事だ。
「お会いできて光栄ですよ、クラウディア嬢」
「こちらこそ光栄でございます、ルードルフ殿下」
会いたくなかったですけどね。
「ところでクラウディア嬢はどんなご趣味をお持ちなのですか?」
ルードルフが尋ねた瞬間、彼の後ろに見えた令嬢達が目を丸くした。
よくある普通の質問だと思うけど彼女達は変な質問でもされたのだろうか。聞いてなかったから分からない。
「最近は本を読むのが好きです」
「最近読んだ本の題名を伺っても?」
「殿下に言うのは憚れる物なのですが…」
「それでも構いません」
これは面接ですか?って聞きたくなる。
本当に言うべきではないと思うけど答えろと言うなら答えるしかなさそうだ。
「屋敷にある図書館で読みました『逆賊のアリーセ』です」
周囲に聞こえないように声のボリュームを落として答えた。
当たり前だ。
私が出した本の内容は腐り切った国相手に大喧嘩を売る平民少女アリーセの奮闘話。
王族の臣下である貴族は絶対に読まない代物だ。
タイトルで予想がついたのか、最初から知っていたのか、それとも別の理由によってなのか。
ルードルフは折角の綺麗な顔を微妙な表情に変えた。
「それは面白い本なのですか?」
「私は面白いと思いました。ただ男性の方には向かない内容かもしれません」
アリーセの奮闘話でもあるが敵であるはずの王子との恋愛話も見所なのだ。
どちらかと言うと女性向けの話だと思う。
「そう、ですか…」
どうしたら良いのか分からなくなっているルードルフに対して礼をする。
はい、もう話はおしまいよ。嫌いになったならさっさと他に行ってちょうだい。
そんな気持ちを込めた礼だった。
「さっ、他のご令嬢達がお待ちです。行ってあげてください」
声の大きさを戻して周囲に聞こえるよう進言する。一瞬にしてご令嬢達の落ち込んだような表情は明るいものに変わっていく。
「………また会いましょう、クラウディア嬢」
「お会いできる日を楽しみにしております」
出来る事なら次に会うのは貴方とヒロインがくっついた後が良いのですけどね。
貴族としてそれは無理だと分かっていながらも願ってしまうのだ。
他の令嬢のところに向かうルードルフを淑女の礼で見送った。
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